男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『キック・アス』★★★★


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必要な暴力描写

事前のイメージでは、アメコミ・ヒーローをモチーフにした軽いノリのコメディかと思っていたのですが、実際はとてもそんな「軽い」くくりで語られるべきではない、全中学生男子必見の「激燃え映画」でした。

<ネタバレあり>

「アメコミ・ヒーロー」をモチーフにしていると言っても、路線は『ダークナイト』や『アンブレイカブル』同様、「現実の世界にヒーローが存在したらどうなるのか?」という発想が基になっている。なので、ベースとなる「現実」の部分が、丹念に描かれているのが特徴。主人公のデイブはメガネで天然パーマ、悪は本当に街にいる不良やギャングたち、そして一番重要なのは「暴力描写」。『ダークナイト』でも直接表現は避けてきている部分ではありますが、『キック・アス』はハッキリと描く。しかも、悪の側も正義の側も平等に「残酷」に描写する。演出に際しても、殴る蹴るという原始的な暴力や、銃器やナイフによる機械的な暴力が、どれも徹底的に「痛さ」が伝わってくるやり方。

なぜ、「暴力描写」が重要で必要なのか?

それは、この作品のクライマックスに用意された「のっぴきならないほどの燃え」のためだ。いや、テーマとかそういう部分ではもっと別の効用のために必要なのかもしれないが、個人的にはクライマックスで観客を徹底的に「緊張」させる必要があり、その「緊張」が「燃え」につながる重要な要素になっているからだ。

具体的に言うと、ヒーローであるはずのキック・アスとビッグ・ダディが「拉致」られた上に、「公開処刑」としてネットやテレビでその様子を一般市民が観ることになるシークエンス。ここでの「洒落にならない」生々しさと、「コメディ」を見に来ている人間に冷水を浴びせかけるような「緊張」は、序盤から要所要所で突発的に提示される「暴力描写」によってもたさられる。もちろん「暴力」を直接描写しなくてもそういった緊張感を生み出すことは可能だし、それこそ上等な演出法かもしれない。まあ、それは別なところで語るとして、この作品では「直接描写」による演出法を選択し、それが尋常ではない効果をあげている。そして、なぜその「効果」が必要なのか?


それは、ヒット・ガールが救出に現れる展開に絶対的な「燃え」を生み出すために他ならない。



それぐらい、ヒット・ガールが二人を救出に現れるまでと、現れてからの大活躍は「のっぴきならないほど燃える」。実際に手が震えるて口がカラカラになるほど燃えた。通常の「燃え」は予定調和の上に成り立っている。実際ヒット・ガールが銃で撃たれて窓からおっこちた時点で「ヒットガールが救出にくる」展開は誰の目にも明らかだ。しかし、上述したように「暴力描写」と「公開処刑」という生々しいセッティングが、観ている側を「のっぴきならない」状態に陥らせる。スピルバーグが長年証明しているように、「暴力描写」や「残酷描写」は確率の高い没入感を生み出すのだ。人間は緊張させられると理性がうまく機能しなくなる。それは物語に「没入させる」(最善とは言えないが)効果の非常に高い方法だ。

監督のマシュー・ヴォーンは、「ヒット・ガールが登場する」までを限界ギリギリまで溜める。弓と一緒で「引けば引くほど」威力は増すのがアクション・シーンの鉄則だ。のんべんだらりとダラダラ続く最近のアクション・シーンとは根本的に異なっている。

だからこそ、いよいよ満を持して、主人公のキック・アスすらナレーションで「死人が回想する映画を知らないのか?」と観客を脅すほど絶体絶命になった瞬間に訪れる、「ヒット・ガール登場」は劇的な「燃え」を生み出している。
加えてマシュー・ヴォーンは「仁王立ち」といったヒーロー物にありがちな登場の演出を敢えて避ける。なんとギャングの一人が狙撃された瞬間に画面が暗転。真っ暗闇になった映像に混乱の音声が交錯する。それでもヒット・ガールは登場しない。なんと、ナイト・ゴーグルの主観映像で次々と敵を撃ち殺していくという素晴らしすぎる演出が炸裂し、その後遂にヒット・ガールが画面に登場する。この「タメ」の「燃え方」ったらない。銃撃戦でも暗闇にマズルフラッシュの点滅演出*1に加えて、そこにスローモーションでスカートをひるがえしながら敵に襲いかかるヒット・ガールを描写する。ものすごい。

小学生の女の子がここまで「燃え」を感じさせるとは、日本のアニメも形無しだ。


そして、この映画の信じられないところは、このシークエンスのあとも、「さらに燃える」事だ。

クライマックスはヒット・ガールがたった一人でギャングのボスがいるビルに殴りこみをかける。『マトリックス』ですら大の大人がふたりがかりでやっていることを、小学生の女の子がたった一人でやってのける。



このシークエンスでは、文字通りヒット・ガールの「ヒーロー」的活躍が堪能できる。意図的にワイヤーを使ったケレン味たっぷりのアクションに加えて、二丁拳銃で身構えたヒット・ガールにドリーでカメラがよってきて、さらに一拍おいてズームするという燃えショットまで入れる。狭い通路を突っ走りながら超高速で敵を撃ち殺していくだけでなく、銃の弾がすぐに切れるリアリティを踏まえて、マガジンを空中に投げてチェンジするというケレン味も炸裂させる。ここでもスピード感と切れ味満点の演出は、かつての日本のアニメの専売特許だったソレだ。

最終的には敵のボスと一対一のバトルを繰り広げる大盤振る舞い。



このカッコヨサはとにかく凄まじい。


そのくせボロボロになったところを(一応)主人公のキック・アスに抱き抱えられるという「萌え」も披露。無敵かよ。


個人的に”マスクをした女性”が大好きなのもありますが、ヒット・ガールが生み出されたことは近年最大の映画史的事件ではないでしょうか。



・・・


キック・アス』は、もちろんヒット・ガールを生み出したことのみではなく、根本的に最高の映画です。。


名台詞も数多い

「ヒーローは現実に存在しない。しかし、悪は現実に存在する」
「大きな力を持たないものは無責任でもいいのか。それは違う」
「弾の火薬は少なくしてたんだよ」
「説明書を読むのよ」


主人公のキック・アスの造形も本当に素晴らしい

デイブがヒーローになろうとした動機が「ヒーロー不在」に根ざしているのも良い。「どうして誰もヒーローになろうとしないんだ?」。それだけでも「ヒーローの資格充分」なのだが、スキルがまったく備わっていない。形から入って「服を買う」、鏡の前で次々とポーズを決める。これだけでも共感するなというほうが無理。しかも、デイブは最初の活躍でいきなり「お腹を刺され」た上に「車にひき逃げ」されたのにも関わらず、まったく懲りることなくキック・アスに復帰する。誰も求めていないのに!

リハビリもかねて「迷子の猫探し」を始めるあたりは爆笑。

それでも、不良どもの喧嘩を躊躇うことなく仲裁する姿が素晴らしい。実際この映画の彼の行動は「ヒーロー」とか関係ない。「誰もが見ているだけで何もしない。だからボクは戦う。死んでもいい」とまで言い切る。「人間」として正しいことは言うまでもない。


現実的な武器のセレクション

超能力を持っていないバットマンですら、経済力を武器にして様々な「特殊兵器」を作り出して活躍する。なのに、『キック・アス』に登場する武器はすべて現実に存在するものばかり。ヒット・ガールがパパにプレゼントされるのは「バタフライナイフ」だし、キック・アスですらスティックにスタンガンだ。ヒット・ガールも最初の戦いでこそお手製っぽい薙刀を使うが(しかも使い方がえげつない)、クライマックスではハンドガンにカイザーナックル。この実弾主義的設定も、アメコミ・ヒーローに対するアンチ・テーゼだろう。



ヒット・ガールに扮するクロエ・グレース・モレッツの銃の扱いが、訓練された人間のソレなのも素晴らしい。二丁拳銃などの現実離れした使い方もするくせに、ホテルのロビーでみせるハンドガンの扱いがやたらと堂に入っているのが良い。


アメコミ・ヒーローの舞台裏

個人的に感動したのは、目の周りの黒塗りをしっかりと描写したことです。ニコラス・ケイジは鏡の前でやおら目の周りを黒く塗り始めるし、レッド・ミストはマスクをとっても目の周りの黒塗りはそのまま。『バットマン・リターンズ』の(致し方ない)チョンボに、キャット・ウーマンに正体を見せるときのバットマンの黒塗りが次のカットでいきなり消えているという残念なショットがあるのですが、あれを意識的に描いているのは面白い。


サントラもいい

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主題歌の『Kick Ass』もカッコイイし、ヒット・ガールが活躍するシーンでかかる歌も最高。

スコアはイギリスのiTunesでしか発売していないようですが、YouTubeにアップされていたので聴いてみました。39曲もあって、短い曲ばかりなのですが、映画のシーンがまざまざと蘇ります。ヒーロー物を意識したかっこいいスコアも満載。ぜひ日本のiTunesでも配信してほしいなあ。


・・・

(おそらく)今年最後に観た映画でこんな大当たりだったのは幸せ。しかも昨日観た『ソーシャル・ネットワーク』もベスト1級の映画だったので、年末に大当たりが二本続きました。来年も面白い映画が公開されるといいなあ。


ってなわけで、家に帰ってからすぐに友達に借りていたアメリカ版ブルーレイで『KICK-ASS』三昧です。クロエ・モレッツちゃん最高!! メイキングも早速観なきゃ。


原作も読むぜ!!!



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*1:ソナチネ』かよ!