男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

イングロリアス・バスターズ

B002T9H2L0Inglourious Basterds (2-Disc Special Edition) [Blu-ray]
Robert Richardson
Universal Studios 2009-12-15

by G-Tools

「私のフランス語はここまでが限界です。これからはお互いに得意な英語で話しましょう」


レッド・オクトーバーを追え!』で、ソ連の潜水艦であるレッド・オクトーバー艦内の会話が、ロシア語から英語に切り替わる場面。聖書を読んでいた情報士官の口にズームしたところで、英語に切り替わる。それぐらいアメリカの映画では外国の台詞を嫌います。なぜなら字幕を読む習慣が無いから。

ボクもテレビで映画を好きになった吹き替え世代なので、字幕信奉者ではありません。それでも、それぞれの国の人がその国の言葉をちゃんとしゃべっているというのは、それだけでリアリティを感じます。

今回タランティーノはドイツ占領下のフランスを舞台に、ちゃんとドイツ人はドイツ語を、フランス人はフランス語を、アメリカン人やイギリス人は英語をしゃべります。現実世界では当たり前の前提がちゃんとしているのがやたらとリアリティを生み出し、それがひいてはタランティーノ専売特許とも言うべき”会話劇”の土台を支えます。

しかも、ボクが強調したいのは、上記の台詞をつかって

「ああ、やっぱりこっから全編英語になるのかな……」

と、寂しくなったところへ、”それが何と隠れているフランス人に悟られないようにする手口だった”と言う、タランティーノならではの掟破りだった事です!!

ここから一気に引き込まれました。

タランティーノは毎度毎度お約束をひっくり返す手法を使いますが、それは本当に映画を知り尽くしているからこそ可能なやり方で、今回もまさかそんなところでやってくれるとは驚きでした。そして、やっぱりタランティーノは凄いなと。

「ナチ」「戦争」という予備的な下味が付いているとはいえ、足下や背中にまとわりつく「死」の恐怖が限りなく全編を覆い尽くしている作劇も驚きで。

タランティーノ得意の”会話劇”がいつもと違って、異様な緊張感を生み出すという新たな局面を迎えていました。これが明らかに意識してコントロールされた演出であることも素晴らしく、全部で5章に区切られた本編が総て凄まじく張り詰めていました。

いつもなら、状況を緩和させるために使われるような余計な会話が、ここではいつ何時引き金が引かれるのかという、文字通りの”サスペンス”として機能している。このあたりの巧みさは、こけおどしが幅をきかせる従来の定型とは一線を画している。ソレを決定づけて、以降に続く展開を引っぱり続けるのが、第一章の「床下に隠れたユダヤ人」を開示するタイミングでしょう。あのタイミングと、それに続く「どうでもいい話」の作り方は、どうしようもないほど上手い。

観客にはすっかり情報が開示されているが故に生じるサスペンスはヒッチコックの常套手段ですが、タランティーノが誰よりもそれをキチンと理解して実践しているのが驚きです。「やたらと美味しいミルクをもう一杯いただけますか?」なんてどうでもいい台詞があそこまで緊張感を生むのはちょっと信じがたいぐらいです。

この第一章は、『28週後... 』の素晴らし過ぎる冒頭部分にも匹敵する緊張感で、過剰に美しい田園風景を血みどろの人間が全力疾走するというビジュアルのインパクトも類似性が高い。

とにかくこの第一章の完成度が全体をグイグイ引っぱっていき、ところどころタランティーノならではの爆笑シーンも交えつつ、根本的には「サスペンス映画」として一本筋が通っている。

これは今までのタランティーノの映画の延長線にありながら、まったく新しい地平に到達していると思います。

(『シンドラーのリスト』が戦争の下味を利用しているという意味では非常に近い映画なのかもしれません)

・・・

勿論タイトル・ロールであるイングロリアス・バスターズのパートも大変面白く、ブラッド・ピットなんて観た後確実にあごを突き出して意味不明に胸を張りたくなること請け合いの抜群さ。

タランティーノらしく、戦争状況を舞台にしていながら殆ど戦闘シーンがないのですが、「地下の居酒屋」*1での銃撃戦などはビックリするほど巧みです。

エマニュエル=ショシャナを演じたメラニー・ロランの魅力や、古畑も真っ青な「嬲り術」で全編を引っぱるハンス・ランダ大佐とそれを演じるクリストフ・ヴァルツに関しても言いたいことが山ほどあるので、そこら辺は次の機会に。


そういえば、結局モリコーネが新しくサントラを作るってのは駄目だったようですね。まあ、それでもモリコーネの曲が相変わらず絶妙に使われてましたけど。デビット・ボウイの『キャット・ピープル』はかっこよかったなあ。

サントラを早速iTunesで購入しましたよ! なんせiPhoneユーザーなんでね。ふふふ。

David Bowie - Inglourious Basterds (Motion Picture Soundtrack)Inglourious Basterdsのサントラ


イングロリアス・バスターズ オリジナル・サウンドトラック
イングロリアス・バスターズ オリジナル・サウンドトラック

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『イングロリアス・バスターズ』映画大作戦! (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

こちらも早速購入しなければ。


ホントこんなに面白いとは思っていなかったですよ。必見。

*1:ブラピが「地下で戦いたくない理由」を言うシーンは爆笑。