男たち、野獣の輝き

旧映画ブログです。

Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『オデッセイ』(火星の人)★★★★

近代漂流記モノの傑作誕生

TOHOシネマズ新宿TCXスクリーン 3Dにて鑑賞

原作を読んで以来観たくて仕方がなかった「火星の人」もとい『オデッセイ』

不安材料だったリドリー・スコット監督が、今回は「珍しく」ちゃんと職人仕事をしているということで、アメリカでの評判もかなり高かったのが笑えました。

実際今回は原作を読んでいるということもあって、遠慮なく予告編を毎度観ていたんですが、キャスティングへの違和感が殆どゼロであることや、宇宙フェチともいえるリドリーの映像が見事にマッチしていて期待も高まっていました。

果たして前夜祭にて3D上映を観てきたのですが、これはもう拍手喝采お見事な傑作に仕上がっており、大満足で3Dメガネを外せました。

もちろん原作の売りである「矢継ぎ早な危機また危機に対しての徹底的な科学的アプローチ」や「主人公ワトニーの極めて現代的なユーモアと前向きな姿勢が堪能できる一人称による語り」などなどは、映画に置き換える段階で当然簡略化されていたり、整理整頓されていたり、実際に流すことのできるディスコミュージックへ依存していたりするんですが、それがどれもこれも納得できる改変になっていました。

脚本を手がけているのは『クローバーフィールド』の脚本を手がけ、あの問題作(w)『キャビン・イン・ザ・ウッズ』の脚本と監督も手がけているドリュー・ゴダード。本来今作の監督も担当する予定だったそうですが、大作への移行に伴いベテランであるリドリー・スコットが監督になったようです。それが先述したように不安要素だったわけですが、結果的にはリドリー・スコットがいつもの残虐性や変態性を抑え、脚本及び原作の肝である「陽」の部分を的確に演出に反映させており、近年稀というよりも、恐らく史上初の「一般受けする」映画をモノにしたんではないでしょうか。個人的な考えですが、弟のトニー・スコットが亡くなっている事も大きく関係していると思いますので、リドリー・スコットの今後には大きく期待せざるを得ません。


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わたしは子供の頃から「漂流モノ」の題材が三度の飯より好きなんですが、「漂流モノ」には大別して二種類あります。これはごく簡単に「独り」か「グループ」かです。言うまでもなく漂流モノの名作『ロビンソン・クルーソー』が「独り」の代表です(途中でフライデーが仲間になったりするけど……)。


「グループ」だとそこはやはりジュール・ヴェルヌの『15少年漂流記』になるんでしょうね。


『スイス・ファミリー・ロビンソン』なんかは家族で漂流ですね。

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こちらは個人的にはアニメ化された『南の島のフローネ』として記憶されています。


当然『蝿の王』も漂流モノですし

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SF作品にも『漂流モノ』はたくさんあって、わたしが読んでいたりするのは以前ブログでも紹介したジョン・W・キャンベルJRの『月は地獄だ!』

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や、やはり外すことは出来ない楳図かずおの傑作『漂流教室


などなどですねえ。


そんな中、刊行当初から気になって仕方のなかった今回の『火星の人』

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すでに映画化が決まっていましたので、映画を観る前に読まないほうがいいよなあと思っていたりしたんですが、病気で寝こんだ時にフと電子書籍で購入して読み始めたら一気に読んでしまったのでしたw


そして、映画では我が愛する『キャスト・アウェイ』が近代漂流モノでは個人的にベストでした(というよりも、他にあんまりないw)。

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『漂流モノ』というのは大抵漂流した主人公なりグループを描くことが殆どで、救出側が描かれることはほとんどありません。大抵は漂流した側は「死んだ」とみなされて話が進むのが基本です。これは漂流した主人公なりグループなりの行動や物語を一緒に体感するのが『漂流モノ』の古典的な醍醐味だったからでしょう。

で、

今回の『火星の人』及び『オデッセイ』の面白いところは、主人公ワトニーの生存を確認したNASAの救出ミッションも同時進行で描くことです。原作ではワトニーの描写は「一人称」それ以外は「三人称」と区別することで、ワトニーのユーモラスな文体を堪能しつつ、三人称客観視点でのNASAの描写にメリハリがつくのが特色で大変リーダビリティが高く、一人称スタイルと三人称スタイルの美味しい所どりともいえます。

映画は原理的に「三人称」に成らざるをえないのですが、リドリー・スコットはワトニーがビデオログや文章での記録を残すという「映像」的な擬似一人称を採用しており、まあ、言ってみればスタンダードなアイデアではあるんですが、そこも全編「主観」とか、全編「ビデオ画面」とかにすることなく、それはアクセントにとどめる極々オーソドックスな手法で描いていきます。先述したように今回のリドリー・スコットは非常に肩の力が抜けたような演出なので、偶然なのかこの作品のテイストととのすり合わせが上手く言っているのが成功の要因だと思います。

とは言え、ヴィークル改造のくだりなどに代表されるように、「カットバック」という映像文法を見事に使った緩急の付け方やギャグ、そして説明描写の簡略化やテンポのアップなど、編集面での語り口が実に見事なんです。これはゴダードの脚本の功績もありますが、編集のピエトロ・スカリアの力が大きいと思います。なんせあの『JFK』を編集した人ですからね。

NASAといえば傑作『アポロ13』でも「重大な危機に対して技術者をはじめとしたチームが一丸となって知恵を絞って対処する」という極めつけに好みの展開を見せつけてくれたわけですが、『ゼロ・グラビティ』ではまったく活躍の場を与えられなかった怨念を晴らすかのように、今作では相変わらず「科学者技術者総動員で救出ミッション」を繰り広げてくれます。

まあ、これが熱いこと熱いこと!

近代的なNASAモノということで、日本の誇る名作コミック『宇宙兄弟』でも描かれる「予算」「日数」などなどのリアリティ満点のトラブルやピンチも描写されて、非常に満足度が高いです。


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JAXAと共にNASAも重要な舞台として登場します。


転じて、わたしの大好きな「漂流モノ」として描かれる火星側。これがまた実に面白くてよく出来た「漂流モノ」になっているんですよ。原作でも非常に評価されている「ユーモア」 これが「火星」という究極に殺伐とした「島」でどれだけ観ている側にも潤いになるかw そして、ユーモアが随所に挿入されることで、突発的に起こる大ピンチの恐怖やサスペンスが否が応でも盛り上がるんですね。この緩急自在の展開は原作のスピリットを見事に残しつつ、映画的にも(視覚的にも)キチンと改変されている部分が盛り上がるようにできています。

とにかくダクトテープがあればなんとかなるというアメリカンスピリットが映画でも最重要要素として描かれているだけでも評価できます。


アメリカ人のダクトテープへの信頼感はどれだけ高いんだと思い知らされます。


リドリー・スコットが映像としても「漂流モノ」を強く意識している描写が多く、ポッツンと座って地平線を観ている姿(漂流モノでは水平線)。



衛星軌道から撮影されたような真俯瞰のショットの多用。ヴィークルが動いていく航跡が砂上に残る描写。

そして、なんといっても「食料の自給自足」でしょう! これぞ『漂流モノ』!


ハブの中で仲間の残していったウ○チを使って畑を作り、パーティ用に持ってきていたジャガイモを栽培しようと悪戦苦闘する過程の面白さ。少し違えどわたしの大好きな『太陽を盗んだ男』の原爆製造や、『フレンチ・コネクション』の車解体に通じる「ネチネチした描写」が堪能できます。特に「水」を作るエピソードには大笑いさせてもらいました。一度失敗して爆発に巻き込まれたあと、カメラの前に現れるワトニーが体中から煙を漂わせているコントのような演出に大笑い。しかも、その後の「厳重装備」でリトライとかw



本作で一番感心したのは、いよいよ救出の時がやってきた時のワトニーの身体が「ガリガリ」に痩せてしまっているのを映像で描いているところです。これぞ小説では描けない、映画ならではの直接的なインパクトで、リドリー・スコットの面目躍如。CGIを駆使してマット・デイモンを痩せているように見せているわけで、そこはやはりリドリー・スコットの映像に対する美学を感じさせてくれました。

「火星」「地球」そして、「宇宙船」という3つの舞台をカットバックさせてテンポよく描かれていく「漂流」&「救出」劇が、実は年単位の時間が流れているんだということを端的に表してくれますし、それによっていよいよクライマックスが始まるんだという構成がいいですよねえ。


果たしていよいよ始まる「救出」のクライマックス。


これがまあ、見事すぎるほど盛り上がって。ここでも「ユーモア」を漂わせつつ、さすがサスペンスフルな演出をキチンと成功させていて、リドリー・スコットの職人的な腕を見事に堪能させてくれます。原作よりも盛りに盛ったサスペンスの積み重ねは映画ならではの興奮が味わえます。


加えて、観る前は「蛇足は足すなよ」と思っていたエピローグが、まさかのまさかで足されていて、一瞬「おいおい」と思ったものの、幕切れの爽快さも相まって映画としての満足感は高いまま終わってくれました。


『オデッセイ』は観ていて、ずううっと『幸せ』な気分が持続する映画です。それは「人間の英知はどんな困難でも乗り越えられる」という個人的に大好きなテーマや「困難に対して一致団結して立ち向かう」という大好物のストーリーもありますが、それを<余計なことを描かず、ストレートに乱れなく物語る>という、近年ではなかなかお目にかかることが出来ない、作り手の結晶のようなエンターテイメント魂に対して湧き出てくる『多幸感』でした。

ゼロ・グラビティ』の時もそうなんですが、こういう「曇りのない作り手の気合」というものがそのまま作品として成立することは結構貴重なことで、そういうモノを観せられるとただただ恍惚とした幸福に満たされるんですね。


まさか、リドリー・スコットの映画でこんな幸福を味わえるなんてw


というわけで、全力をもって皆さんにオススメできます!


ではでは。


・・・

そういえば、今作はキャスティングが素晴らしく、原作を読んでいてもほとんどのキャラに違和感がない。

もっとも、原作を原語の英語で先に読んでいた友人曰く「原文だともっとナードやギークといった感じで、マット・デイモンという感じではない。が日本語翻訳ではSNSなどの流行り口調が抑えられているので幾分マッチョな印象になっているのでマット・デイモンもあり」という印象だったそうです。で、先日映画を観た友人が改めて「映画(シナリオの改変)ではマット・デイモンが適役だと思います」ということです。詳しくはこちらの友人のブログを参照してください。ひっじょうに熱くなる名レビューです。



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そして、言わずと知れた問題作『無人島へ家出』w


まあ、自分からわざわざ漂流してるし、勝手に家出してるんだから、厳密には「漂流モノ」じゃないんですがw わたしの「漂流モノ」の原点とも言えるものなのでw