男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

中島哲也監督『告白』を観てきました


エンタテインメントの傑作

中島哲也監督の作品は『下妻物語』が大変好みでしたが、『嫌われ松子の一生』は可哀想だし、『パコと魔法の絵本』はお泣かせに走った感じがして、ちょっと乗り切れない部分がありました。

ところが今回の『告白』はいつものポップで遊んだ映像を抑え、色温度を落としてイメージとして挿入される曇り空そのものの映像を追求したスタイルが異様に美しく、脚本もお涙ちょうだいのような要素はまったくない(原作を未読なのですが、奥さんによると「そのまんま」とのこと)、大変クールで圧力のある”復讐譚”に仕上がっているのが素晴らしかったです。

映像に関しては人物の頭の上部分を意識的に多く空ける構図が個人的に大好きで、それが多く使われているのも印象的でした。

開幕からいきなり事件の核心に突入して繰り広げられる一幕モノのような展開も大変好みで、一気にグイグイ引き込まれました。要所要所にインサートされる携帯の画面も効果抜群で、このプロローグ部分で描かれる中学生たちの書き割りのような記号性がやたらと巧く演出されている。

そして、映画が進んで驚くのは、そいつらの「書き割り」ブリが映画の中でもちゃんと「書き割り」としてしか機能されず、下手に踏み込んでいかないところ。陰湿な「いじめ」とかそういった部分の問題定義とかは一切無く、ただただ「背景」として描写されるのが大変好みでした。何と言ってもこれは”復讐譚”なのだから、エンタテインメントとしてガチっとしているのです。「どう思いますか?」などという問題放棄のような曖昧な作劇を排除しているのが何よりも気持ちよかった。

上質の”復讐譚”として不可欠な復讐相手の中学生二人に対しても、まあ「それに足る」説得力のある薄っぺらな人間像がしっかり描かれているので、一切迷い無く”復讐”に邁進する松たか子に対して思う存分感情移入できる。ここでも、「犯罪者にもそれぞれ理由があるのです」的な意識放棄はない。それぞれしっかり「愚かな」理由と動機が与えられている。

ミステリとしても、「犯人捜し」ではなく、「実はこうだった」という手法で展開するのも大変好みでした。原作を読んでいない事もあって「おお!」「ええ!?」の連続でした。

この手の映画(小説や漫画もだけど)というのは、たいてい「不愉快な気分」に陥ることが多いのであまり好きになれないのですが、この作品は「娯楽」として完成されているので、観た後晴れ晴れと「面白かった」と思える映画でした。


キャストも全員見事な芝居を見せてくれます。主演の松たか子は見事なハマり役で、照明設計との相乗効果で「死んだ目」を見事に作っていました。迷いがないモノ。安心して感情移入できる。同様に渡辺修哉を演じた西井幸人君は巧かったなあ。いや、中島哲也監督が巧くみせているのかもしませんが、クライマックスのガッツポーズの時の顔なんて張り倒したくなるほどでした。ははは。木村佳乃もびっくりするぐらいハマっていて、中でも遺書の続きを書き忘れていたことに気付いて、軽い調子でサラサラっと書いた後、おもむろに包丁を選び始めるところなんて最高。包丁の選び方が本当に料理に使う時みたいに軽いんですよね。


しかし、R-15指定ってばかげてるな。いや、どんな映画でも年齢制限をつけること自体ばかげてるんだけど。ボクが中学生の時にこんな制度があって、同年代の子供には好ましくないとか言うばかげた理由で、「面白い映画」が観られなくなったら、爆弾を仕掛けるぞ。好ましいか好ましくないかは「観てから自分で決める」