ブルーレイ版『七人の侍』『椿三十郎』鑑賞
今日やっと受け取ることが出来たので、さっき観終わりました。
まず『七人の侍』。東宝はDVDの時は豪華パッケージ仕様にして値段も高めに設定しましたが、今回は最初から通常のパッケージデザインで、値段も通常価格と同レベル。パッケージ自体も(良い意味で)オーソドックスなところに落ち着いています(BOXではデザインが違うのかもしれませんが)。ただ、ディスクレーベルのデザインが個人的にかなりゲンナリで、DVDレーベルをプリンターで作るときに、段々めんどくさくなって「チラシの画像を適当に付けてあとはロゴでいいや」感丸出しなんですよ。そこはもうちょっと工夫しようよ。プロなんだから。
メニューも恐ろしく簡素で、もともと特典が予告編のみなせいもあるんですが、最小限のボタン構成とシンプルな画像のみ。これはまあ鬱陶しいよりは良いです。ディスク挿入で即再生する仕様もグッド。
しかも、自動再生で選択されるのがオリジナルモノ音声ってのもなかなか渋くて良かったなあ。
と言うわけで本編。
映像について
改めてマスターを作って、レストアをしてっていう基本的な事は行われているのですが、正直ブルーレイ版『羅生門』の衝撃には及びませんでした。
勿論DVDよりは向上しているし、ビデオとかLDにくらべたら桁違いのクオリティなんですけど、元々大人気の作品だけにオリジナルのマスターにまともな物が残っていないんでしょうね。
それでも、『羅生門』はもっと劣悪なマスターだったはずで、これをあれだけのクオリティに仕上げた物を観た後だと……
「フィルムの質感」を大事にしたとはいうものの、それは現時点で観られるフィルムの状態に出来るだけ近づけているという意味合いのようで、『羅生門』が目指していた「公開当時の状態」にはほど遠いと思います。
少なくとも「こんな『七人の侍』観たことない!」とはなりませんでした。
何度も繰り返しますが、それでもかなりの高品質には違いはなく、現時点で最高の『七人の侍』であることは確かです。ここはお間違えの無いよう。ははは。
一番気になっていた、フィルムロスト部分の処理ですが、やっぱりそこはギクシャクした感じが残っており、違和感がないとはいかない。そこだけデジタル処理した感覚になるので、どうせ古い質感なのだから放っておいて音の処理を合わせた方がよかった気もします。
せめてフィルムガタが落ち着いてくれればまだ良かったのですが、やはり不安定な部分が残っています。
音声について
今回は全編5.1chリミックスをドルビーtrueHDで観ました。もともとリミックスした5.1chサウンドには懐疑的で興味がなかったのですが、後述の『椿三十郎』と共にビックリするほど素晴らしい仕上げになっていて驚きました。オリジナルのモノラル音声もリニアPCM収録になって大変クリアになっているのですが、セリフや効果音の分離と低位が大変自然で、音の膜が何枚もとれた印象です。
サウンドのクリアさだけでも購入する価値は充分あると思います。
ただ、5.1ch音声だけ2コマ分ほど音が先行しており、これは大変気になりました。モノラル音声とドルビーサラウンドのリニアPCMは問題なく、『椿三十郎』の5.1chも問題ないので、『七人の侍』固有の問題かもしれません。先のフィルムロスト修正のせいかもと思いましたが、他の音声は同期してるから不可解。ここは東宝のコメント待ちでしょうか(東宝はDVDの時もあり得ないミスをおかして回収騒動になりましたが、今回の対応はどうでしょうね)。
まとめ
期待値を上げすぎたせいで、微妙なレビューになっていますが、『七人の侍』を1枚のメディアで切り替えなしで楽しめるのは大変嬉しいことですし、現時点で最高のクオリティであることは確かです。海外のクライテリオンなどから発売された際はどうなるのかわかりませんが、『七人の侍』ファンは間違いなく買いです。
あと、特典の予告編で、一番最初の公開時の『特報』が収録されているのですが、こちらの映像クオリティが抜群に良かったことが驚きでした。スチール撮影の様子や、撮影時の様子が動画で見られるだけでも資料的価値が無茶苦茶たかい映像ですが、多分『特報』という性質上フィルムの劣化がほとんど感じられないクオリティでした。ぶっちゃけ本編の何倍も衝撃でしたよ。レストアなどはしていないので傷やゴミはあるのですが、それでも本編を上回るクオリティでした。
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映像について
さすが黒澤プロダクションが関わっているだけに、フィルムの管理も行き届いているようで、すこぶる安定した高画質でした。解像度やコントラストも申し分なく、暗部の再現も絶品でした。
ワイドショットでも役者の表情が恐ろしいほど細かく分かるので、芝居が今まで以上に堪能できます。
『椿三十郎』は作品の性質上屋内ロケやセット撮影も多い関係上、映像の品質もかなり安定しているので、これはオリジナルのマスターから上質なためと思われます。
DVDの時から鮮明で綺麗だったので、もしかしたら改めてマスターを起こす必要がなかったのかもしれません(確認していませんが)。
音声について
こちらも5.1chリミックスのドルビーtrueHDが素晴らしかったです。オリジナルモノラルは聴き慣れているのでクオリティの向上が感じられますが、3chのパースペクティブサウンドは疑似ステレオ感が強くてまったく好きになれません。マスターのクオリティも悪いし。
まとめ
最後の決闘シーンでは、三船敏郎も仲代達矢も表情の細部まで観られるので、フィルムで観たときの緊張感が見事に蘇りました。あれは一発勝負の撮影だったので(衣装の替えがなかったせい)、二人とも相当緊張しているんでしょうね。
恒例のコマ送りでも観てみたのですが、24コマがキチンと1コマずつ観られて感動しましたよ。
仲代達矢が動き始めて3コマ目で三船敏郎の左手だけが柄を握りるためにあげられ、次の1コマで抜き、次の1コマで上体を左に抜け、次の1コマで抜き打ちにし、次の1コマで右手を刀身の背に押し当てて、次の1コマで切り上げる。
その後3コマあとに血が噴き出すんですけど、タイミングが絶妙ですね。そりゃ黒澤もやり直ししなかったハズです*1。
今回観直して、お気楽痛快エンターテインメントなのにも関わらず、不必要なほど殺陣のシーンが残虐なのに色々と考えさせられました。黒澤明の意図としては、「良い刀は鞘に入っている」的なメッセージを強調するために、立ち回りを残虐なリアリティの方向性にしているんだと思うんです。ただ、今観直すと
「これって、今のスピルバーグと一緒で、ただ単にそっちの方に蓋が開いちゃっただけじゃないの?」
と。
つまり、単純に黒澤明のなかで、前作『用心棒』で思いついた、刀で肉を切るときの音を足したり、切り落とされた腕をリアリティ抜群に再現したりして、「これ面白い」と目覚めてしまったような。
もともと、人を殺すシーンは出来るだけリアルに「痛そう」に「残酷」に描く傾向があり、それは暴力否定のメッセージという大義名分があるんですけど、やっぱり「やりたいだけだろ?」と今なら素直に思えちゃいますよ。ははは。
中盤のクライマックスでの立ち回りなんて、途中まではカッコイイけど、門番なんか悲鳴あげて必死に逃げ回るのがトラウマでしたもん。しかも容赦なく(バカ侍のミスのせいで)皆殺しですもんね。あれは残酷。「とんで殺生したぜ」ってビンタするのも当然。
でもやっぱりそんなの無関係に面白いですよ。ホントに面白い映画です。
改めてこのブルーレイとレストアの凄さを痛感しました。もしかしたらアメリカで発売される黒澤作品はここらあたりの品質を期待できるのかもしれませんが……羅生門 デジタル完全版 [Blu-ray]posted with amazlet at 09.10.25
同じく米ローリー・デジタル社が復元(レストアと復元は違うなと今回痛感)を担当している『【数量限定生産】 風と共に去りぬ アルティメット・コレクターズ・エディション [Blu-ray]』も俄然期待できますね。こりゃ楽しみだ。【数量限定生産】 風と共に去りぬ アルティメット・コレクターズ・エディション [Blu-ray]posted with amazlet at 09.10.25
*1:血が噴き出し終わったあとにチューブが外れて画面の手前にも血が吹き上がったので本来はNGなんですが、黒澤は若侍たちの表情を入れる編集にするつもりだったようで「編集でなんとかするからOK」と言ったそうです。