男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

黒澤明監督作品『醜聞』を再見

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「あぶない、実にあぶない」

何度も書いていますが、僕が学生の頃は東宝黒澤明の映画は殆どビデオグラム化されておらず、観るためには海外から取り寄せるか、名画座でかかるのを待つか、発売されている東宝以外で製作された作品を観るしかなかった。

広島には名画座なんてサロンシネマぐらいしかなかったのですが、世界に誇る「映像文化ライブラリー」ではたまに黒澤明の映画をかけてくれたもんです。

閑話休題

そんな黒澤作品の中でも松竹や大映で製作されたいくつかの作品はビデオになっていたので観ることが出来たんですね。何しろ黒澤作品に飢えていた時代だったので、この『醜聞』も何度も何度も観ていました。

黒澤作品の中でもそれほど話題にのぼる作品ではないのですが、何しろ志村喬演じる弁護士「蛭田」というキャラが実に面白い。黒澤自身もかなり気に入っていたという発言をしています。

明らかにシナリオの流れが中盤から変わって、主人公が彼になってしまっているのがまさにその証拠だと思います。

それぐらい登場した途端に濡れた靴下を振りかざしながら意味不明のレトリックで熱弁を繰り広げる場面は面白い、実に面白い。

逆に言うとシナリオとしては一本筋が通っているとは言いがたく、あっちへいったりこっちへいったりという感じでへんてこな作りになってしまっています。もっとも、黒澤明のシナリオの作り方はハコ書きなしのいきあたりばったりなので、当然そうなっても不思議ではない。それぐらいこのキャラが動いてしまったんでしょうね。なので、本来主人公であるべき三船敏郎はまったくの脇役となってしまっています。


映像表現としては、『野良犬』から続く作品ですので、モンタージュによる「語り口」がますます冴え渡っており、サスペンスや実録風という使い方だった前作とは打って変わって、原題では当たり前の手法が次々と用いられています。例えば三船敏郎扮する絵かきと声楽のアイドルが(今で言う)パパラッチされてから、その記事が売りだされて世間の耳目を集めるくだりを「宣伝カー」「チラシ」「ポスター」「回る輪転機」などなどの映像をディゾルブしていく。続いて、三船敏郎が出版社の社長を訴えるくだりでは、取材する側のマイクやカメラ越しに二人を捉え、その釈明や声明を次々とワイプでつないでいって状況をトントン進めていく。この辺りの「編集による語り」はこのあたりの黒澤作品では際立ってよく観られる手法。


そういえば、被告側につく「えらい先生」に扮した青山杉作という役者さんが信じられないぐらいリアリティがあって驚かされました。多分学生の頃は本物の弁護士を起用しているんだろうと簡単に考えていたのですが、調べてみるとちゃんとした役者さんだったのでビックリ。周りの役者さんたちが当時としては仕方のないほど芝居がかった演技をするのと対照的に、明らかに「本物」感が漂っていて圧巻です。