シネスイチ板橋プログラム20 トニー・スコット追悼『トップガン』
いい意味でも悪い意味でも後世に与えた影響は大きい
先日トニー・スコット監督が亡くなられました。兄のリドリー・スコット監督に続いてハリウッド進出し、今回の『トップガン』がいきなり大ヒットとなり、その後は一目観れば「トニスコだな」と分かる独特のビジュアルセンス溢れる作品を作り続けてくれました。近年ではエドガー・ライトが『ホット・ファズ』で大々的にオマージュを捧げて大爆笑させてくれた「イフェクトをかけ過ぎて何が何だか分からないけど、もしかしてこれってクールなの?」という、晩年のトニスコ映画独自の実験映画のような手法が特徴でした。
全開だったのがこの『マイ・ボディガード』。冒頭から全編ガチャガチャ凄まじかった。
閑話休題。
そんなトニー・スコットの大ヒット作である『トップガン』。亡くなった時もとりあえず『トップガン』の監督と紹介されていることからも、知名度の最も高い作品であることは間違いないでしょう。
製作されたのは1986年。80年代アメリカ映画の一大特色である「歌物サントラ」との大々的なコラボレーションによるタイアップ。そのひとつの頂点と断言してもいい作品でしょう。それぐらいこの映画のサントラは大ヒットし、今でも売れ続けている。
SMJ (2010-06-02)
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公開時にはこのサントラがどこにいってもかかりまくっていたもんです。そう、80年代は洋楽ブームでもあったのです。
なので、当時中学生だった僕なんかは思いっきりサントラも映画も観まくって聴きまくっていました。
あらすじ トム・クルーズがエリートパイロット候補生トップガンに選抜されがんばる。
今回ブルーレイで初めて鑑賞したのですが、まずロスレスDTS-HD6.1chの音圧の凄さに圧倒されました。冒頭の空母発艦シーンのモンタージュでクレジットが終わるやいなや、威勢よく流れ始めるケニー・ロギンスの『デンジャー・ゾーン』なんかウルトラド迫力。もう一気に気持ちは中学生に逆戻り、テンションMAX。
トップガンとは切っても切り離せない名曲。ケニー・ロギンスの歌声と共に80年代に青春を送った人間にとってはマストアイテム。PVも失笑モノのクールさ。
個人的にはハロルド・フォルターメイヤーの劇伴と一緒に、各種劇中のアレンジも収録したサントラの完全版が出て欲しいもんです。それぐらい『デンジャーゾーン』は手を変え品を変え本編にかかりまくるんですよ。
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当時から実は気づいていたのですが、この映画の脚本は笑っちゃうぐらいオーソドックス。モチーフとしては「学園映画」のソレなんですね。で、学園映画としてもそれほど出来のいい代物でもない。ははは。キャラクターの言動はことごとく青臭く、今で言う中二臭が全編を覆い尽くしています。ただ、そういった青臭いスメルを不必要に凝りまくった映像で活写したトニー・スコットの業績は、興行という結果を残すことになり、以降のハリウッドの大作商業映画に良くも悪くも影響を与え続けていると思います。まあ、悪い影響は言うまでもなくマイケル・ベイが存在できるという事なんですが……
兄のリドリーと同様、ストーリーテリングにはそれほど興味が無いらしく、異様に凝った美しい映像の羅列も、それでストーリーを云々しようという意図はまったくない。そういったMTV感覚が、上記の歌物サントラとのコラボにガッチリはまったわけですね。
とはいえ、サマームービーの青春学園映画にしては過剰に凝った映像というのはやっぱり面白くて、それがこの『トップガン』の見飽きないポイントとなっていると個人的には思いますし、この映画のファンはそういう楽しみ方をしているんではないでしょうか。とにかくノリの良さがただ事じゃないんです。
有名な空母離着陸シーンの舐めるようなカメラワークと色彩設計は、とにかく無数のフォロワーを生み出した。意味不明にカッコイイ作業員達とパイロットの手信号も。飛行機の離陸をバイクで追いかけるトム。ストーリーはまったく進まない。
今や見る影もなくなったヴァル・キルマー。当時は『トップ・シークレット』の直後で、一部の人間には知名度があった。このアイスマンで大ブレイクし、『ウィロー』などで活躍する。トムが自慢話を延々する時に「ウソコケ!」と咳のふりをして呟くのがおかしかった。
ヴァル・キルマーの見せ場。相棒を失ったトムを慰めるが言葉が続かない。
「アイ・アム・デンジャラス」中学生なら誰でも一度は使ってみたい台詞。青臭さ爆発のトムならではのハマリ具合。確かに宗教的な意味でデンジャラスな人間に成長していくことになるが。
『トップガン』と言えばコレ。ストーリーが特に停滞してしまう男だらけのビーチバレー。もう完全に飛行機すら関係ない。それでもこの場面での肉体美の捉え方が、戦闘機などの捉え方と同一線上のフェチシズムに満ちている点が重要。
メグ・ライアンが注目を集めた作品としても話題にのぼる。猛烈な可愛さを発散している。都合3シーンしか登場しないのに強烈な印象を残す。ヒロインのケイリー・マクギリスがメス臭ムンムンなだけに、このコケティッシュな魅力は心地よいコントラスト。ちなみに旦那役は言わずと知れたグリーン先生だが、髪の毛がフサフサモードなので『ガッチャ!』の主人公と言ったほうがいいかもしれない。まあ、それで誰だか分かる人間は少ないが……
こういうビジュアルがすきあらばインサートされるので油断できない。とにかく全編夕陽がらみで逆光照明が基本という、CM用語で言うところの「しずる感」に満ちた(なんの「しずる」かは不明だが)映像が連発される。さすが元CMディレクター。ただ、それを劇場長編映画でやろうとする人間が今までいなかった事は、スコット兄弟の躍進の理由でもあるだろう。
兄弟揃って、「映像の力」だけは常に磨きをかけ続けてきた監督。
トニーも最後の最後に強力なビジュアル力で押し切った『アンストッパブル』まで、一切ブレのない映画人生だったのではないでしょうか。
久々に気持ちのいいぐらいシンプルなプロットで押し切る快作。これでトニー・スコットを再評価しようと思った矢先だったのに……
二転三転するストーリーと技工を凝らした超絶カーチェイス、そしてブクブクに太ったヴァル・キルマーが観られる快作。これは面白いです。
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まるで実験映画のような映像が続く中、問答無用なデンゼル・ワシントンがコレ以上ほど堪能できる異色作。
タランティーノ・バブル時代に唯一巧くマッチングした傑作。ブルーレイの発売が待たれるところ。
ロバート・レッドフォードとブラッド・ピットの親子共演が嬉しい作品。トニスコがストーリーテリングの力も実はあるんじゃないかと証明しかけた作品。
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トニスコがトップガンのマージンで撮っていた頃の最後期の作品。ショーン・ブラックのワイズクラック満載の脚本が最高に楽しめる快作。個人的に大好きな作品。倦怠期の妻に文句を言われたら、一言「犬を飼え」
『トップガン』で上がった名声を一気に落とした作品。傑作だった前作と比べるのは野暮だが、あまりにもトニスコ節のまんまなビジュアルが泣ける。でも、個人的には憎めない青春の一本でもある。