男たち、野獣の輝き

旧映画ブログです。

Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

シネスイチ板橋32『東京湾炎上』

東京湾炎上 [DVD]
東京湾炎上 [DVD]
posted with amazlet at 12.11.26
東宝 (2005-11-25)
売り上げランキング: 105062

様々な映画の先を行く傑作

子供の頃、月曜ロードショーで放送されたのを観て熱狂し、当時飽きるほど観ていた映画です。おとなになってからはすっかり観直す機会も無かったのですが、先日『アルゴ』を観た時に、「東京湾炎上」みたいだなあと思い出したので今回DVDを借りてきました(実際は『アルゴ』はこういう映画ではないんですけどね。あしからず)。

超巨大石油タンカーが6人のゲリラにシージャックされ、タンクに爆弾を仕掛けられる。東京湾に入ったタンカーは「水爆」と同じぐらいの危険性があり、日本政府はゲリラの要求を飲まざるを得なくなる。だが政府は、ゲリラの要求である石油備蓄基地自衛隊機による空爆も、タンカーの爆発も避けるために、ある奇策を実行に移す。一方タンカー内では乗組員たちとゲリラとの緊張が高まっていく。

日本沈没』『ノストラダムスの大予言』に続く丹波哲郎東宝特撮パニック三部作の最後にあたる作品。多分知名度も興行的にも一番低いのが本作だと思われます。恐らく、会社に押し付けられた主題歌(オーディオコメンタリーで監督が暗にそう言っています)が気持ち悪いぐらい映画本編から乖離していることと、日本全土の危機であることに変わりはないんですが、映像面ではタンカーを中心としたテロリズムであることが異色だからだと推測します。

主題歌は本当にひどくて、冒頭から興ざめ必至ですし、それにかぶさるように何度か回想で挿入される主人公と(日本で待っている奥さん?)とのどうでもいいラブシーンなどは大きな傷として認めざるを得ません。

ただ、前二作と違って、「テロリズム」が題材になっていることから、「災害シミュレーション」としての三部作の中では極めてエンターテイメントとしての側面が色濃く出ている作品です。

本編開始8分ですぐに拿捕されるテンポの良さと、相手がテロリスト(一応明確な民族的思想を持っているんですが、やっていることは一緒です)なだけに銃器による制圧とそれに対抗する乗組員、そしてタンカー一隻で「日本全土」を人質にして日本政府を相手取るスケールの大きさは実に素晴らしいアイデアです。

東京を制圧するシュミレーション映画としての側面は『機動警察パトレイバー2』を彷彿とさせますし、タンカーという限定空間を舞台にした人質とテロリストの戦いは『ダイ・ハード』から始まる一連のアクション映画の流れを先どっていると言えます。特に藤岡弘扮する石油採掘技師が孤軍奮闘するくだりはモロにそれです。そして、爆弾によるサスペンスの作り方とテロリストたちの油断できない頭の良さなどは、『エグゼクティブ・デシジョン』をも彷彿とさせてくれます。もちろん『新幹線大爆破』同様、どことなく垢抜けないテイストや、ブラッシュアップの足りないシナリオなど、ハリウッド映画を見慣れているともたもたしている部分もあるにはあるのですが、それを補って余りある「面白さ」と「アイデア」が満ち満ちているのです。

若々しい活躍を披露する藤岡弘が実に良くて、朝早くから甲板をランニングして食事室に戻ってきた途端にシャツを脱いで筋肉を披露するあたりから、どう見ても「石油採掘技師」には見えないし、ひとりで孤軍奮闘し始めると、どういうわけかゲリラを相手取って格闘技でねじ伏せるほどのヒーローと化す。中でも石油タンクの近くで敵と戦うシーンは最高で、火花一つで引火爆発してしまう危険性のため、お互いに銃と武器を手放し、結婚指輪を外しての格闘戦に突入。この指輪がラストで何ともいえない哀しみを生み出す小道具として見事な伏線にもなっています。

地上では鈴木瑞穂演じる対策本部長が「諦めるわけにはいかん」と必死に対策を講じる姿が熱い。そして彼の思いついた「奇策」をいよいよ実行に移すクライマックスでは、次々と降り掛かってくるアクシデントとそれに対して詰め寄ってくるテロリストとの駆け引きも実に燃える。ここらあたりも前二作の巨視的なテイストとは全く違うエンターテイメント性として実に高ポイント。

そして何と言っても丹波哲郎

丹波哲郎演じる艦長が実に説得力満点で最高なんです。いや、丹波哲郎から説得力を取ったら霊界しか残らないんですから当たり前の話なんですが、一挙一動が実にかっこよくて、当然のように細かい芝居が無茶苦茶上手い。テロリストのリーダーと英語で主義主張をぶつけあうシーンは特に最高です。余談ですが、さんざん英語で話しておきながら「フネノクーラキレ!」と日本語で指示を出すリーダーが素敵。

数十年ぶりの再見でも全く面白さが衰えていなかったのには驚きましたが、丹波哲郎のカッコヨサにすっかりやられてしまうことになりまして、このまま『ノストラダムスの大予言』『日本沈没』とさかのぼって観ることになってしまうのでした。

・・・

DVDは左右に黒味の残されているシネスコサイズ。DVD時代にはブラウン管の断ち切りがあったので、こういった仕様はフィルム情報をキッチリと収めるという意味では評価できるんですが、フルサイズが前提の現在ではプロジェクターで観ていると辛い。可能性は低そうですがブルーレイの発売かハイビジョンでの放送をして欲しいですね。画質もぼんやりしていてさすがに厳しい。それでもテレビ放送版とは雲泥の差でしたけどね。また、テレビ画面から一気に1カットで特撮のシーンに移っていくカットなども、シネスコでないと判別できない名シーンでした。

特典は特技監督中野昭慶さんのインタビューと監督のオーディオコメンタリーが収録されていてなかなか豪華です。本編で登場する「特撮の監督」が中野昭慶さんにそっくりだというエピソードと、当然のように出演もする予定だったという話は実に面白かったです。特撮のエピソードも、この頃からガソリンの質が変わって燃えた時の色が良くなくなったというのも興味深い話でした。


爆発の臨界 (集英社文庫)
田中 光二
集英社
売り上げランキング: 893592