男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

シネスイチ板橋プログラム13『ダークナイト』


作品を異次元に引っ張り上げているヒース・レジャー

ダークナイトライジング』を観ると、たまらなく前作の『ダークナイト』が観たくなったので、本来のシネスイチ板橋の主旨から外れるのですが、そんなこと構うもんかということで。

劇場で二回観て、ブルーレイでも何度も観直している作品ですが、ホームシアターで全編通して観るのは初めて。先日も日曜洋画劇場での放送を観たくせに、まったく飽きること無く全編観てしまうのは、やはりヒース・レジャー扮するジョーカーがあまりにも魅力的だからでしょう。

勿論ノーラン兄弟が書いたシナリオも大変魅力的ですし、ビシっとやりたいことが貫かれている作風は惚れ惚れするほどです。

ただ、『ライジング』を支えていたのが(個人的に)アン・ハサウェイのセリーナ・カイルだったように、この作品ではジョーカーがまるでヒロインも兼ねているように、画面に出てくるだけでワクワクしてしまう。


その証拠に、このナース・ジョーカーの魅力的なことよ。「ハアアアイ」


「こんなところでグループセラピーなんかしてやがる」

アハハハ、オホホホ、イヒヒヒ、ウフフフとギャングたちの会合に単身乗り込んでくるジョーカー。有名な「マジックペンシル」も披露して、一気に観客の心を鷲掴み。


「轢け!」とバットマンに叫ぶジョーカーは珍しく真顔だった。なので、結局自分を轢き殺せぬまま倒れてしまったバットマンに対して少し寂しいような残念なような絶妙な表情を浮かべる。

個人的にはジョーカーが狂っているとは思えない。ギャングにそう言われた時も真顔で「違う」と否定しているし、よく観ると一人の時のジョーカーは特にふざけた態度はしていない。

バットマンとジョーカーは常に表裏一体のような演出で描かれる。パーティーのシーンではふたりとも同じようにシャンパンの中身は捨てて飲むふりをする。バットマンがマスクをして「正義の味方」を演じているように、ジョーカーもピエロの化粧で「狂った悪党」を演じているように見える。

作品の中でも超弩級に緊迫しつつ何度も食い入るように観てしまう「尋問シーン」で、ジョーカーはバットマンに胸襟を開いて本音を話しかけている。


「おまえもあいつらみたいな口の聞き方をするなよ。おまえはあいつらとは違うんだ。いくらそうなろうとしてもな。あいつらにしてみりゃ、おまえは俺と同じイカレ野郎なんだ。今は必要とされてるが、必要なくなれば厄介者としてお払い箱さ」

あげくにジョーカーはバットマンに変則的なプロポーズまでする。

「おまえがいるから俺は俺でいられる」


ジョーカーの言動は究極のところロールプレイだ。それも極めて質の高い。


ヒース・レジャージョーカーが憑依したように見える芝居を緻密な計算に基づいて演じている。髪の毛をなでつける手が右手か左手かもカッチリと画面上の効果を考えて行なっているし、即興の傷に関するつくり話の時でも、目の動きでそれが「でたらめなつくり話をその場で作っている」と的確に分かる。結果として夭折したから神がかったように見えるが、当然演じている時に本人に死ぬつもりはなかったはずで、それをそんな風に評価するのは逆に失礼だ。

ただ、まあ、こんなぶっちぎりに凄まじい仕事をしてしまったら、天に召されてしまいそうな気もするけど……



・・・


ライジング』でも大活躍するバットポッドが初登場する激燃えシーン。ぶっ壊れたタンブラーの前輪部分がそのままタイヤになってしまうギミックも含めて、これぞ秘密兵器という感じで最高だ。全編写実的なリアリティを貫いている本編において、唯一といって良いぐらい「ヒーロー」モノとしての燃えシーンだ。音楽の使い方も通常のアクション大作風な付け方はされていないのが特徴で、このシーンのみここぞというタイミングで燃える音楽が挿入される。

思えば『ライジング』は音楽設計からして今作とはまったく違うアプローチがとられているのが分かる。あちらは音楽だけでも文字通りアクション超大作タッチに全編鳴り響く。


「彼は沈黙の守護者、そして、闇の騎士だ」

映画史上屈指のラストシーン。ゲイリー・オールドマン演じるゴードンが子どもに語りかけるセリフと重なって、夜の闇を切り裂いて走るバットマンの先に一瞬光りがさす。その瞬間暗転し、タイトルが現れる。映画のすべての力が文字通り映像の最後のコマに集約されるという神業のようなエンディングは、それこそ何度観ても鳥肌が立つ素晴らしさ。


ライジング』によってノーラン版バットマンは三部作として見事にまとまったが、やはりこの『ダークナイト』の特別な力は異彩を放っている。



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