男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『ジョン・W・キャンベルJr『月は地獄だ!』の感想

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セリフの一切ないサバイバルSF

ジョン・W・キャンベルJrと言えば、映画野郎なら誰でも『遊星からの物体X』の原作者という認識でしょう。そして、アシモフの小説にしょっちゅう登場してくる頑固そうな編集長。ボクにとっての彼のイメージはまさにこの二つです。

ボクが読んだことがある彼の小説は(ご推察の通り)『遊星からの物体X』の原作である中編『影が行く』のみでした。


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まさにカーペンターの『遊星からの物体X』の原作。隊員たちの疑心暗鬼なども含めて読み応え抜群。逆に考えれば、ホークスが映画化した『遊星よりの物体X』はこの原作からよくぞああいったセンス・オブ・ワンダーな快作に仕上げたなと感心してしまいます。そして、その映画の大ファンなのに、この原作を忠実に映画化したカーペンターもすごい。


今回SFを色々と読んでみようと思い立ち、色々とガイドブックなどを読んでみたところ、ハードSFの嚆矢というような紹介をされていたので俄然興味を持った次第です。

あらすじは「帰還宇宙船が墜落したために、月探検隊は救出が来るまでの数ヶ月、月の裏側で生き延びるために奮闘する」

見事な一行プロット。

そして、この作品が見事なのはその「語り口」

副隊長の日誌という形式で語られるその「サバイバル」は、必要最低限の記述にとどまりながら、一日も休むことなくすべての日々が書かれている。これが実にストイックでいながら何ともいえない「漂流記」モノ風の気持ちよさがある。

思えば子供の頃好んで読んでいたこういった「漂流記」モノは、まさにこんな感じで淡々と日々をサバイブしていく記述に徹していて楽しかった。

『月は地獄だ!』というイカすタイトルながら、実際には娯楽作品のような危機また危機という構成ではない。いや、もちろん生死に直結するような危機だらけなんですが、この日誌形式という語り口によって、ある意味ユーモアすら感じられるほど危機敵状況を次々と打破していくのが大変面白いんです。読んでいる方も「もう、月に住んじゃえよ!」と楽観視してしまうほどで、実際隊員たちも中盤から終盤にかけて「快適」で差し迫った危機もなくなる展開に「ここから去るのが名残惜しい」というような状況になる。

が、

これが、日誌形式という語り口による見事なミスディレクションになっていて、終盤にかけて陥る大ピンチには一気に緊張感が高まりまくる仕掛け。しかも、そのピンチが実に「サバイバル」モノならではのストイックなモノなのが最高。

日誌形式は「一日」で区切られているので、回想形式とは違って主人公の生死が保証されていない事に突如気付かされるこの恐怖感ね。


堪能しました。


<220ページ 3時間12分読了>