男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

シネスイチ板橋プログラム19『トロール・ハンター』★★★ モンスター映画×水曜どうでしょうの奇跡


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今度は小学生だ!

一時期の大ブームは去りましたが、逆に一つのジャンルとして定着しつつあるPOVスタイルの「フェイクドキュメンタリー」映画。

予告を観たときは普通の劇映画かと思っていたのですが、フェイクドキュメンタリースタイルだと知って俄然興味が湧いていましたので、ブルーレイをレンタルして観ました。これがまあ、個人的に大ヒット。その日の昼間に観た『トータル・リコール』リメイク版が中学生に戻れる映画だとしたら、この作品は完全に小学生時代に戻れる作品でした。

大学生の三人組がドキュメンタリーを作るために、謎のハンターを取材するんですが、彼がハントしていたのは何と「トロール」だった!

この映画の成功はやたらと「真面目」な作りになっているところ。リアリティラインや世界観、トロールに関しての設定などなど、やたらと「真面目」に作りこまれている。これがゲームや映画に出てくる「トロール」しか馴染みのない日本人の僕なんかにしてみたら結構新鮮。太陽光線(日焼けライトでもいい)を浴びたら石化するのも、本当にリアルに石化するので驚くし、爆発したりする設定や、キリスト教の人間(血)に執着をみせたりと、生物としてのリアリティとしてはおかしすぎるんですが、それを「それ」として真面目に映像化している。ここらへんの線引が素晴らしい。舞台が『トロール』発祥の地であるノルウェーそのものなのもリアリティ抜群で、雄大過ぎる風景や寒々としただだっ広い荒野の映像としての説得力が驚異的。本当にいそうな雰囲気の場所に、実際に(結構質の高いCGIなのだ)トロールが現れるビジュアルはそれだけで燃える。

大学生たちが最初まったくまともに取り合わない感じが絶妙に観客の心理と符合しており、三人が徐々に暗闇の支配する森の中で「不気味な気配」に怯え始める展開もスムーズ。

最初のトロールが登場するまでの引っ張り方が個人的には素晴らしく、地響きや不気味な唸り声など、クマなどに代表される猛獣の恐怖を肌の感覚で描写される。これはトロールが題材でなくても充分恐怖感が満点で、逆にトロールが登場することでホッと息がつけるほどだ。

それ以降も、「車に同乗しての同行取材」というスタイルが、愛してやまない言わずと知れた『水曜どうでしょう』のそれと見事に一致していて、お馴染みの窓外の風景に声だけがかぶるといった演出もニヤニヤしてしまうほどの相似。つまり、車に同乗したドキュメンタリータッチを忠実に再現できているという事になる。

そこから生まれる運命共同体的な共犯感覚は、そのまま感情移入をスムーズに促してくれて、中盤に展開される「あわや!」という危機において「え!まさか!?」と思わせてくれる。

終盤でも笑っていいの変わらないような絶体絶命のピンチに陥る展開も白眉で、意外と信じられない事が生々しく起こったりする。ここらへんは脚本が緻密にねりこまれていることがうかがえる。

ラスト付近でのモンスター物としての大盛り上がりは、プロット上の盛り上げとビジュアルとしての盛り上がりが渾然となって無茶苦茶興奮しました。


もう一つ重要なのは、よくあるPOVスタイルの映像が手ブレぶれぶれで酔ってしまいそうになるのに反して、手持ちカメラなのに実になめらかなカメラワークが堪能できるのも特色。特に森の中でのスポットライト処理による安定感と、それが生み出す禍々しい恐怖感は絶品。僕は個人的に懐中電灯などによるワンスポットライティングが好みらしく、これと「森」や「洞窟」という人間の存在を完全に拒絶した空間との絡み合いが異様に怖い。

ツイン・ピークス』や映画版『ローラー・パーマー最期の7日間』、ジョン・フランケンハイマーの『プロフェシー』などの映像体験が根っこにあるのかもしれない。


ともあれ、モンスター映画と『水曜どうでしょう』が奇跡のようなコラボレーションを成し得たという意味では他に類を見ない快作に仕上がっています。


そういえば、ディスクを入れて再生が開始されると日本語吹き替え版が始まってしまったのですが、「これは、これでいいんじゃないのか」と思ってそのまま最後まで観ました。この手の映画には珍しく吹替もロスレスで収録されていたのでやたらと楽しめました。吹替オススメです。


風景から何からまさしく『ヨーロッパ・リベンジ』そのものですw