男たち、野獣の輝き

旧映画ブログです。

Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

ダークナイト

鬼気迫る傑作

先行ロードショーで観てきました。

場内は3/4ぐらい埋まっており、バットマンアレルギーの激しい日本では健闘といえるんじゃないでしょうか。やはりアメリカでの化け物ヒットのニュースが効果的だったのかもしれません。(もっともティム・バートンの『バットマン』の時もおんなじように、「アメリカで凄まじいヒット」とニュースがきたとたん煽りに煽ってスマッシュ・ヒットって落ちでしたけど)

さて、

まずネタバレをなしで感想を書くと、前半こそアメコミ然とした活躍をちょろっとバットマンがしたりしますが、中盤(もちろんヒース・レジャーのジョーカーが活動し始めて)からの怒涛の”ダーク”ぶりはとんでもないです。
ヒース・レジャーの熱演はホントに鬼気迫るものがありますが、ノーラン兄弟のシナリオがとにかく凄まじいです。今まで映画界では悪役が登場しても大抵は大義名分を振りかざしたり、お金目当てだったり、過去にトラウマがあったりというバックボーンや動機があるのですが、今回のジョーカーは完全に空っぽ。そして、一番重要なのは正真正銘のテロリストであることでしょうか。あんなヘナチョコしたピエロ野郎がどうして究極の悪党と言われるのかが具体的に延々と示される終盤は、まったく目が離せないばかりか息をするのも忘れそうになるほどの圧迫感が支配しています。それがストーリーの二転三転ぶりと綿密に絡み合うシナリオは本当に素晴らしいと思います。


<以下ネタバレ>


さて、

やはりジョーカーとそれを演じるヒース・レジャーが話題になるだけあって、中盤以降はシーンをほとんど持っていってしまうほどのパワーがあります。ただし、そのリアル極まる”絶対悪”ブリは、安易な感情移入を一切拒むように設計されているため、魅力を感じる余裕もなくただただ厭なものを見ている気分が充満しています。バットマン・シリーズといえば悪役ありきといっていいほどなので、ジャック・ニコルソンの演じたジョーカーや、ミッシェル・ファイファーのキャット・ウーマンなども愛すべき悪役だったはず。なのに、今回のジョーカーはディティーからして徹底的に感情移入を妨げる。
「傷の小話」が最初に語れる時には、「やっぱりジョーカーなりのトラウマがあるんだな」と思わせておいて、次に話すときにはまったく違うことを話しだして、それがただの「小話」だったことがわかったり。
ピエロの顔面がコンプレックスになっているのかと思いきや、どんどんメイクが薄汚れはがれていくと実際には普通の肌が露出し始めたり。
挙句には文字通りDNAからなにから一切過去の痕跡が無いという、文字通りのモンスターとして設定されていることが明らかになるあたりは戦慄すらしました。
そして、ノーラン兄弟のアプローチはジョーカーに現実の絶対悪である”テロリスト”をなぞらせる。その極めて具体的な方法は観ていてホントに緊張感と恐怖感に満ちています。
バットマンが正体をあらわさないと一日に一人ずつ殺す」とメディアを使って市民に恐怖を与える出だしから、常に市民を疑心暗鬼に陥れる方法を実行していく。まさにここが今までの悪役とは桁違いの悪党ぶり。クライマックスの囚人と市民をそれぞれ乗せた船を命の天秤にのせて、両方に生殺与奪の権利をあたえるあたりは、「ホントにハリウッドの夏休み映画かコレ??」と感嘆します。ここまで振り切った上で、両方の囚人と市民がそれぞれ「高潔な意思」でジョーカーを上回る場面は本当に感動しました。しかも、そこにいたる前にバットマンが「彼らはスイッチを押さない」と断言(信じて)して自分はジョーカー拿捕と人質解放に孤軍奮闘するのが泣ける。あそこで飛び立つバットマンにテーマの音楽がかぶさる場面は鳥肌物でした。

ジョーカーとはまったく正反対に本来の悪役像を丁寧に再現しているトゥーフェイスは、バックボーンも動機も手段もどれもこれも悪役然としており、ジョーカーが死なないのにこちらはあっけなく死んでしまうのもやりきれない哀しさを抱かせます。両方表のコインのようにそれぞれの手段で正義を執行していたハーヴィー・デントとブルース・ウェインが、ジョーカーという絶対悪の登場で切り裂かれてしまうプロットは涙なくしては見られないですね。そして、”光の騎士=ワホイト・ナイト”としてのかつての分身を生かすために、自ら”闇の騎士=ダークナイト”となるラストは、ゲイリー・オールドマンの名調子やバットマンの意思をしるゴードンの息子、そして重厚な音楽と共に全編で一番鳥肌がたったシーンでした。

バットマン・ビギンズ』ではさすがに手探りという感じを抱かせた不安定さはモノの見事に払拭されて、『ダークナイト』として強靭な世界を突き抜けたノーラン監督とノーラン兄弟の脚本はホントに凄いです。



追記:
ジョーカーがわざわざナースに女装して病院にあらわるくだりは、緊張感が支配する本編の中でも息継ぎが出来るような笑いどころでした。もっとも台詞などは油断できないので完全に笑えないのがアレですが。病院から出てきたジョーカーの背後で小爆発が次々と起こるが、ジョーカーが「おんや?」とばかりにスイッチをガチガチすると大爆発が起こるあたりも、笑っていいいのか息を呑んでいいのかわからないという、スピルバーグの最近の映画で感じるブラックさがありました。

しっかし、えっらい盛り上がる大アクションの末に捕まえたジョーカーが、留置場に来るためにわざとそうしていたことが分かるシークエンスと、それに引き続き起こるレイチェルの爆死は凄まじい緊張感と興奮でした。爆死王ゲイリー・オールドマンが出ているだけに要らぬ緊張感もありましたしね。