『旅情』を観ました。
大人になるといろいろと腑に落ちる
小中学生の頃、NHK教育で放送されていた「世界名画劇場」は古典映画を強制的に観るのにうってつけの番組でした。今なら絶対に観ないであろう古典の名作を子供の頃にたくさん観られたのは幸運としかいいようがない。
そんな一本がデヴィッド・リーン監督の『旅情』です。
確か小学校六年生の頃だったと思いますが、ビデオに録画して何度も何度も観た映画です。
キャサリン・ヘプバーンは誕生日が同じというだけでも親近感があったのですが、この映画と『黄昏』でかなり贔屓の女優さんでした。アカデミー主演女優賞を4回もとっているってのもすげえキャリアです。
小学生にもちゃんと彼女が演じたキャラクターがどこか寂しく、その寂しさを一生懸命埋めようと旅をしているのだと伝わってきていました。今回大人になってから観ると、まあその芝居の巧いこと上手いこと。非常にわかりやすい芝居もあるんですが、ほんとにちょっとした台詞の受け答えや表情の変化で喜びや悲しみや寂しさが伝わってきます。
デヴィッド・リーンによる的確な演出も冴えてきて、主人公の視点をキチンと守る正攻法な描写は唸りたくなる場面も多かった。
また、小学生のボクにも非常に頼りになるキャラクターが裸足でウロチョロと付きまとってくる子供。あのキャラが今観てもすこぶる面白い。よく考えたら子どもと成人男性という二人の男との絡みによってコントラストを生み出しているような気もします。まあ、単純なコメディリリーフとしても抜群に面白いんですけどね。
キャサリン・ヘプバーンがスチルカメラではなく手巻き式の8ミリカメラを持っているのもすごく印象的なんですよね。前半部分で後生大事に持ち歩いて、せっかくの観光地なのにカメラを撮ることの方を優先してしまうのが寂しさをよく描写していますし、後半になって大人の男性と付き合うようになるとすっかりカメラのことなんか忘れてしまう対比も非常に効果的。
相手役のロッサノ・ブラッツィはボクの中で「イタリア人ってのはこういう人間なんだ」と刷り込ませてくれた役者です。世界名画劇場はノーカット字幕での放送だったので、なんとなく英語が通じない国なんだなってことが分かったのも大きかったです。
今回観るとキャサリン・ヘプバーンが結構イタリア語で話しかけたりしているのが分かって面白い。
そして、子供の頃から鮮烈な記憶として残っている有名なラストシーン。
今観ても相当グっときますが、そこに至るドラマがかなりあっさりとしているのにもびっくり。いや、あっさりといっても大変印象深いんですが、あの感覚が非常に大人なんだなと今観るとわかります。子供の頃は完全に「物語の都合」のように捉えていましたからね。
汽車でやってきて、汽車で去っていく。この挟み込む構造が「映画」だなあと感じさせてくれます。
ベネチアに行きたくなるなあ。