男たち、野獣の輝き

旧映画ブログです。

Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『THE GREY 凍える太陽』★★★1/2

前半は百点満点

ジョン・カーナハンと言えば『ミッション・インポッシブル3』を蹴った男として名高いが、それで分かるように世渡りの巧い方ではないようです。初めて彼の映画を観たのですが、強烈なぐらい媚を売らないスタイルが清々しいほどでした。

飛行機が極寒の地で墜落し、生き残った人間に狼の群れが迫る

見事なまでの一行プロット。

ただし、映画会社に媚びへつらうようなクリエイターというのは一行プロットの底力を信じられないので、あれこれ枝葉を設けて、観客を退屈させないよう救出側などを描いてシーンを交錯させるようにする。勿論それは一本のプロットだけを押し切る力量が無いから逃げているだけなのですが。

したがって、この手の映画を生き残った人間たちだけに絞って組み立てるのは非常に演出家や脚本家には力が要求される。なのに、まあカーナハンは脚色までこなして思わず笑ってしまうぐらい「真面目」に一行プロットを守りぬく。

そして、この姿勢を支えるソリッドなまでに徹底したシリアスな演出で主人公たちに襲いかかるありとあらゆる困難と恐怖を描いていく。

これはもう個人的には強烈に好みの演出スタイル。

まず最初の困難である墜落描写が異様なほど上手くいっている。まず、登場人物たちに寄り添った演出スタイルを貫いているので、徹頭徹尾外からのカットが入らない。常に機内にカメラが備え付けられ、パニックに陥っていく描写も主人公の視線でのみチラチラと描かれる。映画館の椅子がエコノミーシートの椅子に似ているせいもあって、ただ事じゃない臨場感を叩きつけてくる。

墜落してからの強烈な極寒描写も容赦なく、その後に続く「死」の描き方も妥協無く観客の肝を冷やし続ける。


「動物モノ」としても群れで襲ってくる狼たちの描写が恐ろしく的確で、取り囲まれて目だけが光り始めたり、遠吠えの白い息だけが狼煙のように幾筋もあがるなどのクールさは近年あまりお目にかかれない巧さ。

「狼」という死のメタファーに追い詰められながら、実際には悪趣味なほどバラエティーに富んだ「死」が生存者たちに襲いかかってくるというのもサバイバル物ならでは。

ただ、この映画の欠点は「自然体人間」「神の救済」などのクソ真面目なテーマを突き詰めすぎていること。それはそれで最高に納得の行くものに昇華されているのだが、実際にはそういう深刻なテーマは高尚のように見えて、実際にはありきたりのものに過ぎない。なので、そういう部分に引きずり込まれている後半部分は個人的には退屈だった。

・・・

リアム・ニーソンのキャスティングが本当に素晴らしく、総てのシーンで彼の説得力のある芝居と身体つきが映画のグレードを上げている。最初は若い俳優にやらせるつもりだったようだが、ニーソンにして大正解。

他の役者たちも、サバイバル者のお約束通り「誰が死ぬか分からない」緊張感を見事に味わえる。

寒々として映像を延々と美しく撮り続ける日本人撮影監督マサノブ・タカヤナギの仕事も絶品。あれだけ白と黒(それこそグレイだ)の色彩を使って映像を構築するのは大変な苦労だったと思う。

特筆すべきはサウンド関連。先述した墜落シーンの緊張感溢れる音設計もハイライトだが、狼たちに取り囲まれる恐怖感や、極寒の肌に突き刺さってくるような音が全編常に素晴らしい。要所々々で観られる音の出し入れのタイミングも、心臓をグっと締め付けられる絶妙さ。

ジョン・カーナハンの演出は実によく分かっている巻が強いだけに、エンタメ路線であろう『特攻野郎』の方も観てみて、器用なのか真面目なのかを判断してみたい。

個人的にはもっともっとこういった不器用なスタイルを突き詰めて欲しいとは思う。


・・・

まったく同様のプロットにデビッド・マメット脚本の『ザ・ワイルド』という映画がある。

ザ・ワイルド [DVD]

こちらはアンソニー・ホプキンス演じる博覧強記な実業家が山奥で墜落事故にあい、人喰大熊から逃れながらサバイバルする。こちらもシリアスなスタイルとクマの恐怖が堪能できる良質なサバイバル物。