男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

シネスイチ板橋プログラム11『96時間』★★1/2


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パパ襲来

先日読んだ映画秘宝のリアム・ニーソン特集があまりにも面白かったので、現在のアクション俳優リアムを誕生させたといってもいい今作を観ました。WOWOWで放送されたのを録画したものです。

ちなみに、「後で観ようと思って溜め込んでいる映画」略して「あと観る映画」の消化でもあります。

映画館でスルーした理由は実に単純で、リュック・ベッソンが関わっている映画にはあまり興味が持てないからですが、当時から「なぜリアム・ニーソンがアクション映画に出てるんだ?」という疑問はありましたし、なぜかアメリカで大ヒットしているのも知っていたので、機会があれば観たかったわけです。

原題は『TAKEN』。この映画の場合単純に「誘拐」みたいなシンプルなタイトルですね。それを『96時間』とした邦題はなかなかイカしてます。まあ、実際は本編を観ても特にタイムリミット的なサスペンスは用意されていないんですが、それはウォルター・ヒルの傑作『48時間』(単純に二倍してるだけですな)もそんな感じだったので、それは別にいいでしょう。ただ、観始めて「96時間って何日ぐらいなんだ」と計算してみると、「四日間」もあることに気づきました。実は結構長いんじゃんと突っ込みましたよ。アクション映画ってのはリアルタイムに近づけば近づくほど面白くなるのが定石なので、四日間は普通のアクション映画のプロットにしても実は結構長めの部類。アクション映画はやっぱり一晩とか一日ぐらいがいいんですよ。

で、

観始めると、96時間とか言っているにもかかわらず、別れた女房(ファムセ・ヤンケン!)が連れて行った娘への、ほとばしる愛情を執拗に描く。それでも、それが特にダレるわけでもないところがすごくて、これはひとえにリアム・ニーソンの存在感が素晴らしいからなんですよね。


異様な緊迫感でプレゼントを包装するリアム。

途中から気付くのですが、この映画ってアメリカ人が外国に行って無茶苦茶するっていうハリウッドの定番パターンを、無茶苦茶される側(ここではフランス)が製作しているってところが斬新なのです。

つまり、リュック・ベッソンがハリウッドに招かれて色んな思いをしたことを逆説的に活かしているプロットなんですよ。

アルバニア系の人身売買組織を敵に設定していることで、フランス自体は(一部に裏切り者がいたりするにせよ)完全に被害者そのものとして描かれている。極端に言うとたまたまリアム・ニーソンの娘がフランスで誘拐されたせいで、無茶苦茶されてしまうという、まるで災害モノのような作りなんですね。そのあたりのテイストが妙に面白い事になっています。

そしてもう一つユニークなのは、「元CIAスパイ」という今や形骸化している記号のキャラクターを使いつつも、そいつが「異常な親バカ」だったらという設定。これがこの映画の最重要ポイントであり、それがリアム・ニーソンを起用している最大の理由。そして、そのキャスティングが完璧に成功しているのが凄いです。

この、「もしも、殺人マシーンが異常な親バカだったら……」というドリフ的な設定のもたらす作劇はかなり新鮮。

ジェイソン・ボーンの登場以来久しくなかった、「どうしてそんな無謀なことをする?!」という、本来アクション映画が常に抱えている「粗」が「娘のことが心配すぎて冷静さを完全に失っている」というエクスキューズですべて無効化しているのです。もちろんそれを差し引いても「なんでそんな無茶を」「車を使えよ」「もっと頭を使え」というツッコミは絶えず湧き上がるのですが、敵の設定が「人身売買」という凶悪過ぎる設定なのも効果を増幅させて、「そりゃ待ってられない」「そりゃ悠長にはできない」と妙にリアムを擁護したくなってしまうマジック。まあ、それもこれもリアム・ニーソンが演じているからこそですが。


ジェイソン・ボーンなら絶対に黙って電話を切るだろうに、余計な脅し文句で相手を震え上がらせるリアム。

淡々とあの渋いドスの効いた声で言われた日には失禁間違いなし。案の定相手も思わず「グッドラック」と声を聞かせてしまう。これが後々とんでもない目に遭う事になるとは知るはずもないw

実はこのシーンまでに、リアムが「実は凄い」というスキルを見せるのは、歌手のボディガードをしているシーンで、唐突に襲ってくる暴漢を一瞬で叩きのめすシーンのみ。後はものすごい眼力でプレゼントを包装したり、カラオケマシーンの説明を店長がうんざりするほど訊いたり、バーベキューで肉を黙々と焼いていたり、歌手にお世辞を使ってまで娘自慢をしたり、ファムセ・ヤンケンに冷たく親バカぶりをくさされたり、という感じなんですよね。なのに、このシーンでただただ相手を震え上がらせる口上を言うだけで説得力を生み出しているリアムは素晴らしいわけですよ。リアムなら本当にやりかねない、いや絶対にやる! と思わせる。


そして、当然実際にやりはじめるリアムが行動開始。ここからが96時間なんですけど、実はすでに30分近く過ぎているので、アクション映画としての本編は1時間ぐらいなんですね。こりゃタイトだ。

奥さんの再婚相手が大金持ちというご都合主義も蹴散らして、専用ジェットを用意させるリアムは一路パリへ。その機上で延々と先ほど録音した「グッドラック」を何度も何度もリピートする姿が最高に恐ろしい。

パリに到着してからは上述したように、ちょっとしたプロファイリング的な事や、情報収集的な事もするんですが、つまるところ見つけた相手はすべてボゴボゴにするという極めて一直線なマイウェイ。

このあたりのリュック・ベッソン的な「大味」シナリオですが、アクション・コーディネーターたちは実に良い仕事をしています。「相手の息の根を止める」事に特化しているリアムの立ち回りは非常にリアリティがありますし、銃撃戦でもなかなか説得力のあるアクションが観られます。


壁を遮蔽物にするために銃を左手に持ち替えるのは基本。

こんな銃撃戦に陥ってしまう理由も、「グッドラック」野郎をついに見つけてしまったために見境がつなくなったリアムが大暴れしてしまうからなんですよね。スパイとしては完全に失格なんでしょうけど、そこんところの「親バカ」な行動動機が実に面白い。


パイプが頭にガン!

既に述べたように、この映画は味方を変えると「災害」映画のようなテイストなんですが、終盤で本来の敵を壊滅させてからその傾向が明確になってきます。娘が処女だったもんだから、更に高値で取引される大金持ち達のオークションにターゲットが変わるんですね。ここらあたりのドライブ感は思わず吹き出してしまうほどです。もう終盤のやられる連中にしてみたら「なんで、こんなことになっているんだ?」という目の白黒ブリが最高に面白いんです。人身売買組織のチンピラたちと違って、自分たちも言っているように「ビジネスとしてやっているんだから申し訳ない」という極めて「大人」な態度が、娘のために自制心が効かなくなっている「ダメな大人」と化しているリアムをより強調させている。そいつらが容赦なく次々とリアムにブチ殺されていくさまは痛快の一言。見方によっては無関係の人が無差別殺人鬼に襲撃されているのと同じなんです。つまり終盤になってしまうとスパイアクション映画と言うよりは13日の金曜日などのスラッシャー映画の変形とも言える快感原理で進んでいます。

中でも屈指の名(迷)シーンが画像の「パイプでガン!」。さんざん無敵状態だったリアムが、ちょっと油断したことであっけなく敵に捕まってしまい大ピンチ。ここでもジェイソン・ボーンなら手練手管でピンチを脱するシーンですが、リアムときたら「力ずく」で拘束されているパイプを天井から外して相手の頭にガツンと食らわせる。こういうのはシュワルツネッガーの十八番であり、彼のマッチョボディが生み出す説得力が無いと出来ない芸当なんですが、リアムはシレっとやってのけるんですね。相手がタキシードなんかでビシっと決めているだけにより面白い。

そして、交通事故にあったとしか思えない敵のひとりをエレベーターに追い詰めたリアムは、ためらいもなく腕や足を撃ちぬいて手っ取り早く口を割らせます。

「本当に俺達は仕事なんだ無関係なんだ許してくれ」と命乞いする敵にリアムが決める名セリフがコレ!


この作品のテーマをビシっと決める名セリフですね。


プロフェッショナル同士のシリアスな戦いが圧倒的なシェアを誇っているアクション映画というジャンルの中で、ここまで潔く「個人的な動機」で突き動く主人公というのもなかなかいないんではないでしょうか。

思えば、誘拐された娘を助けだすためだけに無茶苦茶する『コマンドー』が同様のプロットを持っていますし、『エイリアン2』も終盤では女の子ひとりを助けるという明確な行動動機が設定されているので燃えます。

映画自体は決して褒められた作りではないですし、もう一度観たいようなシーンなども特に無いのですが、リアム・ニーソンの存在感と芝居、そしてユニークな「親バカ」という設定だけでも、非常に楽しめる作品であることは間違いありません。


続編は娘が無茶苦茶するようですが、どんなテイストにするのか興味深いですね。



   

リアム・ニーソンを最初に観たのは実は『マイアミ・バイス』だったりするんですけど、意識するようになったのはやはり『ダークマン』ですね。リアム・ニーソンと言えば「ああ、ダークマンか」と今でも少し思ったりしますからね。

『ブレインストーム』の音楽が熱い『ダークマン』の予告。