男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『のぼうの城』★★★1/2

意外な超大作時代劇

原作者の和田竜が本来脚本として書いた本作を「ノベライズ」として小説化して先に発表。ベストセラーになったために改めて「映画化!」という企画。ただ、恐らく本来のオリジナル脚本による映画化だった企画ではこれだけの大作として作るのは不可能だっただろうし、興行的な成功も難しかったのではないかと思うので、改めて現代日本映画興行の難しさも感じる。

本来の企画で監督だった犬童一心に加えて、特撮シーンをふんだんに用いることを前提として樋口真嗣が共同監督としてクレジットされている。彼自身の監督作品はまったくといっていいほど評価できないが、今回は本来の特技監督としての手腕を遺憾なく発揮しており、本編の共同監督としての演出のすり合わせもできているので、共同監督という日本では珍しい形態も成功している。

一つの攻城戦を145分かけてじっくりと描くというコンセプトは見事に成功しており、枝葉は極力刈り込み舞台も城の周りだけに絞り込んでいるのも上手くいっている。

〈スポーツ感覚としての『戦』〉という斬新かつリアリティあふれるアプローチを、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』から正しく継承発展させている点でも素晴らしい。もっとも、元々の脚本は同映画公開よりも前に城戸賞を受賞しているので、こちらが先行していたとも考えられるが。

まあ、映画としては同映画を実写化リメイクした某作品とは月とスッポンといってもいいぐらい格が違う。


シネスコサイズの画面を効果的に使った演出の数々が素晴らしく、中でも意に反してのぼうが戦を決意し、軍師たちが別室で説得するシーンが傑出している。元々降伏に納得していなかった面々がのぼうに賛同してその気になっていき、最後の最後に佐藤浩市が「やっちまうか」と笑い始めるまでをFIXの長回しで捉える。最近の映画だとカットを割ってしまいそうなシーンなのに、視点誘導はシナリオと役者の芝居にまかせ、視点の移動は観客に委ねられている。もちろん上手くいっているので、カットを割らなくても観ている方は自然に佐藤浩市に段々視線がいくし、最終的には一同を見回すこともできる。加えて、佐藤浩市が逡巡しているところでは他の面々の顔を自由に観ることができる。これぞ映画だと嬉しくなるようなシーン。

櫓にのぼって敵陣を見るカットでも、シネスコいっぱいに松明の蠢く光景が視界いっぱい広がる。この迫力もたまらない。

また、城内の暗部表現も最近の映画とは思えないほど秀逸な照明設計が施されており、蝋燭の光だけを意識したコントラストと橙色系の色設計が素晴らしい。武士たちの汚れた顔面や黒ずんだ鎧などの美術もそれによって映えている。シネスコのフレーム内2/3が沈み込んだ黒味というゾクゾクするようなカットも続出するが、映画館のスクリーンではキチンとその暗部も再現されていて唸らされる。

キャストでは佐藤浩市の流石とも言える安心感や、出ているだけで惹きつけられてしまう山田孝之も素晴らしいが、山口智充の存在感が実に良かった。体格の良さとよく通るいい声によって、実に荒くれ武者の説得力が満点だった。

主役の野村萬斎も群像劇とも言える役者たちの中でやはり独り異彩を放つことに成功しており、白けてしまいそうなコメディ芝居をギリギリの落とし所で魅せてくれる。

それに対して上地雄輔は損な役回りと言わざるを得ず、彼自身のことはほとんど知らないまでも、周りに食われまくっているのが目も当てられない。ヒロインの榮倉奈々という人も「あの人は人間ですか?」と言われるには美貌に説得力がない。


公開が一年延期になる原因となった「水攻め」のシークエンスは、樋口真嗣の思惑通りミニチュアを駆使したスケール満点の出来になっており、観ていて「いい気分はしない」という意味でも大成功といえる。

ただ、クライマックスであるはずの水攻めシーンの後に割りとシーンが続くので、作劇のバランスとしてはちょっと首を傾げつつも、車で走り回ったり、お泣かせ路線にいかれてもたまらないので、あれはあれで上手くいっているのだろう。もともと合戦シークエンス自体を前半部分に集中していることからも、アクション映画というテンプレートでもないわけで、やはり「攻城戦」という一つのドラマを描いているのが成功の要因だと思う。エピローグをストップモーションとナレーションで処理しているのも気持ちのよい余韻を生み出している。

本当に、最近の邦画の悪しき風潮である「お泣かせのお仕着せシーン」がまったくないのはポイントが高すぎます。これだけでもこの作品は評価されるべき。

エンドクレジットの「現代の様子」は『シンドラーのリスト』同様居心地の悪さを感じてしまうが、実際に行われた合戦だったのだという単純な驚きと、「楽しかった物語」からの別れという意味では悪くないのかもしれない。主題歌最低だったけど。

・・・

久々に超大型時代劇というべき風格のある大作が作られたのは素直に嬉しい驚きでした。


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美味しんぼ』でお馴染みの花咲アキラによる漫画化作品。僕はこれで初めて読みました。キャラクターのデザインはこちらのほうがイメージ通り。