男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『天国と地獄』ブルーレイ鑑賞


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「あいにく花屋に行くようなツラは一人もいません」

東宝の黒澤ブルーレイシリーズも今回で完結。

今日は『天国と地獄』を観ました。

今更言うまでもなく、日本の犯罪映画の嚆矢であり最高傑作の一つでしょう。

黒澤明円熟期の一本で、『用心棒』『椿三十郎』『天国と地獄』をそれぞれ一年とかでポンポン作っていたってのは、どういう状況なのか想像しにくい。ははは。まあ、そんなこと言ったら黒澤明の映画ってほぼ毎年新作があったわけですし、当時の製作状況から考えるとそれでも少ないぐらいだったみたいですね。山田洋次なんて寅さん年に二本に作りながら合間に新作も作っていたぐらいですし。

勿論ポストプロダクションが直ぐに済んじゃっていたというのもあるんですが、それでもやっぱり昔の映画人のバイタリティーは凄いと思います。黒澤明もインタビューでは「年に三本作るのが理想」って言ってましたし。

そういう意味ではスピルバーグはこのご時世でもバンバン新作を作ったりするから凄いですよね(空くときは4年とか空くけど)。


何度観てもシナリオが素晴らし過ぎて呆気にとられるほどですが、今日観ていたら子どもの頃は全然心に響かなかった部分で二カ所グッと来ました。


一つ目は、身代金引き渡しのシークエンスが終わった直後、車で進一(誘拐された運転手の子供)のところへ権藤が駆け寄っていくところ。あそこは前半に一切かからない音楽が高らかに鳴り響いて、子どもの頃は「くさいなあ」とちょっと引き気味だったんですよ。ところが今観ると、権藤の「人間の気高さ」が良く出ていて素晴らしいなって。だって、散々繰り返されますが、権藤にとってあの子肉親じゃないんですよ。それでも破産覚悟で身代金を払った上に、進一のところへ一目散に走っていくじゃないですか。

「しんいち!!!!」

あの時の三船敏郎の表情がまた絶品で、本当に「良い人間」だって分かる。

そして、それに続いて感動したのが、クズ野郎三橋達也が懐柔しにきた場面。

世論の反発を緩和させるために、形だけの重役に戻してあげますよと言ってくるんですが、権藤は断固断るんですよ。そして、

「俺はまだ、これからがいよいよ俺なんだ、お前はまだガキだ、お前という人間はなっておらん!」

と毅然と言い放つ。

子どもの頃はスルっと流していたんですが、この台詞は実に良かったなあ。

「試練」を乗り越えて人間としての階段を上がった人間って感じがして。


こう考えると、最後に山崎努の犯人との対面シーンがまた味わい深くなります。


権藤なんて

「何故、君と私を憎み合う両極端として考えるのかね」

とまで冷静に言うんですよ。


子どもの頃は、仲代達也の戸倉警部や山崎努の存在感に惹かれていましたが、大人になると三船敏郎の演じる権藤の「ものすごい人だな」ブリがよく分かります。


そして、面会室の鉄のシャッターが閉まるラストで、狼狽してわめき散らす山崎努に対して、微動だにしない権藤が凄く印象に残りました。

ハイビジョンの画質だとガラスに反射して映るお互いの表情とかも印象的で、あそこの演出意図がよく伝わってきます。

横浜の町をはじめとするディティールの細かい再現も、密室劇から大きく広がる舞台転換をより印象深くしますし、迫力満点の特急こだま号のシークエンスも監督がこだわった「実際に走っている車両で撮影する」=「光の入り方とか反射するモノが全然違う」という緻密な部分がバッチリ確認できます。*1あのシークエンスは確かに本当に素晴らしい。まくし立てる台詞や、カメラが一切車内から出ないとか、手持ちカメラのダイナミズムさとか(すれ違う人がシネスコのフレームに貼ってくる迫力!)、黒澤明の持ち味が十二分に発揮されています。


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*1:スピルバーグも『ジョーズ』で海のロケは金がかかるから止めろと言われて、同じ様な反論をしていますね。もちろんそれが正解なのは本編が証明していますが。