男たち、野獣の輝き

旧映画ブログです。

Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『セッション』★★★★

下にお菓子なんぞ落ちてないぞ! 顔を上げろ! 俺を見ろ!!

"What are you... there's no fucking Mars Bar down there, what are you looking at? Look up here, look at me."

子供の頃からずっと映画を観ていて達した結論の一つとして、「映画が一番近い芸術は音楽」というのがあります。もちろんそんなことを思うには「音楽」に対しても同じぐらいかそれ以上に接していないといけないとは思いつつ、そこは半可通の戯言として。ただ、黒澤明も同じようなことを言っていて、「やはりな」とニヤニヤしていたことだけは自慢気にここに書いておきましょう。

よく書いていることなんですが、映画に「ストーリー」とか「テーマ」とかを求めるのは(どちらも大切だということは言うまでもないこととして)あまり正しい鑑賞姿勢とは思いません。

ただ、画面を眺め、音に耳を澄まし、編集に心を委ねればいいのです。

期待以上の面白さだった今回の『セッション』

音楽を聴いている時と同様(この映画の場合JAZZ)、映像やサウンドやカッティングが、そのまま音楽のような「テンポ」&「リズム」で刻まれていく様は圧巻としか言いようがない。

監督と脚本のデミアン・チャゼルの方向性は完全に決まっていて揺るぎなく、撮影のシャロン・メールはそれに応えた薄暗く濃厚なウイスキーの様な映像を作り上げ、編集のトム・クロスは常にフレッチャーにどやしつけられるように「ファッキン・テンポ!!!」「技術はいいからリズムを守れ!」と切れまくりのカッティングを披露する。


そして役者陣。J・K・シモンズの作り上げたフレッチャー教授というクソ野郎と、マイルズ・テラー演じる童貞バカの、文字通りセッションともいうべき「罵り、罵られる」全編の構造がとにかく最高なのです。珍しく邦題が的確だったことに驚きを隠せないぐらいです。

ありとあらゆるバリエーションで主人公(周りの人間も)罵りまくるフレッチャー教授に、これまたありとあらゆる態度で応える主人公(達)との緩急自在な応酬が観ていてとにかく緊張感満点でたまりません。

秒針単位の時間厳守で教室に現れる教授からしてビリビリきまくりで、ハートマン軍曹のように怒鳴り散らすだけではなく、甘い態度で心を開かせておいてそこに椅子を投げつける!!

この巧みな罵り芸のなんと見事なことよ。ハートマン軍曹が実は仕事でやっているだけ(もちろん好きでやっているのは明白だけど)なのに対して、フレッチャー教授の微に入り細を穿つ極クソぶりの徹底感は、映画の作劇そのものを通して我々観客まで大きな振り幅で揺さぶられる。「結局いいやつなのか悪いやつなのかどっちなんだよ!!??」とミスディレクションの連続で観ている方は常に学生たちと同様の緊張感を強いられる。


そこで迎える、あの圧倒的なクライマックス!!


<ネタバレ>


「俺をナメるな密告野郎」

大舞台を用意しての大胆かつ陰湿極まる手口で主人公に対して決定的なダメージを与えてどん底へ突き落とすフレッチャー。そして、すごすごと舞台袖の父親の元へ戻り抱擁される主人公。しかし!!!


そこで踵を返した主人公は、英雄伝説の英雄よろしく何もかも失った上で、ついにその大舞台へ自ら足を踏み込んでいく。


この映画の巧みなところは、主人公のアンドリューに対しても観客の同情を拒絶していることです。ちょっと褒められれば図に乗る、図に乗れば高慢になって可愛い彼女を捨てる、いきなり遅刻する、挙句に遅刻する、結局みんなに迷惑をかける、密告する、調子に乗って図に乗る、果ては振られるw

このアンドリューという人物像を軸に、ひたすら甘やかす父親(エイリアン2のバークね!)と、ひたすら恐ろしい教授を配置することで、逃げるのではなく立ち向かうことの尊さがクライマックスに収束していく作劇の素晴らしさ。


そのカタルシス(という言葉以外に何があるのか!)が頂点を迎えるクライマックスのドラムソロからの映像と音声の視線の応酬!!


「合図は出す!」


ただただ言うことを聞くだけだった主人公が、ついに自分の言葉で教授に指示を出す。


教授も憎悪を超え、上着を脱ぎ捨てて芸術に対峙する。


この二人のセッションが音楽的官能と映像的興奮をミックスアップしていき、完全に頂点に達した瞬間ズバンと映画の幕が降ろされる!


そのままスパ!っとエンドクレジットに雪崩れ込む瞬間の恍惚。


これぞ「映画」だな! と堪らない満足感を得られる瞬間です。


周りの人間のくだらん話をビタっと止たいと思っている人や、愚にもつかないことばかり言う人間に椅子を叩きつけてやりたいと思っている全人類必見のオススメ映画です!!!


TURN MY PAGES, BITCH!

Get the fuck off my sight before I'll demolish you!

Terence Fletcher: Andrew, what are you doing?


Andrew: I cue you!