男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

シネスイチ板橋プログラム28『ターミネーター』

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SFとアクションとホラーとハーレクインを融合させた映画

ジェームズ・キャメロンはジャンル・ミックスを作劇のコンセプトにしている。個人的にも【娯楽映画】とその他のジャンルの映画は似て非なるものだと思っていますし、そういう映画が大好きです。恐らく洗礼を受けた『ジョーズ』がまさに、「ホラー」と「海洋冒険」という二つのジャンルをミックスさせた映画だったからなのかもしれません。

監督デビュー作である『殺人魚フライング・キラー』はキャメロンとしては極めて真っ当な「続編」として作られています。もちろん彼のテーマである「強い女性」はちゃんと登場しますが、コンセプト自体は『ピラニア』の続編として真っ当に作られています。個人的には大好きな映画ですが、キャメロンも納得してないですし、失敗作の烙印を押されています。

もう失敗は許されないキャメロンはここで初めてジャンル・ミックスを試みることになるわけですね。当時ブームを起こしていたディーン・R・クーンツの小説が、まさにそういったジャンル・ミックスを成功させており、当然キャメロンが参考にしていることは誰の目にも明らか。というのは、上記したミックス要素がまさにクーンツの開発した調合だったからです。クーンツの名著『ベストセラー小説の書き方』にもあるように、クーンツも数々の失敗を踏まえた上で、このハイブリッド手法を開発したわけですから、それを映画に持ち込んだキャメロンはなかなかしたたかといえるでしょう。もしかしたらプロデューサーであるゲイル・アン・ハードのアイデアかもしれませんけど。

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イデアを盗用されたとして訴えたハーラン・エリスンに裁判で負け、現在ではアイデアを借用しています的なテロップが付加されている本作ですが、調合のアイデアには著作権はないのか、それとも金持ちケンカせずなのか、クーンツはこれに対して特に何も言っていないようです。

とは言え、完成した『ターミネーター』はコンセプトの狙いを大きく上回る成功を見事におさめます。そして、その成功の要因こそが、キャメロン節とでもいうべき豪腕演出であり、後戻りできないゆえの「趣味全開」とでもいうべきミリタリー嗜好なのです。

要するに上記のジャンル・ミックスの要素によって幅広い層に受ける作品になっただけでは、これだけ熱狂的なファンを多く生み出すことは絶対になかったと断言できるのです。やはり『ターミネーター』の成功はキャメロンの力以外の何物でもないわけです。

・・・

今回長らく低画質のソフトしか流通していなかった今作が、初めてまともなレストアを施されてブルーレイ化されました。国内でも12月に発売されますが、先行で発売されたイギリス盤を試聴。クオリティは当然今まで発売及び放送されたどのバージョンをも大きく上回っています。オリジナルのモノラル音声が未収録なのは残念きわまりますが、ロスレスで収録された5.1ch音声はド迫力で丁寧な作りになっています。ただ残念なのはキャメロンこだわりの銃器関係の音がオリジナルと違うSEに差し替えられており、こればかりは違和感が激しい。

ともあれ、日本国内では待望のブルーレイ化なので、最上のクオリティのディスクとして登場するのは喜ばしい限りです。なおイギリス盤も国内盤と同じユニバーサル仕様になっており、国内のプレイヤーで再生すると自動的に日本語仕様に切り替わります。メニュー画面はないし、ポップアップメニューも非常にショボイのがたまにキズですが。


シュワルツネッガーの見事なロボットぶり。

もともと、『フライング・キラー』にも出演し、落ち込むキャメロンを慰め続けた盟友ランス・ヘンリクセンターミネーターに起用する予定で、ヘンリクセンを元にしたコンセプト・アートもメイキングで見ることができます。この一見すると普通の人間と区別のつかない暗殺者というコンセプトは『ターミネーター2』で生かされることになります。

もっとも、シュワルツネッガーが演じることによって、「プログラムされた行動のためなら手段を選ばない」という強靭なビジュアルがモチーフとなったのは作品として明らかにプラスになっています。


この映画を観たあとは、すべての中学生がこの目つきになって周りに睨みを効かせるようになる。

そのパワフルな存在感が炸裂する最初のクライマックス、テクノアールでの大殺戮。


グラスを落としたサラが、それを拾うことでターミネーターの視線を逃れるが、カウンターでこちらを見つめるカイルから目を逸らすことで、今度は見つかったターミネーターに気づかない。

徐々にスローモーションになっていくカットを丁寧に積み重ねていく事によって、映像のみで説得力を持たせるマーク・ゴールドブラッドの編集が素晴らしい。

そして、緊張が頂点に達したところで、突如スローモーションが終わり、激しい銃撃戦が始まる。


有名なウージーサブマシンガンの片手撃ち。重くてリコイルも激しいこの銃を拳銃のように扱うシュワルツネッガーが恐ろしい。このパワフルさがこそがこの作品のパワーそのもに直結している。

そして、このシークエンスが特別なのは、スラッシャー映画のモチーフである殺人鬼の要素を盛り込んでいるにも関わらず、人目を盗んで密かに惨殺というお約束を覆すところにある。その前のシーンで「人ごみの中なら安全だから」という警察のアドバイスが効果的な伏線となっており、ターゲットを捕捉次第即刻ターミネートにかかるロボット感が実に素晴らしく、そして燃える。そこにいる部外者の客が次々と巻き込まれて惨殺されていくこのシークエンスの生み出す負の快感は凄まじく、サラの恐怖をまざまざと体験することができる。


サラの目線で体を起こすターミネーター。何度撃たれても平気で起き上がってくるゾンビ感覚も実にジャンル・ミックスとして見事に成功している。


死んだと思ったターミネーターが起き上がってくるのに驚愕するサラ。カメラがドリーで丁寧に寄っていく。キャメロンの丁寧な演出が冴え渡る。


キャメロンの素晴らしいところは、B級映画に過ぎないこういったジャンルの映画にも関わらず、終始シリアスで手を抜かない丁寧な演出を貫いていることだ。オタク監督にありがちなお遊びやパロディなどは一切ない。『ターミネーター』以降、数えきれないほどのB級アクション映画が大量生産されてきたが、所詮どれも二番煎じにすぎないのは、そういった姿勢がそもそも違うからである。


ターミネーターが自分で修理するシークエンス。スタン・ウィンストンの仕事が光る名シーン。

ターミネーター』の中でも際立って異色なシーンがこの「自己修理」のシークエンスだろう。「武器の現地調達」に並ぶミリタリー性溢れる名シーン。自分で破損した部位を補修または破棄するという、ロボットでありながら兵器であるというターミネーターの特殊性を、実に緻密に描くことで説得力を生み出しつつ、スプラッター要素まで加味してしまう大胆さが凄い。


警察に捕まったカイルとサラ。防弾チョッキや麻薬によってターミネーターのような事が可能であると説明する警察と、クソ真面目に未来からタイムマシンによってやってきたと説明するカイル。状況がどんどん悪化していくのに観客が手をこまねいていると、それを見透かしたかのような抜群のタイミングで現れるターミネーター


説明不要の名セリフ「I'll be back」

直後に車で警察署に突撃するターミネーターが、そのままスパス・ライアット・ショットガンとAR18を両手に持っての大殺戮。序盤のテクノアールをさらにスケールアップした皆殺しの快感が強烈。「殺人兵器」というコンセプトをこれ以上ないほど魅力的に描いた屈指の名場面。


ゴッドファーザー』でディック・スミスが披露し、その後の着弾描写を根底から覆した「体を貫通した弾丸が後方の物体を壊す」という名シーンを再現。それでもまるで怯むこと無く相手を撃ち殺すターミネーターが最高。このサーチ&デストロイぶりに全世界の中学生が熱狂した。


自己補修もそこそこに蝿のたかる体を無視してサラの居場所を探り出そうと頑張るターミネーター。そこへ掃除夫がイチャモンをつける名シーン。「返答例」の中に冒頭でビル・パクストンが伝授したフレーズが登場。迷わずそれを選択して棒読みするターミネーターがとにかく面白すぎる。

「FUCK YOU ASS HOLE」

84年以降。全世界の中学生がまず覚える英会話の基本フレーズがこれだ。


いよいよクライマックス。タンクローリーごと爆破されたターミネーターが燃えさかる炎の中から蘇る。


なんと主演であるシュワルツネッガーでなくなってしまう大胆過ぎるアイデア。製作陣もかなり反対したそうだが、何しろこのビジュアルがこの作品の最初のイメージとなっているものだから、そこはキャメロンも折れないし。シュワルツネッガー自身も援護したそうだ。そのかいあって、このあとの骨組みになっても追ってくるという、まさに「殺人兵器」そのもののビジュアルインパクトは傑出している。スタン・ウィンストンによるエンド・スケルトンのクオリティも非常に高く、赤く光る眼球レンズの恐怖も相まって、夢に出ること請け合いの恐怖感だ。


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この作品の成功はキャメロンの力によると書きましたが、ブラッド・フィーデルの不気味でありながら感傷的なメロディ、マーク・ゴールドブラッドによる天才的な燃える編集、ステディカムがないのにブレのない移動撮影を実現させたアダム・グリーンバーグの撮影、スタン・ウィンストンや特殊撮影のスタッフたちの見事な仕事も大きく貢献していることは言うまでもない。当時史上最高額の製作費で望んだ続編に殆ど総てのスタッフがそのまま参加している事がそれを証明している。


80年代から延々と続いているアクション映画の各ジャンルは、大なり小なりこの映画の影響下にある。そういう意味でもエポックメイキングな作品といえるでしょう。


国内版ブルーレイ。