男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『わたしを離さないで』★★★★

またマーク・ロマネクにやられる

去年テレビで観た『ストーカー』にやられて以来、観なければ観なければと思っていたマーク・ロマネク監督の次の映画。

ザ・ビーチ』の原作を書いて、『28日後…』や『サンシャイン』では脚本を執筆しているアレックス・ガーランドが脚本を書いており、抑揚の効いた構成や、残酷な中にも生と魂について考えさせてくれる。カズオ・イシグロの原作も読んでみたい。

今作では監督に徹しているマーク・ロマネクは、思う存分独自の映像世界を展開しており、全編引きこまれてしまうような映像美を作り出している。また、『ストーカー』でも効果的だった、ポンと切り替わる場面転換や、浅くとられた被写界深度を自由自在に操るフォーカス・ワークに磨きがかかっている。さらに『ストーカー』で特徴的だったメリハリの効いた色使いとは対照的に、イギリスの風景を淡い色使いで切り取ってみせる。これはそれぞれの作品のテーマに即したデシジョンであり、感動的なほど的確。

今回撮影を担当したアダム・キンメルは『カポーティー』でも静謐な映像美をみせてくれたが、今回の全体が溶けこんで一枚の水彩画のようになった映像はまことに素晴らしい。極めて難しい「微妙な手持ちカメラによるカットバック」などでも、完璧なカメラ・オペレーティングをみせつけてくれる。

キャスティングも適切で、キャリー・マリガンは前から気になる女優さんだったが、観ているだけで胸が締め付けられるような表情や仕草をしており、想像以上の感情移入を促される。何度か涙を流すシーンがあるのだが、そのどれもがもらい泣き必至の見事さだ。逆に涙をこらえている場面でも、それが痛いほど伝わってくる名演技をみせてくれる。

ソーシャル・ネットワーク』でも見事なぐらい「損な役」を演じていたアンドリュー・ガーフィールドも、「やさしいけど癇癪持ち」という、個人的に胸が張り裂けそうになるようなキャラクターを見事に体現している。それを差し引いてもイノセンスな挙動や、感情を引き絞るような表情には胸をうたれる。

二人の子供時代を演じた イゾベル・ミークル=スモールとチャーリー・ロウという子役も見事で、本当にふたりの子供時代なんじゃないかと思わせるほど芝居の連携が見事に活きている。終盤でインサートされるふたりのショットなどは涙無くしては見られない。


決して楽しい気分にはなれない映画ですが、とてもじゃないけど忘れられない余韻に胸を貫かれる傑作だと思います。

マーク・ロマネクの次回作が早くも観たいですが、寡作なのでいつになることやら。