男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『キック・アス』レンタル版ブルーレイ・吹替版レビュー

キック・アス Blu-ray(特典DVD付2枚組)
東宝 (2011-03-18)
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デカチンの形のね

一日フライングで店頭に並んでいたので、TSUTAYAで『キック・アス』国内レンタル版ブルーレイを借りてきました。
TSUTAYA独占レンタルになるレンタル版は、「一層」「dts5.1ch&吹き替え2.0ch」という、当初発表されたセル版の仕様と同じです。というよりも、セル版の仕様に間違ってこちらのレンタル版の仕様を発表しただけだと思われます。いい加減な仕事ですが、仕様変更(と称して)株を上げたんですから東宝は転んでもただでは起きないってところですね。

ボクの所有している北米盤は、本編のみですと23GBですから一層のこちらとほとんど変わりません。平均ビットレートも比べてみたところあまり違いはなく(若干北米盤のほうが多くとっている)、あくまでも個人的な意見ですが「北米盤よりもよく感じる」ぐらいです。イギリス盤は若干画質が良いらしく、メニュー画面などからイギリス盤のマスターを使用しているようです。ただ、ここで気になるのは、セル盤が「二層式」だということです。しかも本編ディスクからは「わざわざ」映像特典などを省いて本編だけにしてある。ということは単純に考えれば、一層の倍の容量を映像や音声に割くことが出来るわけです。なので、もしかしたら国内盤は最強の高画質になる可能性があるんですね。まあ、あくまで希望的観測ですけど。こればっかりは買ってみないと分からないので、18日が楽しみでなりません。

追記:容量は20G弱で、レンタル版のほうが少ないです。
追記2:コメント欄でご指摘があったのですが、60i(インターレス)での収録でした。さすがにセル盤はプログレッシブ収録だと思いますが、参考までに。

今回レンタルした一番の目的は、本邦初公開の「日本語吹き替え版」です。
こちらはセル盤でもドルビーデジタル2.0chなので、そのまま収録されるはずです。

ここで、再度吹替版のキャストを

アーロン・ジョンソンキック・アス)=佐藤拓也【代表作「ノーウェアボーイ」】
クロエ・グレース・モレッツ(ヒット・ガール)=沢城みゆき【代表作『(500)日のサマー』】
クリストファー・ミンツ=プラッセ(レッド・ミスト)=勝杏里【代表作『ヒックとドラゴン』】
マーク・ストロング(フランク・ダミコ)=斉藤志郎【代表作『シャーロック・ホームズ』】
ニコラス・ケイジ(ビッグ・ダディ)=内田直哉【代表作『魔法使いの弟子』】


全編視聴してみた感想は、結果から言うと「大丈夫だ、問題ない」レベルです。

主人公デイブをアテている佐藤拓也さんは、声こそあまりオタクっぽくないんですが(アーロン・ジョンソンはそこらへん素晴らしく絶妙にオタク臭い声を作ってるんですよね。うわずる感じの)、お芝居は的確で素晴らしい。要所要所の情けない部分とか、ゲイのフリをしているシーンで、字幕では表現しづらい「ソレっぽさ」を表現している。しかもオカマ言葉を使うことなく。

レッド・ミストの勝杏里さんも、中尾隆盛(フリーザ)さんの声を若くしたような雰囲気でぴったり。クリスの時はちょっと大人っぽく感じるのですが、レッド・ミストになって調子に乗り始めてからは絶好調。

フランク・ダミーコ役の斉藤志郎さんは、マーク・ストロングのソフトな声とは違って、聞いただけでギャングと分かるボス声でした。これもなかなか悪くない。

ニコラス・ケイジをアテているのはベテランの内田直哉さんで、ニコラス・ケイジというよりも、デイモンにぴったりの声と芝居をみせてくれます。特にヒット・ガール救出のシークエンスでは、愛情たっぷりの声を聞かせてくれます。


そして、全人類が気になっていた、ミンディ=ヒット・ガール=クロエ・グレース・モレッツ役の沢城みゆきさん。これがもうガッチリとハマっています。もちろんクロエ・グレース・モレッツのユニークな声を再現する方向ではなく、あくまでもヒット・ガールを演じている点に好感がもてます。最初の頃の「調子にのったヒット・ガール」や、後半のシリアス・モードのヒット・ガールまで柔軟な芝居をこなしています。若い頃から声優の仕事をなさっているそうで、ベテランならではの芸で、「口の荒い」ヒット・ガールをこなしています。気になるセリフの翻訳も合わせてそれぞれ一言感想を以下に列挙。


「クソ馬鹿野郎ども。どこまでやれるかみせてみな」

  • ヒット・ガールと言えば「これ」という、ポスターのコピーにまで使われる放送禁止用語を使った名台詞。やはりそのまま翻訳するのは難しかったようで、「クソ馬鹿野郎ども」(これも結構ひどいけど)に。これがまたいい塩梅にカマすんですよ。沢城さんは。

「わたしも持ってるも〜ん」

  • チンピラが取り出したバタフライナイフに、待ってましたと自分のを見せびらかすシーン。語尾の「も〜ん」が素晴らしい。

「遊びたいの?」

  • 後半でも重要な意味を持つ「play」=「遊び」もちゃんと翻訳されています。

「ちょっと、そのスタンガン、マジでゲイっぽいんだけど」

  • ここらは字幕では表現しづらい部分ですが、「マジで」という若者用語と、軽薄な調子の芝居で心底キック・アスを見下しているのが分かります。

「壁だけですパパ……あの、これからは気をつけます……ところで、ナイスショット!」

  • ヒット・ガールのシーンでも、上位に来る萌えシーン。油断したヒット・ガールがビッグ・ダディの援護射撃で九死に一生を得るシーンでのセリフ。沢城さんは全編にわたって、息遣いや喘ぎ声、叫び声などすべての声を入れていますが、ここでも「ヒ…」と身をすくめるヒット・ガールの声をちゃんと入れていて最高。翻訳の「気をつけます」も素晴らしいし、「ところで、ナイスショット」もまさかの「直訳」で爆笑。元は「Nice shot,By the Way」。


「ちょぉっと、あんたバカァ。ドアから出ちゃだめでしょ」

  • 窓から出ることをなかなか覚えないキック・アスのシーンでかまされるコレ。「あんたバカァ」は某弐号機パイロットを彷彿とさせます。「ちょぉっと」とか「だめでしょ」に見下すのを通り越して「哀れみ」すら感じるのが面白い。


「空にシグナルを投影するの、デカチンの形のね」

  • ここではなんとそのままの翻訳「デカチン」を使っています。


「なさけないやつだ……」

  • 自動車プレス機でギャングをブチ殺した後のヒット・ガールの捨て台詞。字幕では「お○んこ野郎」。


「ショーは終わりよブタどもっ!!」

  • ヒット・ガールの決めセリフの一つ。ここのエモーショナルな芝居は絶品です。


「あなたがいなけりゃ……パパは生きてた」

  • ここも、下手したらクロエよりも上手なんじゃないかと思えます。どんどんシリアス・モードに切り替わっていく芝居が絶妙。


「そうよ」

  • 「独りじゃ無理だよ」とキック・アスに言われたヒット・ガールが、「EXACTLY」と答えるセリフ。突然女言葉になるのが妙に艶めかしく、セリフのニュアンスもお母さんのような雰囲気になります。これはこれで好き。


「ああ〜そうだ! マニュアル読み始めたほうがいいよ。5分後には、つかってもらうから(ニヤリ)」

  • と思いきや、「タフガイ歩き」をした途端、またまた豹変。ボクの大好きな「説明書を読んどいて」のセリフが、最高の芝居でアテられて素晴らしい。「ああ〜そうだ!」は必聴!


「これは…お遊びなんかじゃない!」

  • ヒット・ガール一世一代の名台詞。「I NEVER PLAY」。強気の上目線のニュアンスではなく、売り言葉に買い言葉的な翻訳になっています。ここでも「シリアス」なヒット・ガールを巧みに表現していて巧い。

また、対ダミーコ戦では、ネックハンギングの潰れた喘ぎ声や、カウンターで蹴られたときや背中を打ち付けられたときのうめき声が重要なんですが、手を抜いた吹き替えだと原音をそのまま使ったりするのに、ちゃんと沢城さんが全部いれています。しかもクロエ独特の萌え声をここではバッチリとトレースしてたまらん。

沢村みゆきさんもこの仕事をしたときは、まさかこんなに熱狂的なファンがつく役どころだとは予想していなかったと思いますが、いやあ、いい仕事してますよ。ありがとう!


他にもギャングの手下がボスを敬う口調を使ったり、意外に独特の翻訳もなされていて興味深いです。スーパーヒーローがちゃんと敬語を使うよう心がけている点も重要。

ビッグダディの名台詞も
「パパは火薬の少ない弾を使ったからね」
と良い翻訳がされています。

幾つか気になる点もあるのですが、一番残念だったのは、キック・アスが初活躍をする対車上荒らしのシーン。あそこで、黒人のチンピラが、キック・アスを一目観たときに「心底受ける大笑い」を聴かせてくれるんですよ。とにかくあの「笑い」は演出上、最重要と言ってもイイ部分なんですが、この黒人をアテた人はあの笑いの重要性をあまり理解していなかったようです。あの「心底受ける」芝居が無いと、キック・アスの滑稽さとか「燃え上がる正義」とかがスムーズに流れないんですよね。


まあ、下手にタレント声優がやったりせず(予算の都合もあるのでしょうが)、実直で素直な良い日本語吹き替えだったと思います。これが入るだけでも国内盤は意味がありますね。


追記:ステュー(デブの用心棒)が言うスカーフェイスの名台詞ですが、字幕に準じて「スカーフェイスの名台詞だ!」とちゃんと事前に説明が入ります。これは大変良かったです。知らないと何のことか分かりませんし。(もっとも『スカーフェイス』本編でも、一回聞いただけではアル・パチーノの訛り芝居が凄すぎて何言ってるのかわかんないんですけどね。「シャローマイリッフェ」と中学時代のボクは覚えていました)



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