男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『モールス』(「ぼくのエリ」の原作)を読みました。

MORSE〈上〉―モールス (ハヤカワ文庫NV)
ヨン・アイヴィデ リンドクヴィスト
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映画とはまた別の傑作


『ぼくのエリ』(LET THE RIGHT ONE IN)の原作、『モールス』を読み終わりました。時間を見つけてちょこちょこ読んでいたのですが、下巻になってからはどうにもやめられなくて、一気に読みました。

原作者のヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストは『ぼくのエリ』の脚本も自身で書いており、映画のほうではオスカー(原作ではオスカル)とエリのストーリーに焦点が絞られ、他の部分はかなり大胆に省略されています。と言っても、原作小説の方も基本はオスカルとエリの物語が中心になっており、感動的な部分もまったく同様のものが得られます。しかし、小説では、ホラー小説としてのエピソードや描写がかなりてんこ盛りになっており、そこがまた実に「燃える」。ははは。

<以下ネタバレ>


映画版ではちょこちょこ引っかかる部分が、小説ではちょっとしたセリフなどでそれを解消しており、映画版でもそうやって疑問を解消していってもいいように思えます。例えば、一度窓から招き入れたエリなのに、玄関から入るときにまた招かれないといけないシーン。小説ではちゃんとオスカルが
「でも、窓から、もう……」
「ここは新しい入り口だもの」
というやりとりがある。
小説版はそういった「ちょっとした事」でもかなりキチンとフォローされているのが気持ちいい。

また、映画版でも魅力的だったエリの置き手紙。小説では部屋の冷蔵庫や物からエリが吸血鬼であることを確信したオスカルは一気に恐怖と嫌悪に包まれるんですが、部屋を出て行こうとした瞬間にあの置き手紙を見つけるんですね。それで一気にエリの気持ちが分かって180度考え方が変わる。また置き手紙の文面も映画版より少し長くて感動的なんですよ。このシーンはかなり泣けた。

そして、一番映画版と違うのは、エリと一緒にいたホーカンという初老の男の扱いですね。映画版ではエリのことが大好きで無償の愛を捧げているような描写ですが、小説版では小児愛者でけっこう性的な描写が多い。しかも、エリに血を吸われて窓から落っこちるまでは映画版と同様なのですが、そこで首をグキっとやられなかったせいでゾンビとなって蘇ってしまう。映画版では落下する途中で入り口の庇にぶつかって明らかに首が折れている描写があるので復活していないのにも納得出来るようになっています(リメイク版ではそれがないので、続編を意識しているのか? ははは)。
ゾンビとして復活したホーカンがアパートの地下室でエリと戦うシーンは結構手に汗握らせてくれます。ゾンビになってタガが外れてしまった証拠が、「延々と勃起し続けるペニス」ってのもすごいですけど。ちゃんとエリを犯そうとしますし。そのあとでエリが夜明けの光を避けながら自分のアパートへ死に物狂いで逃げる描写も実に良い。

もっとも、タイトルを『モールス』にしてあるくせに、原作にはラストのトランクからモールス信号でオスカルにエリがメッセージを送るシーンが無かったりするんですけどね。あそこは映画版ならではの名シーンでしょうか。もちろん小説版の想像の余地をたくさん残した描写も美しい幕切れですけどね。


『ぼくのエリ』の原作という形で読みましたが、これは一本のホラー小説としてもかなりの傑作だと思います。緻密な生活描写ややけにリアリティのある吸血鬼の生体描写なども含めて、スティーブン・キングっぽさはたっぷりと味わえました。

この作者の二作目であるゾンビ物も早く翻訳されて欲しいですね。



Let the Right One in
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