男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

サイコ (1960) ― コレクターズ・エディション [DVD]

サイコ [DVD]

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続いてオリジナルを観ました。DVDで観るのは初めてで、マスキングされたビスタサイズで観るのも初めてでした。シャワーシーンなどではスタンダードサイズだと突然オッパイを隠すようにマスクが出てきたりしていたのですが、マスキングされているときちんと画面が整っていて良かったです。ヒッチコックの意図したサイズがビスタだったのでしょうから、全体的にショットが決まっていて良いです。

この映画を初めて観たのは小学6年生の時で、SONYがスポンサーになった深夜のノーカット放送でした。当時ビデオを買ったばかりだったので、録画したこの映画を次の日の朝観たのを覚えています。ヒッチコックの映画を観たのもこれが初めてでした。

とにかく無茶苦茶面白くて、ビデオを買ったばかりと言う事もあって何度も何度も観た初期の映画の一つです。もっとも、この時放送されたのはアメリカでテレビ放送された最後の骸骨のディゾルブがないバージョンだったのですが。

リメイク版の感想でも書いたのですが、ボクが一番恐かったのは最後のクライマックスでライラがノーマンの母親の死体を見つけて叫び声をあげると、ドタドタと足音がしてから”開いている扉”の向こうから姿を現す女装したノーマンのショットでした。
この”開いている扉”が個人的に凄まじく恐くて、何度観てもあのショットは恐いのです。あそこはリメイク版で凡庸に再現されているようなショック演出に頼っておらず、”開いている扉”が生み出す不安感が恐怖を生み出しているのだと思うのです。勿論バーナード・ハーマンの音楽が付いているのと付いていないのでは効果が全然違いますし、地下室と言うシチュエーションや揺れる裸電球の産み出す見事に不安定な画面効果も特筆すべきなのですが、あの”開いている扉”というギミックは、人間が部屋と言うものを生み出して得た安定感を見事に崩していると思うのです。ノーマンが現れるまでの数秒、揺れる裸電球の生み出す不気味な照明に映し出される開け放たれた扉と、その向こう側に広がる暗闇の空間がとにかく効果的で、そこにドタドタという足音がかぶさって、ヌっと包丁を持った女装のノーマンが現れるのが何よりも素晴らしいのです。アンソニー・パーキンスのこれ以上無いほど恐い笑みも特筆モノですし。心理学的な事をアレコレ考えることはあまりしないのですが、”開いている扉”が生み出す不安感はそれ以来ボクの個人的な恐怖となっています。
この作品と同じエド・ゲイン事件をモチーフとしている(フーパー監督は否定しているようですが)『悪魔のいけにえ』でも鉄扉が凄く重要なギミックとして登場するのですが、最初の犠牲者が”開いている扉”に近づく場面は猛烈な恐怖を観客に与えてくれます。
このシークエンスは母親の骸骨を観たときは悲鳴をあげるヴェラ・マイルズが、ノーマンが現れる場面ではただ目を見開いて意識停止に陥っているのが実にリアリティがあって大好きです。あの反応の違いがすなわち”ショック””恐怖”の違いではないかと思いますし、そこら辺をキチンと理解して演出しているヒッチコックが素晴らしいと思うところです。

他にも素晴らしい演出がてんこ盛りなのですが、驚愕するのはヒッチコックがこれを撮影したのは60歳の時で、フィルモグラフィーでいうと47本目ということでしょうか。47本も映画を作った上でまだこれだけオリジナリティのある演出を生み出すってのは大抵のことではないと思います。