男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

クロエ・モレッツ目当て(じゃなくても必見)第五弾『LET ME IN』★★★1/2


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美しい「大クロエ」が堪能できる傑作

スウェーデン映画の傑作ホラー『LET THE RIGHT ONE IN』(”正しきもの”を受け入れて)という作品を、『クローバーフィールド』のマット・リーヴス監督が自ら脚本も書いてリメイクしたアメリカ映画。

オリジナルの『ぼくのエリ』は2月4日にDVD化されます。”ボカシ問題”(後述)なども懸念されていますが、そういった事は抜きにしても傑作です。


リメイク版の今作は日本公開未定です(8月5日公開決定)が、『キック・アス』のクロエ・グレース・モレッツが主演しているので、遠からず何らかの形で観られることでしょう。

もっとも、ボクは我慢出来ないので先日発売されたアメリカ盤ブルーレイで観ることにしました。

結論から書くと、こちらもオリジナルに負けず劣らずな傑作。個人的に『クローバーフィールド』の成功はマット・リーヴスの力が大きいと思っていましたので、今回は話題性抜きで、作品を成功させた事が素直に嬉しい。

・・・

基本的なプロットはオリジナル通り。

『いじめられっ子の主人公が住むアパートの隣に、ある夜美少女が引っ越してくる。夜のアパートの公園で遊ぶうち、徐々にお互いの心が通じてくるが、町では不気味な事件が起こり始めていた……』

という感じ。

スティーヴン・キングが去年の映画ベスト10で1位に選んでいるからというわけでもないんですが、初期のキングが書きそうな雰囲気の作品です。原作もスウェーデンで大ベストセラーになっており、日本でも去年翻訳版が発売されました。

原作は未読です(読了済み。原作『モールス』の感想はこちら)が、オリジナルの映画版では曖昧に表現されていた幾つかの設定が、リメイク版ではハッキリと変更点を明示してあるため、「原作の最映画化」ではなく「映画版のリメイク」というポジションになっています。アメリカのメジャー系映画では原作通りの設定を盛り込むのは難しいと思いますし、個人的にはリメイク版の「シンプル」な設定は有りだと思います。

オリジナルでも被写界深度を極めて浅く設定した、大変美しい画作りが採用されていますが、リメイク版は映像面でも忠実に再現しています。加えて公園の街灯を使った琥珀色の色使いが特徴的で美しい。撮影はGreig Fraserという人。他の作品は知りませんが、オリジナル以上にシネスコサイズを効果的に生かした構図が見事です。

マイケル・ギアッチーノの音楽もオリジナルを意識した美しい戦慄を再現しつつ、不安な音を要所要所で鳴らしてくる堅実な仕事。

Let Me In
Let Me In

さて、<ネタバレ>もありますし、クロエ・グレース・モレッツまみれになりますから、たたむことにします。ははは。


<以下ネタバレを含みますので『ぼくのエリ』を未見の方は気をつけてください>



という訳で、クロエ・グレース・モレッツですよ。




公園のシークエンス。ジャングルジムで待ち合わせするクロエを大変美しく撮影しています。彼女の特徴である高い鼻が生み出す横顔やシルエットがたまりません。


クロエ・グレース・モレッツの役どころは隣に引っ越してきたアビィ。正体は吸血鬼。年齢は12歳ですが、何百年も前から生き続けています。お話としてはアメリカ映画の典型である「ガール・ネクスト・ドア」に属します。その相手が吸血鬼だったというのがヒネリですね。勿論吸血鬼映画ですから、抜かりなくホラー描写も満載。オリジナルとは違って、クロエの吸血鬼は本性を出すとメイクアップで凶暴な面構えに変身します。



初めて主人公の少年の前に姿を表したときは、フードに薄汚れた顔、しかも裸足というビジュアルですが、上記のように美しく身繕いをしてブーツも履いて現れるところに淡い恋心を感じさせて好きです。


二人の初デートはゲームセンター。パックマンよりも主人公ばかり観るクロエが可愛い。吸血鬼だけど。



少年の大好きなお菓子を勧められるけど、吸血鬼は「生き血」以外は受け付けないので遠慮する。でも少年が残念そうにするので、思い切って食べてみる。そして、吐く。オエレレレレ。


吸血鬼といってもメンタリティは完全に12歳の少女なのが切ない。


だから吐いた後に抱き支えられたりすると胸キュンですよ。吸血鬼だけど。


デートの後に姿を消したと思ったら家の前で待っているクロエ(吸血鬼)。「おやすみ」だけをニッコリという彼女に、観ている方は少年とシンクロ率100%


一方、吸血鬼には従者が付き物で、彼女にも年配の男が付いている。オリジナル通り「杜撰」なやり口で若者の生き血を集めようとするが、勿論オリジナル通り「まったく上手くいかない」。ははは。オリジナルと違い、冒頭部分で搬送される場面をフックに使ったり、車での事故シーンを1カットで処理したりするあたりはハリウッドならではの変更。


ドジ続きの従者を心配そうに見守るクロエ。


案の定ドジを踏んだことをラジオで知るクロエ。


いよいよ病院に乗り込んでくるクロエ。裸足の戦闘スタイルに、大暴れ大殺戮か!? と期待させるが(嘘)、そこはヒット・ガールと違って吸血鬼だけに穏便に済ませようとする。


「父の病室はどこですか?」 看護婦の口に銃口はねじ込まれません。 


ビルの壁をするすると上り、従者に会いに来るクロエ。ガラスをノックするのは「招かれないと部屋に入れない」吸血鬼の基本ルール。タイトルはそこにかけている訳ですね。


願いどおり従者の血を吸って殺してあげたクロエは、主人公のもとに現れます。


勿論「招かれ」ないと入れないので、主人公に「入ってと言って」と頼みます。切ない。

部屋に入ったクロエは、「見ないで」と血みどろになった服を脱いじゃいます。「ピントを合わせてくれえええ!」と心の叫びも届かず、ベッドで背を向ける少年の横へ。たまりません!


でも顔は血みどろ。吸血鬼だから。

血ぐらい拭えと思いますが、そこは「粗末にしてはいけない」という、吸血鬼なりの「もったぁいなぁい」があるんでしょう。


隣の部屋で少年とモールス信号で会話を楽しむクロエ。


しかし、警察の手が彼らのアパートにも迫ってくる。

オリジナルではエリはそこら辺の人を襲っているのですが、リメイク版ではアパートの住人を襲うことで警察の介入をスムーズに処理しています。オリジナルでは犠牲者の友達が絡んでくるのですが、警察の人間の方が自然ですし緊張感があります。ここらへんの脚本の整理は見事だと思いました。



アビィが吸血鬼であることを知った主人公が彼女の部屋に訪ねてきます。ここで主人公はアビィと男の子が写った古い写真を見つけます。その男の子にはあの従者であった老人の面影が……

ここはオリジナルでは原作から設定を曖昧にしている部分ですが、リメイク版ではハッキリと「従者の老人が子供の頃からアビィと一緒だった」事がわかります。原作では老人は「小児性愛」で教師を首になったという設定(だそうです)。なので、原作では吸血鬼と少年の絆は「特別なもの」という捉え方になりますが、映画版(オリジナルもリメイクも)では主人公の少年が「従者」になる可能性を示唆しています。逆に言えば原作にある「特別なもの」という設定はちょっと薄らいでしまいます。

まあ、映画しか観ていないのでアレですが、個人的には「どっちでもいい」。アビィの長く続く男性遍歴の一例にしか感じられないという気持ちも分かりますが、人間に置き換えれば「今付き合っている相手の前の相手なんてどうでもいい」って事と同じじゃないでしょうか。要するに「野暮」。アビィにとってはいつだってその相手が「一番大好き」なハズですし。だからこそ「愛情」は複雑で奥深いんだと思います。


晴れて「前の男」も居なくなり、清々とした表情で今度はアビィが主人公を訪ねてきます。


「招かれなくても入ってきなよ」と嫉妬丸出しの意地悪を受けるアビィですが、全身から血を吹き出して、所詮は12歳の少年を恐れおののかせる。「ウソだよウソ! 招くよ!」と少年はあっさり陥落。生きてきたキャリアに差がありすぎる。


シャワーで血を洗い流したアビィがタオル一枚で現れる。クロエ初のお色気シーン!! これだけでもこの映画はクロエ史上必見の作品に。


お母さんのドレスを着て、クルっと回って見せるチャーミングなアビィ。


お母さんが帰ってきてしまったので、自分の部屋に退散するアビィ。ここでもニッコリと微笑みかける。これは危険。色んな意味で。クロエ的な意味で。


しかし、つかの間の平和は警察の介入で崩壊します。

お風呂場で眠っていたアビィが見つかってしまいますが、主人公がそれを助けて刑事はアビィの餌食に。血を吸われながら虚ろに主人公へ手を伸ばす刑事。そこに泣きながら手を伸ばして、握るのかと思いきやドアを静かに閉めるシーンは絶品。


助けてもらったアビィは血みどろの姿で背後から主人公の少年を抱きしめます。


そして、静かに口を近づけ、そっと口づけを。


クロエ初のキス・シーン!!! ムキー!!


血を吸うのか? と思わせてキスをするシーンは素晴らしい。


「もうここにはいられない」と告げるアビィ。少年は部屋を出て独り涙を流します。

アビィがやってきたときと同じアングルで、去っていくアビィを見つめる主人公の涙。ここも共感度MAX。「少女と少年の恋」に設定を絞っている事が見事にシンプルな感動を生みます。


そして、ラスト。


オリジナル通り、衝撃の後に訪れる美しい静寂。見事な幕切れ。


ぶっちゃけクロエ・モレッツ目当てで過去の作品を観るのは結構な労力を強いられます。正直クロエ・モレッツが出ていなければ観ないような作品ばかりだからです。しかし、『キック・アス』以降(撮影が後のものも含めて)の作品はどれも及第以上の作品ばかり。やはり、『キック・アス』の影響は絶大で、彼女自身が言っているように「別次元に突入」していることは明らかです。

そして、この作品はその大きな第一歩と言えるでしょう。

もっとも『キック・アス』に続いて公開された初めてのクロエ作品である本作。「ヒット・ガールでファンになった大勢の観客の期待」を受けて公開された初めての作品なのですが、アメリカでは期待通りの興行成績を残せませんでした。『キック・アス』も実は公開時には事前の期待を下回る興行成績だったことを考えると、クロエ・モレッツの興行的価値はいまだに不安定と考えられているでしょう。しかし、作品の質と彼女の質は間違いなく保証付きのクオリティですので、ブルーレイ化されたこれからは、きっと興行的にもいい成績が期待されるのではないでしょうか。

でないと『キック・アス2』がボツになってしまうじゃないか!


それにしてもこの映画のクロエ・グレース・モレッツは美くて魅力的です。中クロエの雰囲気も残しつつ、見事な大クロエを堪能できます。ファンの方は是非購入をおすすめします。字幕などに不安があれば、オリジナルの『ぼくのエリ』を観てからなら大抵分かります。オリジナルも大傑作なのでおすすめします。


しっかし、この映画は二重の意味でショッキングです。あの従者に自分の姿を重ねるのは主人公だけじゃなく、クロエのファンになってしまった僕ら(あえて「ら」と付けさせていただきますが。ははは)自身にも重なってしまいますからねえ……


・・・

オリジナルの日本公開版における「ボカシ問題」について。


こちらはオリジナルで吸血鬼を演じたリーナ・レアンデション。こちらの名前は邦題にもあるように、「エリ」。

オリジナルでは着替えを覗いた主人公が、エリの陰部に去勢痕があるのに気づいて驚くシーンがあります。つまり、エリはもともと男の子で、倒錯的な欲求を満たすために去勢されてしまっている設定です。それによって、エリの「女の子じゃない」というセリフに二重の意味が含まれる事になります。
それを反映して、彼女の声が女性的すぎるので少し低い声の人が吹き替えているそうです。

日本の劇場公開版ではこの部分がわかるカットにボカシが入れられており、エロ目的で覗いたのに、なんで「衝撃」を受けるのが意味不明でした。真面目な話、「アソコだけ200歳レベルなのか!?」とか思いましたもん。余計なボカシのせいで!

これがいわゆる「ボカシ問題」。映倫が相変わらずの無理解で強要したそうですが……

これがそのカット。


この設定は原作通りのようで、「性別を超えた愛情」を含ませているわけです。うがって考えれば、「ショタ」「ロリ」に加えて「ジェンダーフリー」までアリの盛り沢山な仕様になってるわけで。

アメリカ映画では「子供」を扱う作品はデリケートな判断が要求されますし、そこにこんな設定まで加えることは無謀ですから、まあ当然のように「無かった事」にされています。たいへん大きな変更点ではありますが、作品の質が左右されるものではないと個人的には思えますので、リメイク版の変更はありだと思います。ただし、オリジナルにボカシをつけることに関しては問題外。第三者が作品の本質を文字通り「ぼかす」ことなどあってはならないと思います。日本盤のDVDでも無くなっているといいのですが……せめて陰部にあたる箇所(写真を見ると分かりますけど、それとわかる部分はないんですが)にだけボカシを入れて、傷の部分は見えないとまずい。

日本盤DVDは購入予定なので、わかり次第追記したいと思います。


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こちらはアメリカ盤のブルーレイ。こちらでは高画質でボカシも当然ありません。