男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『放射能X』★★★1/2

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ファンに諂わない直球の傑作

子供の頃から「傑作」という噂は聞いていましたが、まさかこれほどまっとうな傑作だとは思いませんでした。正直ちょっとなめていました。

制作当時の50年代という時代。当然ボクは存在していないわけですが、資料などから推し量るに『遊星よりの物体X』(51年)が「侵略SF」として大ヒットし、続く『原子怪獣現わる』(53年)の大ヒットによって「低予算で怪獣が出てくる映画」が雨後のたけのように作られていた時代のようです。『ゴジラ』(54年)とかはこうやってみると今でも日本のお家芸(いや、どの世界でも映画界はそんなのばっかりですが)である、便乗企画に過ぎないことが分かりますね。もちろん『ゴジラ』はそういった企画意図を考えると、ミュータントとしか思えない「奇跡」の傑作ではあります。

まあ、そこらへんは詳しくないので省くとして、本作『放射能X』(54年)は、そんな『ゴジラ』の少し前に本家アメリカで作られた作品。もちろん時期から考えても怪獣映画ブームのまっただ中に製作されている「便乗企画」なのは明らか。

ただし、この映画のスタッフは根本的に「怪獣映画」に対するアプローチが真面目!

すべての(まっとうな)オタク達は「絵空事の内容をリアリティ満点に描く」という事を最も求めている。時代遅れの特撮などを脳内で補完するスキルもそれに準じてのものだ。お約束やフォーマットなどが確立されている現代で、それをある意味パロディとして用いていた場合、それを「仲間意識」を持っておおらかに愉しむのは礼儀であり嗜みだ。
が、
そんな時代だろうと何だろうと、ひとたび「絵空事の内容をリアリティ満点に描く」映画が登場した場合には、純粋な興奮を覚えるし賞賛を惜しまない。ファン意識に対しておもねらない制作側の姿勢を高く評価する。そして、そういった姿勢を踏まえた上で、過去の作品からのフォーマットやお約束に対するアプローチに関しても、「リスペクト」として擁護する。

放射能X』に関しても、よく話題に上がる『エイリアン2』がまさにそうで、誰も『エイリアン2』を『放射能X』のパクリだとは言わない。それは『エイリアン2』を作ったキャメロンが上記のスタンスを貫いているからだ。

そして、その『放射能X』のスタッフは、当時恐らく「怪獣さえ出ていればOK」という安直な時代の中で制作していたとはとても思えないほど、作品のクオリティに対して真剣だ。まさに「リアリティ満点に描く」という一点をかたくなに守っている。

冒頭部分の警官二人による緻密な「捜索」と「実地検証」の描写からして一気に引き込まれるし、主人公が現場に落ちている拳銃の銃口にペンをさして持ち上げるあたりなど、「むうう」と唸るほどだ。そういったディティールの積み重ねはどれもこれも、「巨大アリ」という「絵空事」の設定に対しては直接的に関係していないし、子どもたちからしてみれば「そんなのいいから早く怪獣でてこいよ」という焦らしに過ぎない。しかし、そういったディティールの積み重ねこそが「映画のリアリティ」を生み出す唯一の手段なのだ。

その上で、冒頭部分が終わって物語が動き始めると、ユーモラスでコメディリリーフとなる博士や、その助手である娘(当然美人!)、長身で色男のFBIと言った定番キャラをキチンと登場させて娯楽映画としての体裁を整えていく。そんな中でもひとり主人公である警官のベンは終始真顔で映画のスタンスを守り続ける。

ゴードン・ダグラス監督の演出スタンスも「リアリティ満点」にこだわり抜いており、「巨大アリ」を実物大のプロップで作成し、常に役者と同一のフレームに収めるという素晴らしさ。黒澤明が『天国と地獄』の特急こだまのシーンでセット撮影を拒否した理由は「合成だと光がうごかない」というものであり、スティーブン・スピルバーグが『ジョーズ』でかたくなにロケ撮影にこだわった理由もまさにこれだ。つまりそれこそ「リアリティ」だ。巨大アリがヒロイン越しに初めて登場するカットの迫力はまさにそれでしか出なかっただろうし、ヘリコプターに乗った主人公たちが目撃する「蟻塚から食べた人間たちの骨を運び出す巨大アリ」という素晴らしいショットも生まれなかっただろう。

・・・

第一部である砂漠編が終わり、第二部に突入するとにわかにスケールが大きくなっていく展開も胸が躍る。

砂漠と対比するように大都会であるロサンゼルスに舞台を移しても、「リアリティ重視」であるスタンスは揺るがず、アリの行方を目撃証言によって突き止めていく過程や、いよいよ情報が開示されて戒厳令が敷かれるに至るクライマックスの演出は素晴らしい。
「これだよ、これ!」
というシーンが次々と登場する。
日常である街並みの風景に軍隊が出動してくるシーンでは、カフェで歓談している婦人たちが窓の外を見ると、それに合わせたドリーショットで軍隊が道路を行き過ぎていくなどのカットが印象的だ。

いよいよ地下の雨水溝入り口に軍隊が結集しつつも、行方不明の子どもたち捜索を優先するストーリーワークも実に丁寧で、心配で憔悴した母親を現場に登場させるなどのまとめ方も巧い。一気に火力で殲滅する「拍子抜け」をキチンと作劇で回避している。

アリゲーター』も「リスペクト」を捧げている「雨水溝に軍隊が突入する」クライマックスでは、ジープで次々と入っていき、サーチライトに浮かぶ水浸しの地下水道の描写が圧倒的。クレーンショットも挿入されて低予算とはいえ抜かりのないカメラワークも「リアリティ」に対して誠実だ。

狭い排水口からの物音に気付いた主人公が、子どもたちを救いに行くシークエンスも実に見事。巨大アリの存在を「交信」の不気味な金属的な音で表現してきた演出がここでも光る。行く手を遮る金属の棒や、子どもたちが射線に入るのですぐには火炎放射できないなど、サスペンスの醸成があくまでリアリティに基づいているのがお見事。

いよいよ女王アリのすみかに到着した軍隊が、一大攻防戦の上で殲滅するラストにいたり、トドメとも言うべき博士の「これで終わりとは思えない」発言でスパっとエンドマーク。

・・・

第一部のラストでも、第二部のラストでも、今まで散々コメディリリーフとして機能していた博士が、いきなり真顔で思わせぶりな事を言うあたり、実は爆笑モノだったりするんですが、基本的には「真面目」な作りが実に燃える。

他にもストイックに頑張り続けた主人公が子どもたちを助けた果てに命を落とす展開も、定番とはいえ衝撃的で、明らかにストイック過ぎた主人公はすっかりそのままFBIの色男に立場をバトンタッチするあたりはいささか「それはどうなの?」と思わざるを得なかったりするんですが、やはりそこはその「ストイック」さが魅力。

FBIの色男を演じているのが『遊星よりの物体X』の『X』を演じていたジェームズ・アーネスなのですが、邦題もまさかそれに引っ掛けているとは思えないにしても『放射能X』とはグルっと回って危険なタイトルだw
原題の『THEM!』もスーパークールで良い。特に『!』がね。タイトルはそこだけ着色カラーで赤かったりするのも実に味わい深い。

ボクを始めとして、現代の映画ファンは『エイリアン2』を先に観ることがほとんどでしょうから、ニュートがショック状態で最初喋られなかったり、人形を後生大事に抱えているあたりのオマージュには胸が熱くなる事確実ですよ。

それにしても、第二次世界大戦後のご時世では、怪獣に対抗するには軍隊が当たり前だったわけで、SFホラーである『エイリアン』の続編で軍隊との戦いをモチーフに持ってきたキャメロンは至極まっとうな(お約束)アイデアを再現しているってことが確認できますね。


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