男たち、野獣の輝き

旧映画ブログです。

Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

サイコ(1998) [DVD]

当時はガス・ヴァン・サントの映画を観ていなくて、他に倣えとばかりにスルーしていました。今回急にヒッチコックを観直したくなったので、他の映画と一緒にこのリメイク版も借りてきました。いまは幾つかサントの作品も観ていて好きなので、彼の映画としても興味がありました。

公開時の噂どおり、笑ってしまうぐらいオリジナルを再現しています。ヒッチコック登場シーンでもご丁寧にそれらしい太った紳士が立っている始末(場違いに!)。シナリオのセリフもカットの構図や動きなどもかなりオリジナル通りにしていて、ある意味不思議な気分になるほどです。

オリジナルでヒッチコックがやろうとして出来なかっただろうと”勝手に”判断して実行しているシークエンスもあり、そこら辺りは微妙で困りました。前半の主人公マリオンの恋人に扮したヴィゴ・モーテンセンが素っ裸なのも監督の趣味丸出しだよなあと笑ってしまったり(窓のブラインド開ける時は昼間なんだからパンツぐらい履くだろう)。ファーストカットの町の全景から部屋の中まで1カット処理したのはヒッチコックなら絶対やりたかったと思われるのでOK。ただ、それだとカットチェンジを観客に意識させないためにわざわざインサートされる意味の無い場所や時間のスーパー処理が効果を失ってるんですけどね。
ノーマンが覗きをしている時にオナニーをしているというのは判断の難しいところですが、これもまあ監督の趣味ってことでいいんじゃないでしょうか。真面目な話ではノーマンはオナニーしなさそうなんだけどなあ。

また、結構肝心要のショッキング・シークエンスではサントも独自の変更を加えていますが、こればっかりはうまく言っているとは思えません。改めてヒッチコックがさすがだなと再確認できるだけです。
最も有名なシャワー・シーンは絶対的に編集のテンポが遅すぎます。包丁が身体に直接突き刺さる描写はオリジナル同様にないので、あれではただ単にダラダラしているだけに感じます。オリジナルのあの人間の生理を的確に裏切るジャンプショットなどがあのシークエンスの要なのだと思うので。ただ、マリオンが事切れてバスタブの端にグッタリとなるカットはお尻のあたりとかの肉感が死んでしまった哀しさが出ててよかったです。*1
また、私立探偵のアーボガストが殺されるシーンでは主観ショットが入るのみならず、それにダサいブラー処理などが入っていてかなり台無しな感じです。ただ、ウィリアム・H・メイシーがオリジナルのマーチン・バルサムとは全く違うタイプの役者ながら実に素晴らしく演じています。もっとも、メイシーというだけで頼りなさは群を抜いていますが(ちなみに、吹替えは納谷六郎で、バッチリです)。

一番いただけないのは、最後のクライマックスで母親の死体を発見したライラが振り向くと既に女装したノーマンが迫っていると言うショットです。あそこは足音が先行して”開いている扉”にヌっとノーマンが包丁を持って不気味に笑って現れると言うオリジナルに、遠く及ばない凡庸な処理でした。オリジナルの処理がボクにとってどれだけ重要かは後述。

ライラ役のジュリアン・ムーアもメイキングで公言している通り、彼女のキャラはオリジナルとは違って攻撃的な性格に変更されています。個人的にはこの手の映画は登場人物の全てを観客に感情移入させた方がいいと思っているので、残念ながら彼女のキャラは好きになれませんでした。

ボクはオリジナルの横領されたお金の描写がかなり好きで、札束2つが封筒にパンパンに入っていて輪ゴムで止めてあったり、大きすぎてバッグからはみ出しそうになったり、偽装のために新聞紙の間に挟んで二つ折りにして丸めるあたりはやたらと意味不明にそそられました。あの辺りが執拗に再現されているのは嬉しかったです。
ノーマンの証拠隠滅シークエンスも全く端折らずに再現されているのは素晴らしかったです。流しで手の血を流す場面の、ちょっとだけ散った血を水でちゃっちゃと流すショットは特に良かったです。

しかし、どうでもいいですがこのDVDは画質が悪いですねえ。

*1:オリジナル版のDVDの特典で、このショットは元々オリジナルでも撮影されたがカットされたモノを再現しているようです。確かにこのカットがあるのとないのとでは効果が違います。