男たち、野獣の輝き

旧映画ブログです。

Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

ドラゴン・キングダム

全中学生ドラゴン必見の傑作!

この映画の企画を知ったときは、アメリカ人の脚本監督コンビではたかがしれてるだろうなあという軽い気持ちでした。ところがインタビューでジェット・リー

「少しシリアスになっていたので、子ども向けにするようにアドバイスした」

と語っていたので俄然興味がわいてきました。

そう考えるとアメリカのクンフーおたくのぼんくらジェイソンが異次元の中国に迷い込んで大冒険をする”というプロットを子ども向けにするというアプローチはかなり自分のツボにキたのです。

興行的にもファン的にもジャッキーとリンチェイの夢の競演が主軸になるわけですが、ストーリーの軸でありジェイソンがキチンと主人公として機能していれば、これはもう素晴らしいファンタジーになるわけです。

あの二人を出演させておいてこれが成立すれば本当に素晴らしいなあと思い始めていると、入ってくる評判が実際に「ちゃんとジェイソンが主人公として成立している」という喜ばしいものでした。

しかも予告を観ると

↑予告編

キチンとジェイソンが修行するシーンが!!

しかもジャッキーとリンチェイの2人が師匠!! こんな全中学生男子の夢を実現させる設定があり得るなんて!


果たしていよいよ公開された本作は想像以上の大傑作で、本気で感動して涙が出るほどです。


<以下ネタバレあり>


アバンタイトルでは如意棒の持ち主である孫悟空が、雲から突き出た岩山の頂上で敵たちと戦う様子が実にファンタジックな映像で描写されます。不自然なほど多用されるワイヤーアクションやセット感をわざと出している照明など、昔話の再現のような雰囲気が良く出ており、ジュブナイルものとして導入らしい雰囲気が良く出ています。
続いて夢から醒める主人公ジェイソンの部屋が映し出されるや、部屋中に貼りまくられたクンフー映画のポスターをコラージュして燃え燃えのオープニングが展開。
この一連のオープニング・シークエンスにおいて、間違ってもリアル系のクンフー映画では無いことを強調することに成功していると思います。
そして、ジェイソンがいきなりチャイナタウンの質屋で海賊版クンフーDVDをあさるシークエンスや、そこに無造作に転がる如意棒、そこの主である老人の紹介を経て、まったく無駄なくいじめっ子たちに絡まれてそのまま強盗の片棒を担がされる流れも素晴らしいです。余計なドラマ一切無しに、余すところ無く中学生男子の感情移入をこれ以上ないほど促す素敵さ。しかもそのまま一気に屋上から落下して舞台は異次元の中国へ。

メインの舞台であるキングダムでも無駄なくストーリーが進み、ジャッキーと知り合って孫悟空のストーリーを昔話で聞かされます。冒頭のシークエンスがここでつながるのですが、ここでもキチンとクライマックスの伏線が張り巡らされているのが侮れません。
そして酒場で繰り広げられる最初のアクション・シークエンスはジャッキー・アクションのテイストが思う存分発揮されていて、トリッキーな立ち回りや要所要所でのコメディチックなアクションも健在。それでいてユエン・ウーピンが冒頭のシークエンスと対比させるようにキチンと地に足の着いたアクションを演出しているので、ジェイド将軍や孫悟空のような超人たちとの違いが巧く表現されています。超人と達人の違いと言うのでしょうか。

ちゃんとジャッキーとリンチェイの戦いも思う存分堪能したあとは、リンチェイも仲間に加わりパーティー完成。

ジェイド将軍の刺客として登場する白髪魔女を演じるリー・ビンビンという女優さんが無茶苦茶きれいなのもポイントが高く、ブリジット・リンが演じた白髪魔女に勝るとも劣らない。

そしてこの映画のキモともいえるジェイソンの修行シークエンス。とにかくジャッキーが師匠になって修行すると言うだけでも感無量なのに、ジェイソンがさせられる馬歩の姿勢がまさにジャッキーのそれ! それにケチをつけるリンチェイや、あれこれ問答のようにクンフーを叩き込む2人が泣ける。ジークンドーの「水のようにも」当然のように含まれる!

ボンクラだったジェイソンも髪が伸びるほど長い時間修行して旅をしているのが素晴らしい。『マトリックス』のローディングも男の夢だけど、やっぱり修行は良い! もっともっと修行していてもいいと思えるほどです。『ベスト・キッド』も他の映画と違うのは訓練のシークエンスが延々とあってそれが実を結ぶから感動するのだ。『ロッキー』も練習するシーンが盛り上がるから試合のシーンで熱くなれるのだ。これがあるからこの映画がジェイソンのビルドゥングスロマンとして見応えがあるんですよね。しかも、クンフー的にはやっと戦える程度にしかなっていないのもリアリティがあって素晴らしくて、要は師匠のジャッキーを助けるために危険を顧みず敵陣に一人乗り込む根性が重要であることが実感できるのがいいんです。

クライマックスにジェイド将軍の城で全員集合しての大バトルも最高で、それぞれが各々見せ場を受け持ちつつ盛り上がるのがいいんです。
中でも孫悟空が復活してにっこりと微笑んだリンチェイが突如霧散すると、それが髪の毛になって実は彼が孫悟空の分身だったと分かるシーンは号泣!!
孫悟空が石にされてから500年間ずっと如意棒と「導かれし者」を探し続け、やっとその目的を達して笑顔と共に消えていくあの瞬間、彼のもつドラマが一気に心に降り注いできて感涙。ああいう感動は長らく映画を観続けていましたが類を見なかったです。
「そうだったのかあ!!」
って、身震いしましたよ。

だもんだから、いよいよ本丸である孫悟空が復活して
「俺の番だ!」
と大暴れを始めるあたりはカタルシスが半端じゃないです。

大団円を迎えたあと、ジェイソンが現実の世界に帰還してからも抜群で。

屋上から落ちた地点に戻ったジェイソンは、追ってきたいじめっ子にいよいよ反撃! そうこなくっちゃいけないと思うやいなや、ビシっとブルース・リーのポーズを決めて

「もうよせ」

完璧!!!

ジャッキーやリンチェイに技術は教わっても、ジェイソンの魂の基礎を形成しているのは間違いなくブルース・リーであることを一発で観客に見せ付ける名シーンです。ここで冒頭に『燃えよドラゴン』の海賊版DVDを持っている伏線が結実! ヤバ過ぎますあれは。

ブルース・リーの提唱するジークンドー・コンセプトの基本中の基本は、《戦わずして勝つ》。具体的には絶対に負けない力を身につけて、相手に戦う気持ちを失わせること。それでこそいじめっ子のリーダーをボゴボゴにのしてからの下っ端たちへの睨みが効くんですよね。

最後にジェイソンが屋上で一人棒術の練習をしている場面で終わるのも完璧。アレしかないだろうというエンディングでした。


それにしても、あのリンチェイとジャッキーがやらかしてくれた”立小便ギャグ”の破壊度は凄すぎました。砂漠に雨を降らせるためにジャッキーが渾身の芝居で無い唾をつかってなにやら願いを紙に書いたとたんに小雨がパラパラ。それを恍惚の表情で顔面に受けるジャッキー! 直後に立小便をジャッキーに浴びせかけているリンチェイのショットで場内爆笑の渦。あのシーン全然映画に関係ないだけに異常の極み。アレ何なんだよ!!



リンチェイが「子ども向けにしよう」と提唱したアプローチが見事に成功しているポイントとしては、やはり2人が大人になっているということじゃないでしょうか。以前のジャッキーや問題児だった頃のリンチェイではこういったアプローチには絶対にならなかったと思うんですよね。それぐらい見事なバランスの上に成り立っているジュブナイル+ビルドゥングスロマンだと思います。