男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『アイアンマン3』★★★★

シェーン・ブラックを抜擢したマーベルの慧眼

マーベルと言うよりも、一連の作品をプロデュースしているケヴィン・フェイグの力なのでしょうが、とにかく『アイアンマン』にファヴローを起用してからの監督起用のセンスはイチイチ唸らされる。しかも、今回はその立役者であるファヴローを『2』の出来を観るやいなやのチェンジですから、ビジネスとしての視点も優秀。

それにしても、シェーン・ブラックの抜擢には驚かされました。

僕らの年代にしてみたら、シェーン・ブラックと言えば『リーサル・ウェポン』や『ドラキュリアン』ですし、『プレデター』のメガネ。そして、90年代に入ってからは『ラスト・ボーイスカウト』に『ラスト・アクション・ヒーロー』ですよ。個人的には『恋愛小説家』でのレストランの店長役も入れておきましょう。

あくまでも個人的には「信頼出来る奴」なんですが、正直に言って過去の人物というイメージが強かったのも事実。

そんな彼を、しかも監督二作目として抜擢したこの博打ブリ。恐らく監督一作目の『キスキス、バンバン』で人生の奈落の底にいたダウニーと組んでいたのも大きな要因だと思うんですが、それでも『アベンジャーズ』で絶好調のマーベル・ユニバーサルの第二フェイズ一作目を任せるとは開いた口が塞がらない。

しかし、またしても、これが大成功なのだから恐れ入ります。

それぐらい『アイアンマン3』は『2』での微妙さを見事に払拭し、そして、見事なまでにシェーン・ブラック映画として傑作に仕上がっていました。


シェーン・ブラックの脚本の特徴は何と言っても「バディ物」でしょう。

リーサル・ウェポン』からこっち、基本的にはすべて主人公が相棒とコンビを組んで話が進みます。今回の『アイアンマン3』は基本的に社長=トニー・スターク個人の物語として構成されているのですが、これがまた入れ子構造のようにすべてが「バディ物」として展開していきます。かれがもうシェーン・ブラックのファンとしてはたまらない。

ラスト・アクション・ヒーロー』が大好きな人間としては、中盤で相棒(サイドキック)となる子どもね。ヒーローはあくまでも「子ども」の存在があってこそなんですが、実はマーベルの一連の作品では「子ども」の存在が希薄で、唯一『キャプテン・アメリカ』が子どもにとっての存在を描いていたと言えます(そこはさすがのジョー・ジョンストン)。実はクリストファー・ノーランの一連のバットマンシリーズでも子どもの視線は重要な意味を持っていました。まあ、これはおいておいて。今回の『アイアンマン3』がヒーロー物としての王道として、キチンと子どもが重要なファクターとして機能しているのには感激しました。

そして、『リーサル・ウェポン』からはリッグスの自殺願望のような、スタークのパニック障害というびっくりするプロットを組み込んできます。しかも、リッグスよろしく帽子を深々とかぶるオマケ付き。

このパニック障害を克服する手段が「ものを作ること」であり、そのキッカケを与えるのが先の子どもという件には感動してたまりませんでした。

『アイアンマン』一作目を至高のものとしているのは間違いなくスタークの『DIY精神』でしょう。洞窟の中で生きるために科学者インセンと協力してマーク1を作り上げたスターク(この時インセンが語った「昔会ったけど君はベロベロに酔っ払っていた」というエピソードが、まさか冒頭で描かれるとは! これだけで僕の中で涙腺決壊)。その後も映画のほぼ2/3に渡ってアイアンマンスーツ作成をネチネチと描いていく。あれこそ一作目の素晴らしさでした。今回スタークがアイアンマンスーツを馬鹿みたいに作り続けていた(マーク42って!)のがただのギャグではなく、彼自身のアイデンティティーそのものである事がよく分かる構造になっています。そして、それが見事にクライマックスに結びつくあのカタルシス

加えて、今回『ヒーロー物』として重要なのは、スターク自身がヒーローとして自立すること。つまりアイアンマンスーツそのものが「道具」として使用されているシーンが実に多種多様に描写されるのです。

エネルギーが切れた(あれって胸のリアクターが動力だったんじゃないのか?)スーツをロープでズルズルと引きずるビジュアル、バラバラになるスーツをペッパーに着せることで助けたり助けられたり、遠隔操作で動かして中身は空っぽだったり、鋼鉄ジーグのようにパーツ事に飛来してくるそれを駆使して戦ったり、最終的にはアイアンマンスーツがジャーヴィスの遠隔操作で飛び回る。こういった一連の描写と共に、パニック障害を克服したスタークがホームセンターで購入した素材でDIYする(!)お手製スーツと対になっていて実に効果的でした。

セリフでもキチンと言うように、アイアンマンスーツがヒーローなのではなく、トニー・スタークこそがヒーローに成る物語なんですよね。

だからこそ、クライマックスで飛来したマーク42がガンっと支柱にぶつかってバラバラになったあたりと、それがまたしてもただのギャグではなく、敵を倒すために「道具」として利用されるあたりは最高に鳥肌がたちました。

そして、だからこそ、逆説的にアイアンマンスーツがぶっちぎりでカッコよく思えるんですよね。ロボットではなくモビルスーツだったガンダムが、徹底的にメカとして描かれている事が何よりもカッコよく、だからこそボロボロになった残骸になってもアムロが助かるための道具として機能しているあたりの感激さに通じる。


あと、どうしても書いておかなければならないのは、大統領専用機のエピソード。あの一連のシークエンスは最近のアクション映画及びヒーロー映画の中でも突出して「燃え」まくったシーンでした。飛行機の外壁に穴が開いて乗員が次々と外に吸いだされてしまうシーンというのはもはや「記号化」してしまっているぐらいよくあるシーンなんですが、なんとここでアイアンマンは空中を落下していく乗員全員を助けるんですよ! しかも、その助け方が「みんなの手を繋がせる」という涙モノの手段。あれだけカタルシスとヒーローとして意味を両立させ、なおかつ燃えさせるというのは中々お目にかかれない名シーンでした。しかも、そのオチがまた衝撃でw あれには久々に「あ!」っと驚かされました。


今回シェーン・ブラックは演出面でも素晴らしくクールな演出を多用しており、明らかに80年代〜90年代のアクション映画としてのルックスを最新のCGIによってリアリスティックに描写するという「分かってる」感が最高でした。名手ジョン・トールの撮影もファヴロー版『アイアンマン』とは明らかに違うビジュアルを押し出しています。ブライアン・タイラーの音楽も、アイアンマンのテーマとしてヒーローものらしいメロディを使いまくり、あの例のガンという金属音も効果的に使っているのが印象的。


しかし、まさかとしか思えないような傑作でした。オススメします。


・・・


それにしても、ラストのおまけ。あれにはとにかく大笑い。きけばダウニーのアイデアだという。ほんとに恐ろしい奴だよまったく。全編が実は彼とのバディ物として成立しているという入れ子


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言わずと知れたシェーン・ブラックのデビュー作。二作目以降では消滅するリッグスの破滅的なキャラクターとハードボイルドな減らず口はブラックならでは。


当時『ジュラシック・パーク』に大惨敗し、マクティアナン共々ブラックの経歴にも大きな傷を残すことになったブロックバスタームービー。映画そのものもマクティアナンが持て余しているところも多々あるが、ブラックの脚本はなかなかの傑作。子どもが主人公というだけでも重要な作品だ。


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ブルース・ウィリスが完璧にブラックの作り上げたキャラを体現している傑作。全編とにかくハードボイルド過ぎる減らず口を叩きまくる。「犬を飼え」「次にやったら殺す」などなど。


『1』のDIY精神とマーク1の魅力、そしてマーク3を作り上げてからの社長の浮かれブリはたまりません。


実質的な『3』と言っても過言ではなく傑作。ストーリーとしても地続きなので、これを観てから『3』を観るべき。


そして、永遠の銘機マーク1 やはりインセンとの思い出とともに大事に仕舞っているのだろうか。再登場を強く望む。