男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

シネスイチ板橋プログラム7『ニューヨーク1997』


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「死んだって聞いたぜ」

プログラム1に『要塞警察』を選んだように、僕はジョン・カーペンターの映画が大好きですが、初期の作品は映画館で観ていません。唯一観ているのは東京ファンタで上映された『ハロウィン』ぐらいです。(ちなみに最初に劇場で観たカーペンター映画は『ゴーストハンターズ』)

今回上映した『ニューヨーク1997』は、僕が小学5年生の1982年10月に水曜ロードショーで観た初めてのカーペンター映画です。その一年前の1981年9月30日に同じく水曜ロードショーで『ジョーズ』を観てから一年間、まさにテレビで放送する映画を片っ端から見続けて一年目の秋。この『ニューヨーク1997』は当時の僕に「こんな面白い映画があっていいのか!」と度肝を抜いてくれました。

刷り込みというのは大変なもので、今作は当然僕の中のカーペンター映画ナンバー1。

近未来のアメリカでは犯罪者が多くなりすぎたマンハッタン島を壁で囲んでそのまま刑務所にしており、そこにハイジャックされた大統領専用機が墜落。早速犯罪者たちに拉致された大統領を救い出すため、ちょうど運ばれてきた極悪犯罪者スネーク・プリスケンが「毒には毒」の理屈で選抜。渋るスネークだが、首の動脈に小型の爆弾を埋め込まれ、この無謀なオペレーションに出動する。タイムリミットは22時間!

もうね、あれですよ。完璧。

この映画がその後の娯楽作品に与えた影響は計り知れない。

とは言え、この映画も無から生まれたわけではない。極悪人が仕方なく行政の片棒を担いで悪党どもと戦う羽目になるプロットはロジャー・ゼラズニィの傑作『地獄のハイウェイ』が元ネタだし、「誰もが知っている極悪人」という設定や、会うやつ会うやつみんなが揃って「死んだって聞いたぞ」と口にだすのは西部劇の定番をパロディにしているし(それにしても、後ろ姿をチラっと観ただけでスネークだと分かるアーネスト・ボーグナインは爆笑)、犯罪者たちが集団で襲ってくる図式や犯罪都市そのものを「冒険」の舞台に置き換えるというアイデアウォルター・ヒルの『ウォリアーズ』の影響も大きい。

しかし、この作品はそれらの元ネタを蹴散らすセンス・オブ・ワンダーとカーペンターの娯楽体質がガッチリとハマる事で、唯一無二の傑作になり得ている。映画作家カーペンターの創作者としての脂が絶頂に熱しており、それが画面から溢れ出ている。

・・・

当時常に自作の音楽を自分で手がけていたカーペンター。この映画のメインテーマ(冒頭とエンディングに流れる)も最高。

イントロの入り方が『物体X』を区別がつかない? それはモリコーネがカーペンターのタッチを忠実に再現したからだ。

要塞警察』に続いて、とてもアクション映画とは思えないようなリズムとメロディなのだが、映画を見終わるとどう考えてもこのメロディが頭から離れなくなる。しかも、すごいのはこのテーマは冒頭とエンディングにしか流れない。いかにこのテーマが映画のロマンを絶妙に表現しているかがよく分かる。

もし他の作曲家が頼まれても、あのシナリオを読んでまさかこの音楽は作れないだろうし、そんなことが許されるわけもない。しかし、この映画とこの音楽は切っても切り離せない。

カーペンターもクライマックスのカーチェイスではちゃんとアクション映画らしい盛り上がる音楽を作っているだけに、このメインテーマがより際立つ。

ラストシーンのふてぶてしいスネークの勇姿がフレームアウトするタイミングからこの音楽が流れだした時、スネークの強烈なキャラクターとこのテーマは不可分な存在と化す。

・・・

『ハロウィン』からコンビを組んだ名手ディーン・カンディシネスコ撮影が激クール。

実はこの作品は全編ほとんどが夜のシーンで構成されており、荒廃した都市を舞台にダークな冒険が展開するので、映像も極力ライティングを抑えた暗い映像が多い。プロジェクター上映で観ている分には雰囲気も出ていて文句はないのだが、iPhoneのカメラではとても写しきれなかった。

お馴染みのカーペンターフォントで登場するクレジット。もちろん『John Carpenter's』が頭につく。

ニューヨーク受刑者たちを牛耳るデュークに弄ばれる大統領(ドナルド・プレザンスは『ハロウィン』でカーペンターと組んだ腐れ縁)。

「デュークはニューヨークのナンバー1ですぅ」と何度も聞こえるまで大声で言わされる幼稚な折檻で辱められる。


気力ゼロの大統領。

明らかになんでもやってくれるドナルド・プレザンスで遊んでいるカーペンター。カツラをかぶせて人形扱い。


地雷を多数埋められた橋を懸命に逃げるスネークたちだが、次々と命を奪われていく。

要塞警察』にも登場したカーペンター好みの女傑。当時のカーペンターの恋人であるエイドリアン・バーボーが演じるマギー。どいつもこいつも情けない男たちの中で根性の入った筋金を見せつける。そのマギーが愛する恋人ブレイン(a.k.aハロルド)を失い、黙ってスネークに「(銃を貸して)」と手を差し出すシーンのカッコヨサ! 初対面でその根性を見ぬいて好意を寄せていたスネークが、「奴は死んだ。行こうマギー」と声をかけるも、その無言で差し出される手に、こちらも無言で銃を投げ渡す。直後にみせるニヤリが超しびれる。タイムリミットが刻々と迫るのにマギーを助けようとするスネークと、その男気に応えるように無言で銃を渡す、言葉を必要としない漢同士の会話が熱い。

カットされた冒頭シークエンス。スネークが銀行強盗をするが追手に捕まるシーン。手を広げて降伏しているスネークのスチルはパンフレットにも掲載されて有名だ。北米で発売されたコレクターズLDに収録されたきりDVDやBlu-rayには収録されていない。このシーンでもスネークは相棒を見捨てられずに捕まることになる。

このシークエンス自体は本編からカットして正解だと思う。ちょっと画面が綺麗すぎて本編のルックスと合わないし、そもそもスネークがどうして捕まったかはどうでもいいほうが似合っている。

だが、スネークの心根が善であることを描いているという部分では重要だ。レスキューミッションをリー・ヴァン・クリーフに依頼されるシーンでも、「代わりの大統領を探せ」と嘯きながらも結局は引き受ける。爆弾を首の動脈に埋め込まれるのはその後であり、自分を信用していないことに対して初めて掴みかかる。しかも「戻ってきたら先ずお前を殺す」と恫喝するも、「俺を殺さないのか?」と言われると「今は疲れてる。次の機会だ」と見逃す。そして、最後の障害である壁を越えるシーンでも、自分の命が危ないのにも関わらず、躊躇うこと無く大統領を先に引き上げさせる。スネークのこういう部分がたまらなくカッコイイ。そのくせ雑魚や悪党は容赦なくブチのめす。


小学生の僕に「男」とはかくあるべしと心に刻みつけたアウトローこそがスネーク・プリスケン。そして、それは全人類の心にも刻まれている。


・・・

今回は手元にある北米版Blu-rayでの上映。最初に購入したイギリス盤は効果音の漏れがあったり、画質のクオリティがあまりよくなかったので買い直した。日本盤は未視聴。

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15年ぶりに製作された続編。セルフパロディの部分も多いが、カーペンターとカート・ラッセルの悪ノリなシナリオが最高。全編随所にカーペンターならではの「なんだ、そりゃ?」と声が出るギャグが満載。それでもスネークのキャラにはブレがなく、あくまでも激クールなところがまたすごい。そのアウトローぶりとふてぶてしさは他の追従を許さない。



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