男たち、野獣の輝き

旧映画ブログです。

Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『ヒューゴの不思議な発明』★★★1/2

中クロエの魅力を堪能

いつ頃からだろう、スコセッシの映画にまったく期待しなくなったのは。

今回はスコセッシ初の3D映画ということもあるし、何よりもクロエ・グレース・モレッツが出ている事もあって、かなり期待して観に行きました。

結論から言うと、その動機のどちらも期待以上の満足が得られた上に、ストーリーで描かれる映画(それにかぎらずすべての創作に対して)への愛情に胸を打たれました。

また、「孤児モノ」としての完成度も高く、ほんとうの意味での「子供向け映画」として近年稀なぐらい真摯な作りになっているのも大きな収穫でした。

しかも、スコセッシと撮影のロバート・リチャードソンがその作品世界に対する演出技法として3D撮影を駆使しているのも素晴らしかったです。逆に言えば、3Dという技法を映画の中で演出として使うにはこれほどの高度なスキルが要求されるのだと証明しているわけで、そんじょそこらのにわか3D映画にまったく価値が無いことを立証している。

そして、ちょうど現在の大クロエになる直前の、中クロエの魅力が画面から(文字通り)ほとばしっているのも嬉しい驚きでした。スコセッシがまさかこんなに「女の子」をキチンと扱えるなんて思ってもみなかったです。同じ年齢だったジョディ・フォスターをあれだけちゃんと扱っていたのですから問題ないのは分かりきっていたのですが、ちゃんと「ヒロイン」として単純に「可愛く」撮っているのは正直びっくりしちゃいましたよ。

文学少女=ベレー帽という記号性も素敵ですが、単純にすごく似あってる。帽子を取ると唐突にお得意のしかめっ面になるあたりもファンにはたまりません。


可愛い女の子と並んで座って映画を観るなんて、映画好きの子どもなら誰しも夢見るシチュエーションだ! またこの時のクロエのリアクションの可愛さは悶絶モノ。


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「人間社会全体を一つの機械と考えるなら、不要な部品は何一つ無い」

自分の生きている目的を自覚できないイザベル(クロエ)に、ヒューゴはこう話す。このテーマをスコセッシは画面中に具体的な映像記号によって埋め込んでいく。ビジュアルでテーマを物語る「映画」としての基本をこれでもかと叩きこむスコセッシの演出技法そのものが、この映画のストーリーの骨格を見事に浮き彫りにしており、上述の「演出のための3D技法」にもつながっていく。

感動的だったのは、イザベルが「物語」を「小説」として形にし始めるエンディング。「映画」について語っていた物語が、普遍的な「創作」に対してのアプローチに昇華されていく瞬間に胸が熱くなった。しかもそのシークエンスのカメラワークが素晴らしく、どの対象にもとどまらずに流れるように描いていく。すべての人物が等価値にそれぞれ前進していく様を見事に活写している。そのカメラがイザベルの書き進める文字に寄っていくのだからたまらない。


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近代映画の始祖ジョルジュ・メリエスの回帰

ご多分に漏れずボクもメリエスの映画は『月世界旅行』しか観ていないが、それでも彼の映画史における重要性は厭というほど繰り返し読んだり聞かされたりして刷り込まれている。しかし、この「刷り込み」として彼を再評価した人たちに対しても言及される。その登場人物が撮影現場でメリエスに邂逅し、「夢の源泉」を聞かされるシーンも素晴らしい。過去の作品の保存に尽力するスコセッシならではの視点であり、物語のピークとして力強く描写される。ただ、その視点へのベクトルがスコセッシのなかで強すぎるきらいはある。おかげでクライマックスでは主人公とヒロインは観客席に座っているだけだ。感動しながらもこの映画の数少ない欠点といえるだろう。

もっとも、それを踏まえた上で、「失意のどん底から再生する」メリエスのパートはこの物語の中心であり、もっともエモーショナルな部分であることは疑いようがなく、それをセンチメンタルに過ぎるほど執拗に描いたスコセッシの気持ちも鷲掴みにされるほど伝わってくる。異論はあれど、原則的に「映画」(創作)は監督が言いたいことを一方的に押し付ける作業にほかならないわけで、そういう意味ではこれ以上ないほど成功しているといえる。

演じたベン・キングズレーも圧巻の好演。


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3Dであることを全面に押し出した演出

今作は「3D映画」であることが根本的なテーマにも直結している。スコセッシは「映画演出」を徹底的にアグレッシブに使いこなす達人だ(った)。『タクシードライバー』の人物を無視してパンニングしてまた人物に戻るカメラ、スローモーションで歩く人物や蒸気、ゆっくりと振り向くトラビスを2回繰り返すカッコイイ演出、説明不可能な速度で人物に寄っていくトラックショット、『グッドフェローズ』の目眩くスピーディーな編集、流麗なクレーンショット、サスペンションで弾む車体後部のアップ、『レイジング・ブル」のストップモーションの入れ方、スローモーションからノーマルスピードへの1カット処理、『ケープ・フィアー』のSFXを使ってまで暗雲立ち込める空をバックに、出所してきたデ・ニーロがカメラにアゴがあたるまで1カット処理するショット、などなど。枚挙にいとまがないほど印象的な演出が多い。

そんなスコセッシが3Dを使ったらどうなるのか?

映画ファンの期待はほぼここに集約されただろうし、ボク個人もそうだった。ファーストカット、ILMによる雪の舞う駅の全景からグングンカメラが寄って行き、駅のホームを一直線に突き進むんだ上、遂に時計の文字盤の裏にいるヒューゴの目のアップにまで続く。もちろん近年ではこういった長回しは技術的になんら難しいものではないが、特筆すべきは「ホームを突き進む一直線」ブリだ。あれぞスコセッシ。物理的にカメラが通れるわけがない溢れかえる乗客やベンチなどが巧妙に配置してある。あそこからグイっと映画に引き込まれる。
そして、駅構内のショットなどで全編に漂う「ホコリ」。このホコリが作品世界に対する没入感を見事に促進している。
3D映画の欠点として、ロングショットが「ミニチュア」のように観えてしまう点がある。この映画ではこの欠点でさえ作品世界を補完する形で取り入れられている。パパジョルジュの家へ向かう全景ショットが二度登場するが、どちらも「挿絵」のような効果を映画に与えることに成功している。

ベン・キングズレーサシャ・バロン・コーエンをはじめとした大人たちの顔面のアップも実に効果的であり、他の3D映画でありがちな不自然な違和感はなく、圧倒的細密さで観客に迫ってくる。転じてヒューゴやイザベルのイノセンスな顔の表情もくっきりと印象的に切り取ることに成功している。ここも3Dの効果抜きには考えられない。


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「子供向け映画」としては126分は長いように感じるし、駅構内の追っかけや時計塔でのサスペンスにまったく冴えがみられないなどの欠点もありますが、「読後感」がこんなに良い映画は最近なかなかないので、素直に楽しい気分になれる映画でした。なにより3Dが初めて演出として機能するのを観られたのは衝撃的でした。


そして、もちろんクロエ・グレース・モレッツのファンにとっては必見といえる映画です。「普通」じゃない女の子ばっかり演じてきたクロエにとっては初めて「まともなヒロイン」なので、それだけでもファンには満足度の高い映画です。「一緒に映画館」という悶絶モノのシチュエーションに加えて「一緒に図書館」までありやがりますからね!


おすすめです。


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本編同様スチールもくっきりとキレイなモノばかりで満足度が高いです。原作者自身が執筆している不思議なメイキング本ですが、きちんとその機能を果たしているのは立派。


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先日発売されたアメリカ版ブルーレイ。このレベルの映画が増えれば3D環境も欲しくなりますが……