男たち、野獣の輝き

旧映画ブログです。

Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

ボディ・スナッチャー/恐怖の街 [DVD]

ボディ・スナッチャー/恐怖の街 [DVD]

ボディ・スナッチャー/恐怖の街 [DVD]

どうしても観たくなって中古のDVDを購入しました。ただ、分かってはいたことなのですが、スーパー・スコープ(スタンダードサイズの上下を切ってシネスコサイズにしての上映)で製作されたこの作品をさらに左右を切ってスタンダードにしているため、大雑把に言うと9分割された画面の中央だけを観ているような画面サイズです。勿論画質も最低レベルです。当時アメリカで流行っていたカラー着色は個人的に嫌いでは無いのですが、モノクロの画面を先に観てしまうと、そのコントラストを計算された鋭利な映像には及ばないと感じてしまいます。

もっとも、このDVDも現在では廃盤なので、スペシャル・エディションなどで再度発売されることを祈りましょう。

この映画の恐怖のポイントは

  • 周りの人間が徐々に人間性を失っていく
  • 自分も入れ替わってしまうかもしれない
  • 入れ替わった人間は仲間にしようとする
  • 眠ったときに入れ替わるので眠るわけにはいかない

等ですが、上記3点に関して言うと後のロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド(asin:B000BM400S)』にも受け継がれる、人間が持つ他人への不信感をテーマにしている様々な傑作の原点ともいえるものですが、ボクが非常に重要なポイントとして感心するのは(恐いのは)、4点目の

  • 眠ったときに入れ替わるので眠るわけにはいかない

に尽きます。

これはリメイク版でも外すわけにはいかない秀逸なアイデアで、眠るのを我慢するのがどれだけ辛いかは、ほぼ全人類が理解できる共通項で、これ一つだけでどれだけ凄い恐怖感があるかは明らかです。

ところがこのオリジナルではこのアイデアはそれほど上位にはきておらず、終盤の恋人ベッキーとの有名なキス・シーンに至るプロセスの一つとして結構あっさり扱われています。

ボクはフィリップ・カウフマンのリメイクである『SF/ボディ・スナッチャー [DVD]』が初ボディスナ体験なのですが、こちらのリメイク版では粘着質とも言えるほど、この”眠ってはいけない”恐怖を掘り下げているので、個人的には断トツに好きです。フィリップ・カウフマンのスタンスは、とにかく上記4点の恐怖を徹底的に描こうとするので、最もトラウマ度の高い作品になっています。

このオリジナルでも本来はプロローグとエピローグは後で追加されたもので、笑ってしまうぐらいハッピーエンディングになっています。これはこれで勿論大好きなのですが、この物語の持つ恐怖指数はやはりそういう陳腐な鞘におさめるようなレベルではないと断言します。

当然監督のドン・シーゲルもそこは外せなかったようで、本来のエンディングである”ハイウェイで主人公が目をランランとさせて警告する”姿のクローズアップ*1が、実際にパラノイアの人間にしか見えないあたりに確信犯的な演出がうかがえます。

また、リメイク版では人間性がなくなるという部分を分かり易くするため、とても人間とは思えないほど無人格になってしまうのですが(3度目のリメイク作であるアヴェル・フェラーラ監督の『ボディ・スナッチャーズ [DVD]』では、逆に攻撃性を増す設定になっています)、”人間性”を失うという設定での演出はこのオリジナルが一番説得力のある描かれ方だと思います。共産主義への恐怖が根本にあるそうですが、今までの知人が新興宗教の信者になって自分を執拗に勧誘するというようなリアリティのありすぎる雰囲気に一番近いと思います。力ずくではなく「何でやってこなかったんだと思うよ」という感じで温かい目を向けてくるあたりは背筋が寒くなること請け合い。

リメイク版では異性人がまだ変わっていない人間を見つけると、共通しておぞましい奇声を上げて指差すんですが(この演出の効果たるやもう……トラウマ確実)、オリジナルでは人間がわらわら追ってくるという、リメイク版とは違う恐怖感が抜群で、リメイク版は全く違う生物であることを観客が認識できることである種の安心感を持つことができるのですが、オリジナルでは先に書いたように新興宗教に近い”ちょっと考え方が違う”だけの人間に追い掛け回される非常に地に足の着いた恐怖がいいんですね。

作品内にも出てくるように「集団ヒステリー」という状態の恐怖が。ボクは戦争も一種の集団ヒステリーの状態だと思っているのですが、赤紙が来て徴兵されるなんていう抜群の不条理*2さが子供の頃から物凄く恐かったのです。なのでこの『ボディ・スナッチャー』スタイルのプロットは非常に恐怖映画としてツボなのです。

SF/ボディ・スナッチャー [DVD]

SF/ボディ・スナッチャー [DVD]

ボディ・スナッチャーズ [DVD]

ボディ・スナッチャーズ [DVD]

*1:このクローズアップの効果は先のキス・シーンで恋人が乗っ取られてしまったことに気づく場面でも非常に効果を上げています。

*2:どうして突然赤の他人と殺し合いをさせられるのかサッパリ分からない。