息子 [DVD]DVD発売決定!!
- 出版社/メーカー: 松竹
- 発売日: 2005/05/28
- メディア: DVD
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まったくこういう大ニュースを書き忘れるなんて耄碌したもんです。
山田洋次監督の最高傑作である「息子」が遂に遂に涙のDVD化っす。
勿論シネスコ・スクィーズ収録です。特典は監督のインタビューしかないのが物凄く残念ですが、シネスコをスクィーズ収録なのが嬉しいです。LDでは中途半端なシネスコサイズ(若干左右が切れている)だったので、完全なアスペクトでの収録を希望します。
ハッキリいって「ダサい」と感じられる方もいると思います。しかし! それを補って余りある面白さが充満しているのです。それに気づいてしまえば、その「ダサさ」すら愛すべき演出であり、なくてはならないと感じるはずです。
ボクとしては一人でも多くの人にこの「息子」のよさを感じてもらいたい。なので、安易とは思いつつも、この映画の単純な面白ポイント攻略法を書き記そうと思います。
この映画は三部構成になっています。
先ず第一部
永瀬正敏扮する哲夫(こいつがいわゆる息子)は、国家予算にけちをつける店長の下で「人間関係が煩わしいからやめるかもしんね」等とぼやきながらも、ダラダラとその居酒屋で働いているが、ある朝とおちゃんから母親の一周忌に岩手の田舎へ呼び戻される。そこで待っていたのは堅物のエリート社員で勝ち組街道まっしぐらの兄貴と、近所の老人が丸焼けで焼死したなどと縁起悪すぎる話題ばかりのケーシー高峰、そして哲夫にだけは親父ぶる三国連太郎。姪っ子たちにはTシャツをずたずたにされつつも笑顔を絶やさない哲夫だが、兄の紹介した仕事を辞めたことがバレて気まずいムード。「おれの立場どうなるんだよぉ」とタバコを持つ手も震える兄からも逃げ出し、兄貴の肩ばかり持つ親父に対しては、「あんちゃんばりめんこがって!」とブーたれたり、「東京だば冷房の効いたビルん中でぇ、コーヒー運んでもぉ、時給800円だからな。経済のすぃくみ(仕組み)がそうなってるんだぁ、今の日本はぁ…」としたり顔の哲夫は、親父の逆鱗に触れて結局気まずいまま帰京する。
そして第二部。この第二部が本編を楽しむのに充分な要素がたっぷりと詰まっています。
結局居酒屋を辞めてしまった哲夫はすうしょくじょうほうし(就職情報誌)をみて「汗を流すような仕事をやりたいと思ったんですよ」というすっとぼけた動機で、金属関係の硬い会社に転勤。ここで金属を運搬する業務に従事する哲夫は、朝日運送の運転手タキ(田中邦衛一世一代の当たり役)と渋々仕事を共にする事になる。タキは哲夫の上司であるいかりや長介などには頭が上がらずオドオドと弁当をかっ食らったりする反面、年下の哲夫と二人になるや映画史に残るボヤキを畳み掛ける。
曰く
「わけえやつぁいいよなあ…好きな仕事選べてよぉ…たけえ銭とってよぉ…彼女と…車で遊び歩いてよぉ! 50過ぎてみろ…ビルの夜警ぐらいしかねえんだぞ! 仕事よぉぉ!」
開口一発目にこれ。コーヒーのカンを早飲みしたり、ガシャンと捨てたり、車のドアを閉めたりとリズミカルに繰り出す田中邦衛の芝居は圧巻で、イキナリ観客に恐慌を強いる。
続いて渋滞に泣きこまれるやここぞとばかりに
「チンタラチンタラ走りやがってよぉ…なあにがサーフィンだよ(前の車両のサーフボードをみて)…派手な板っ切れ乗っけやがってよチクショ…(ハンドルを殴る)…こっちゃあ鉄の棒乗っけて走ってんだチクショオ(天井をガン!)…バカヤロオ…おい!遊ぶんなら電車で行ってくれよ!休みの日に!ったくよぉ……何のために日曜日があるんだぁバカヤロォ」
とブチまける。思わずビビって動揺を隠せない永瀬の素のリアクションが邦衛の卓越した芝居を裏付ける。
仕事の帰り道でも容赦なく
「まっっったくよぉぉぉ…このクソ暑いのに…うちとこの車はエアコンもねんだもん…おまけに一日働いて家に帰ると…おっかあがクーラー買えクーラー買えって…まったくよぉ…あのおふくろは家でのらくらしてて、せがれが晩に帰ってきたら何を買えってそればっかりでよぉまったくよぉ」
と知ったことじゃない身内の話をかます。ところが哲夫は配達先で知り合った可愛い子ちゃんに一目ぼれして上の空。
タキも負けてられないとばかりに
「なあにがリゾートだぁ!ったくよ!」
と脈絡なく吼える。
次の日になっても衰えるどころか
「どぉなってんだよまったくよぉぉこの混み方ぁ……政治が悪いんだぁ政治が!!」
と突拍子もない飛躍のボヤキを観客にたたきつける。
そして間髪いれず
「大企業ばっかり儲けやがってよぉ苦労はみんなおれっちみたいな運転手が背負い込んでんだよコンチクショー」
とクラクションを連打! 痛快!
挙句にとどめと言わんばかりに、運搬先の看板にまで難癖をつける
「ほんとに中途半端な高さだなまったくよぉぉ…ふざけてるよ…」
この最後のボヤきは伏線も活きていて大爆笑なので、本編を観る際には厳重注意が必要です。
とにかく何から何まで現代社会に対してドロップキックの連続なのが素晴らしいです。
物語としては哲夫がストーカーになったりして進みますが、終盤ではタキがむち打ち症になるという予想もつかない展開になだれ込んで、第二部は幕を閉じます。
最後は第三部で、親父の上京を描きます。
この第三部は親父の三国連太郎の視点で物語が進行し、第一部での兄の家に行ったり*1、戦友会へ出席したりして、いよいよ哲夫の家へやってきます。ここからが実にいいんですが、こればっかりは本編をぜひ観ていただきたいと思います。
三国連太郎は言うまでもなく、脇役の人たちまで全員活き活きといい芝居を連発し、生活感が素晴らしいのがこの作品のいいところの一つです。
美術も生活感を生み出すことに終始していて大変素晴らしい仕事爆発。タキの部屋なんてテレビ一つとっても手が抜けてない素晴らしさ。また哲夫の東京のアパートも狭さや台所の安普請さが琴線に触れまくりです。
タキの運転するトラックの運転席に至っては、役に立つわけがない小型の扇風機がいい味出していたり、鬱陶しさに拍車をかけるタキのうちわなどの小道具類も絶品。
繰り返しますが、良くも悪くも山田洋次のダサい部分が散見する映画ではあります。しかし、それは全く欠点とは言えず、むしろそうであればあるほど誤魔化しのないシナリオや芝居を堪能できるということでもあるのです。それにダサいと感じる部分も味と感じることが請合いなのです。
山田洋次の作品にはそういう魅力が詰まっています。ボクも最初はそうでしたが、偏見を捨ててぜひ観て欲しいと思いますね。
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この映画も名作中の名作。クライマックスの有名な感動シーンもいいんですが、それに至るロード・ムービー的な部分が本当にいいんです。若き武田鉄矢と桃井かおりのコンビが最高です。
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- 作者: 山田洋次
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