男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

卒業 [DVD]★★★1/2

卒業 [DVD]

びっくりしました。

中学生の頃にゴールデン洋画劇場で観て以来なんですが、こんなに面白い映画だとは全く分かりませんでした。思うに子供の頃はロビンソン夫人に誘惑されるくだりを客観的に観ることが出来なかったのが原因(童貞だから)だったのかもしれませんが、今や完全にコメディだということが良く分かる。いや、言い換えると純粋に青春映画なのかもしれないです。青春時代の言動は客観的に描くとコメディになるという事なのでしょう。

それは別にしてもマイク・ニコルズ監督の先鋭的な演出には終始しびれました。この映画を名作にカテゴライズしている要因の一つであるサイモンとガーファンクルの歌も、サントラだけはよく聴いていたので改めてその使い方にしびれました。

オリジナルのシネスコサイズで観るのも当然初めてだったわけですが、そのワイド画面を使い切った画作りもかなり最高。情事のシークエンスと家庭内のシークエンスを縦横無尽に交錯させる編集も素晴らしい。

アン・バンクロフトの熟女ならではの余裕たっぷりの行動と、ダスティン・ホフマンの童貞芝居が、絶妙のハーモニーで大笑いさせてくれる前半は特にコメディとして面白いです。ベンジャミンの両親をはじめとする大人たちが抜群にカリカチュアライズされており、冒頭の鬱陶しいほどベンジャミンにまとわりつくくだりや、スキューバーのテストをさせられるくだりは爆笑必至。

そこに満を持して登場するヒロイン”エレーン”に扮するキャサリン・ロスがかなり魅力的で、前半の大人たちを極端に演出することで清涼剤のように機能し、ベンジャミンがその清純さに心を打たれる展開に説得力を持たせている(はず)。

一度のデートで意気投合する二人を、いきなり次の日に破滅させるスピーディーな展開も気が抜けず、天気なのに雨が降り注ぐ演出もカッコイイ。

後半はベンジャミンがストーカーと化して(青春にはありがちなことです)エレーンを追い回す展開が現在では違う意味で笑えるのですが、キチンとコメディとしても笑える演出が随所に用意されていて油断もすきもない。特にエレーンの心が自分に傾いていると分かってからの求婚攻撃は爆笑で(二股をかけられているというのに)、いつまでもうんと言わないエレーンを大学の教室の前まで付回し、授業が終わっても同じ姿勢で待っているベンジャミンが何事もなかったように話を続ける場面は大笑いしました。

途中若き日のリチャード・ドレイファスがエキストラで登場するのを挟みつつ、有名なクライマックスへなだれ込むわけですが、ここでもベンジャミンが結婚式場を調べる一連のシークエンスがかなりコメディタッチなのにも関わらず*1、終盤の有名な花嫁強奪シーンで何故か感動するという離れ業といっても良い展開を見せてくれます。やっぱりああいう青春というか若者が恋愛に狂ってしまう際の妄想とも言える行動が全て具現化されているあたりが感動を生んでいるのかもしれませんね。

ただ、バスの最後尾に乗ってハッピー・エンド的な展開にも関わらず、気まずいムードの二人をかなりの長回しで描写しているあたりはマイク・ニコルズ監督のあなどれない白けた手腕がうかがえて最後までグっときました。*2

それからもう言うに及ばずなんですが、ダスティン・ホフマンのとても新人とは思えない抜群の芝居が最高です。前半の童貞芝居と後半になって何故か男っぷりが上がってくる芝居(脱童貞)の演じ分けは全くスムーズなだけに恐ろしい。キスの仕方一つでも違うという。(それにしてもアン・バンクロフトがタバコの煙を吐く前にギクシャクと唐突にキスをされ、それが終わってからあきれたようにやっと煙を吐き出すくだりは爆笑)

そうえいば「スカボロー・フェア」って無茶苦茶好きな歌なんですが、今まで意味すら知らなかったので調べてみました。イギリスのスカボロー地方のフォークソングってことなんですね。オリジナルじゃないのか。歌詞もこれがかかるシークエンスのベンジャミンの心境を思いっきり代弁しているわけですね。まあ、どうでもいいんですが。

<ハイビジョンの見所>

ベンジャミンがエレーンをドライブに誘うために車できてから秘密がばれるまでは、天気なのに雨が降っていて、その水滴の描写や雨に濡れたベンジャミンとロビンソン夫人の髪や顔のディティールがよく出ていました。

ストーカーと化してエレーンの通う大学の近くにアパートを借りたベンジャミンですが、このアパートの室内の描写が細かい小道具や屋根裏のような造りをよく表現していて良かったです。エレーンがアパートから出て路地を走っていくショットも、窓から捉えたワイドな画面にキチンと路面や車などの存在感がハッキリしていて良かったです。

NHKのハイビジョンは独自にテレシネをしているようなので、フィルムの状態に大きく左右されるようです。この映画ではポジフィルムから直接テレシネを行っているようで(パンチが残っていたりします)、良くも悪くも古いフィルムの質感がハッキリと出ています。望遠で捉えたショットの荒れた粒子感もキチンと表現されています。

*1:ガソリンスタンドで電話を借りるくだりで、電話帳を興奮してビリビリに破きまくるダスティン・ホフマン

*2:あのバスに乗るにしても、ベンジャミンがちゃんとお金を入れていたりするのも細かくて面白い。花嫁を強奪してるのに。