男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『イップ・マン序章』★★★

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ドニーってこんなに芝居うまかったのか

ドニーの遅すぎる黄金期のきっかけになった『イップ・マン』。その一作目となる『序章』を観ました。

本編でもキチンと言及されるように、イップ・マンは詠春拳の使い手としてというよりも、「ブルース・リーの師匠」として有名。僕も当然それで知っていたぐらい。

そして、ソレ以上のことは何も知らなかったもんですから、この映画はやたらと面白かったです。

イップ・マンの人物像を描いた日中戦争前夜の序盤がすごく丁寧で素晴らしい。人徳に優れたイップ・マンの人物像を、ドニーがまさかの素晴らしい芝居で自然に演じているのも凄い。ハッキリ言ってドニーに対する観客のイメージとは真逆の人物像であるイップ・マンなんですが、冒頭の試合シーン(もっと言えば、登場した瞬間の食事シーン)から、完璧にイップ・マンが「優れた人物」であることが完璧に伝わってきます。シナリオも素晴らしく、その食事シーンにしても、今から戦おうとする相手に「一緒にどうですか?」と誘うし、しかもそれを快く受ける相手のキャラも抜群によく伝わってくる。そして、それらのキャラクター描写を的確さは、中盤からのストーリー展開において十二分に効果を発揮するよう設計されている。

直前に観た『導火線』とキャストもクルーもほぼ共通しているだけに、この洗練された作りは驚きでした。いや、『導火線』が悪いという意味では決してなく。ははは。

ブルース・リーのファンのくせに「詠春拳はほとんど知らなかった」ドニーですが、数ヶ月の特訓で「師範になれる」と太鼓判を押されたそうで、映画で観る限り「絶対に勝てるわけがない」達人ブリを当たり前のように演じています。全然力んでないんですよ。もうそこがとにかく絶品。「ブルース・リー」の超然とした感じともちょっとちがって、意識的に訓練によって身体の力みが瞬時に消える感覚がドニーの芝居で表現されている。

葉問式詠春拳の殺陣も無茶苦茶かっこ良くて、相手の出方に瞬時に対応して戦意をくじき、その上で戦闘力を圧倒的な攻撃で無効にする実戦的な武術が鬼のように燃えます。

今回ドニーは芝居に集中するために武術監督は兼任しておらず、ブルース・リーと実際に戦っているサモ・ハン・キンポーに一任されています。このサモ・ハン・キンポーの洗練されたアクション演出も見所の一つ。「クンフー映画を観ている!」という満足感がすごく得られます。

ストーリーも意外といっては失礼なほど奥深い。描写はそれほど突っ込んではいないものの、『シンドラーのリスト』状態の極限状態の中で、イップ・マンが気高い人間性を貫く構成が感動的。
中でも大好きなのは、「仕事」をしなければならなくなったイップ・マンが、食事の時間に自分のイモを息子のために取っておくシーン。それを見たかつての知り合いが自分のイモを半分差し出すシーン。「キチンと間違った生き方をしなければ必ず報われる」ことを端的に表していて感動しました。
また、かつての友人が工場を経営しており、イップ・マンを仕事に誘うのですが、彼はそれを辞退する。友人がそれ以上誘わないので息子が「どうして?」と訊くと、「恩を売りたくない」と答える。「正しい生き方をしている人間の周りには自然に正しい人間が集まる」というのをこれまた端的に表現していて素敵でした。

肝心のクンフーシーンもお膳立てが絶品で、中盤のイップ・マンが「十人と戦いたい」というシーンは動機付けといい様々な要素が絶妙にからみ合って最高に燃えます。

川井憲次の音楽も燃えます!