男たち、野獣の輝き

旧映画ブログです。

Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

ドーン・オブ・ザ・デッド★★★1/2

傑作。

トム・サビーニ監督の「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/死霊創世記*1も傑作でしたから、ロメロ・ゾンビ三部作のリメイクは今のところ外れがないという恐ろしいほど凄い事になってます。こうなったら「死霊のえじき*2をリメイクして、ぜひコンプリートしてほしいですね。(相対的には成功率が一番高いと思うんですけどね。ははは)

<以下ネタばれ>



オリジナルの「ロメロ版ゾンビ」*3
の最大の魅力は「ショッピング・モールに閉じこもる設定」だと思いますが、脚本のジェームズ・ガンはそこを外すことなく、独自のアプローチをたっぷりと詰め込む離れ業を見せてくれました。あれだけの傑作をリメイクする場合、当然色々な制約を強いられると思うのですが(オリジナルを愛していればいるほど)、立派な仕事をしたと思います。

ボクが一番このリメイクで重要だと思うのは、「冒険活劇」としてのバランスのとり方です。

オリジナルはホラー映画(ゾンビ映画)の枠の中に「冒険活劇」の要素を取り入れている点が大好きで、この作品ではそれをもっと強化する方向です。

ボクは「冒険活劇」としての要素がオリジナルの多々ある魅力の中でも大好きだったので、こちらをメインにするアプローチは好みに合っているわけです(ですから否定意見の一部も納得できる)。


では、この作品オリジナルの面白さと良さを書きたいと思います。


○プロローグ

色々なところで書かれているとおり、冒頭の約10分は素晴らしいです。じわじわと事態が進行中であることをスマートに展開しつつ、朝を迎えると世界の終わりが始まる。
オリジナルでは「すでに始まっている」という荒業(しかし、最高です)で魅せてくれましたが、ここでは狂言回しとして機能するヒロインに寄り添う事で世界への没入をオーソドックスに展開させる、「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド*4に近い手法で、車がクラッシュするのも同様です。

最初に登場するゾンビが、隣の家の娘なのも絶妙で、あれが自分の娘だとヒロインの行動が制限されるはずです。「少女から始まる」という掴みを活かすためによく考えてあることが分かります。(自分の娘だと旦那を噛み殺したぐらいで廊下へ突き飛ばすなんて母親の行動として納得力がなくなります。旦那はあくまでも他人ですが、子供は血縁ですからね)

ドアが開いても娘のシルエットにピントを合わせなかったり、ゾンビと化した旦那の眼のメイクが素晴らしい。

ホラー映画は怖くないといけない。その点この映画はゾンビがちゃんと怖いです。「走る」事に関してはオリジナルとの相違として意見の分かれているところですが、この映画が「活劇」に比重を置いている以上この選択は成功していると思います。というよりも、この映画の最大の魅力はこの「走るゾンビ」だと言っても良いでしょう。
ゾンビというモンスターの魅力は今まで人間だったのに襲ってくることと、カニバリズム=捕食されるという原始的恐怖が一体化したところでしょう。食われるだけでも怖いのに、それがついさっきまで身近にいた同種族なんですから極まってます。(「殺される」んじゃなくて、「食べられる」から怖いというのがボクの持論です。だから「ザ・チャイルド*5は傑作ですが、食べればもっと怖いと思うわけです。)

ヒロインを演じるサラ・ポーリーが非常に上手くて、旦那が噛まれたときのナースらしい応急処置に加えて、パニックに陥る芝居が絶妙です。

死に物狂いで外に飛び出した際の、阿鼻叫喚のパンニングは予告でも効果的でしたが、本編で見るとその「終わりの始まり感」が素晴らしく効果的です。オリジナルではテレビ局という設定を使って俯瞰的に描写をしていましたが、リメイクではこのパンニングで、近所どころかそこら中で同じことが起こったのだと観客に直接訴えかけて、より世界観への没入を端的に促しています。

一番怖かったのは、車で逃げるヒロインを全速力で追ってくる旦那ゾンビが、近くにいた別の人間を見つけるや一目散にそちらに目標を切り替えるショット。車載カメラを使った不気味な固定感も素晴らしいですが、ヒロインの運転する車の後ろで1カット処理されるその一連の行動が個人的にものすごく恐怖を感じました。旦那ゾンビの「食べたい」という衝動を感じさせる絶妙な表情と(素晴らしい芝居)、誰でも良いんだという通り魔的な恐怖が一体となっていて怖いです。鬼ごっこで、別の奴を追っかけていた奴が自分に矛先を変えたときに感じた恐怖はこれなんだなと分かりました。

バスの中で食われる人間を血まみれのウィンドウ越しに直接描写しないショットも、R指定をあざ笑うかのように効果的な恐怖を引き出しています。

○タイトル・ロール*6

圧縮画像特有のブロックノイズや、アナログビデオのブローアップによるのっぺり感などを多用した不気味な映像を使って世界の状況を交え、スタッフ・ロールは血のにじむような処理。現代的なアプローチだと思います。好みではありませんけど。

○モールへ

オリジナルと違って、警察官とであったヒロインは、夫婦とさえない風貌のマイケル*7が仲間になってすぐにモールへ行きます。
このあたりのまとめ方は笑っちゃうぐらいです。車から出るヒロインにショットガンを突きつける警官。ちょっと歩くと夫婦とマイケルに出会って、その土手を越えるとモールが見える。場面転換が一切ない直球ぶりは凄く好感が持てます。無駄がないとはこのこと。

○モールで

さて、モール(クロス・ロード・モール)に侵入した一行。マイケルの冷静な提案でモール内の探索。

ヴィング・ライムズ(「パルプ・フィクション」のマルセルス)がマッチョで無口の警官なのですが、それに対してマイケルは七三分けのひ弱なタイプです。マイケルは一見オリジナルでいうところのスティーブン*8の役回りかと思わせて、実は冷静で的確で合理的な判断を下せるリーダーとしての素質を開花させていくのが素晴らしかったです。中盤のディナーのシークエンスで、転職を多くしていることや、夫としては駄目だが、父親としては自信があったと悲しそうに語る(このことで彼の家族の事が……)ところも含めて、彼のキャラクターがこの作品に与えた功績は大きい。

探索では用具室を開けると、すかし無しでむさぼるゾンビが振り向いて、マイケルに襲い掛かる。マイケルもマイケルで鉄のバールをわざわざゲートボールのスティックに持ち帰る。鉄のバールは「ナイト・オブ…」で主人公の黒人が最初に持っている伝統的対ゾンビ武器(新旧同じ)、これをわざわざ持ち替えてまでやりたかったことは、オリジナルのドライバー耳刺しへのオマージュである折れたスティックで喉からの脳天抜き。オリジナルへのストーカー的な愛情を感じる。

すかし無しでむさぼるゾンビの振り向きは、カプコンの傑作ゲーム「バイオ・ハザード」の有名な初ゾンビ登場シーンへのオマージュか?

ここらあたりからフィルムの銀残し処理が極端になってくるが、計算かどうかは不明。

二階に逃げ込むとセキュリティ三人組に銃を突きつけられて強制的に仲間に。ここらも「ナイト・オブ…」を髣髴とさせる。ただ、内ゲバの要素は必要最低限で、この三人組も一人は裏切って主人公グループに寝返り、一人は食われる。そしてもう一人重要なC.J.という役名のリーダーは憎まれ役ながら最後は美味しいところを持っていくという典型的な活劇キャラだ。

○更なる仲間

オリジナルは主要登場人物が4人だけだったが、この作品ではさらにメンバーの増員がある。しかも結構多い。

*寝るので続きはまた今度。

*1:ロメロのオリジナルをトム・サビーニ監督でリメイクした傑作。脚本をロメロ自身がリライトしている点も非常に重要。ゴア・シーンがオリジナルよりも少なく、ほとんどないのも特徴。

*2:ロメロ・ゾンビ三部作の(今のところ)完結編。DVDなどで現在流通している「最終版」は間違っても観ないようにしましょう。最悪なので。

*3:「ゾンビ」には大きく分けてアルジェント版とも言えるイタリア公開版とロメロ版とも言えるアメリカ公開版があります。このリメイク版はアプローチとしては「アルジェント版」に近いものがあります。ははは。ただ、ボクは断然「ロメロ版」支持者であり、それもディレクターズ・カットではなくCICビデオから発売されていた127分バージョンの支持者です。最初に見たのがそれだから仕方がないんですが。

*4:ロメロ・ゾンビ三部作の一作目。名作中の名作。言うのもはばかられるが、DVDなどで発売されている「最終版」は絶対に観ないようにしましょう。「修復版」はOKです。

*5:スペイン映画で「ナイト・オブ…」の亜流の中でも傑作のひとつ。「子供」「理由なし」「後味の悪さ」「明るい天気」などなど、語るべき点は数多い。

*6:カイル・クーパー

*7:ジェイク・ウェーバー一世一代の好演。「ジョーブラックによろしく」のイヤな奴だったのに。「U-571」ではちょっといい奴でしたけど。

*8:ヘリ坊や。ほとんど余計なことしかしない上に役に立たない逆説的に美味しいキャラ。演じるデヴィッド・エンゲはギャラが一番高いだけあってこの世でもっとも上手いゾンビ芝居を披露。というよりもゾンビそのもの! 人間からゾンビへの変更役で彼ほどゾンビになりきった役者も居まい。その人間臭さ0%ぶりは圧巻。