男たち、野獣の輝き

旧映画ブログです。

Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『十三人の刺客』★★


立ち回りが始まるまでは大変面白い

奥さんが脚本の天願大介の大ファン(だった)事と、吾郎ちゃんがダメなお殿様を演じるという事で興味を示したのと、評判がなかなかよかったので観てきました。

ボクは監督の三池崇史が苦手なのですが、伊勢谷友介が登場するまでは大変楽しく観ることができました。

久しぶりに観る役所広司は相変わらず自然な台詞回しで感情移入させるのがうまいし、伊原剛志扮する剣豪は本当に強そうに見えて『硫黄島からの手紙』に続いて良い仕事。ボクにとっては今でも電車男である山田孝之(失礼)はたくましく育って凄く頼もしいし、エロ大名の沢村一樹もしっかり脇を固めて華をそえている。古田新太も意外に侍顔で儲け役だし、六角精児も眼鏡をかけてないから良く分からないと思ったら少ない台詞で存在感をアピールしていました。
そして、松方弘樹が実に良い。やっぱりああいう若い人たちの中にいると一際目立つし、見得を切る芝居が絶品。台詞回しも無頼な味付けをしつつも大黒柱のような貫禄をたたえて映画全体をビシっとしめてくれていました。

岸部一徳なんか場内大爆笑の儲け役でした。

敵側に回る市村正親も素晴らしく、理不尽な殿様とはいえ主君に仕えることを尊しとして血の涙を流さんばかりの迫真の芝居を見せてくれました。こういう”ドキッ! 男だらけの大チャンバラ大会”に充分重みを与えてくれていました。

奥さん目当ての吾郎ちゃんも神経の壊れた感じをよく出していて妙な説得力を生んでいました。全然瞬きしないし。精神を病んでしまった人間が会社などにいる(特に上司とか)現代の社会的問題を結構リアルに描いているのではないでしょうか。


さて、問題は伊勢谷友介。思うに彼は役者に向いていないんだと思いますよ。あの空回り感はただ事じゃないし、それ抜きにしてもあの「自主製作の作品を観ているような素人臭」はイケナイ。彼の責任ではなく、演技力云々でもない。ただ単に「写っていると生理的に反発を覚える」人間っているんですよ。実際。それが、「伊勢谷友介の出ている映画はすべて失敗する」みたいに言われる原因じゃないかと思います。まあ、言い過ぎですけど。

とにかく、今回も出てきたしょっぱなから「あ、ヤバイ」と。

案の定映画はどんどんトーン・ダウンしていって、挙句に「全然面白くない決戦」になだれ込む。

30分ぐらい続く大立ち回りなんですけど、オリジナルの映画通り「ぐちゃぐちゃどろどろ」の大乱戦を見せたかったのは分かりますが、いかんせん「状況の説明」が全然できていない上に、キャラクターに視覚的な特徴がまるでないから誰が誰だかさっぱり分からない。しかも、「切り合いをしたことがない侍」の命のやりとりを描くはずが、意外にどいつもこいつも勇敢に斬り合ってるし。「切られて死んでしまう」痛みや緊迫感が観ていて全然伝わらないのは、ディティールをおざなりにしているからだと思いますし。

基本的にああいったクライマックスは地球上の全映画人たちが『プライベート・ライアン』の呪縛に囚われてしまっているわけで、あれを再現するのはよほどの事がないと難しいんじゃないでしょうか。だったら、チャンバラ本来の切れ味満点の格好良さがあるかと言えばそうでもなくて、ところどころ役者達の殺陣で持っている部分があるだけに惜しいのが残念。


そこまでの展開がやたらと燃えて面白いだけに一番肝心なクライマックスでテンションが落ちてしまったのは残念でした。