男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『ホワイトハウス・ダウン』★★★

主人公は別だった!

本編にお遊びで『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』のフッテージを使っても、「ふん……」と鼻で笑われる程には映画ファンの信頼を得ていない監督がローランド・エメリッヒ。もちろん『インデペンデンス・デイ』は大好きな映画だけど、それ以降の株価は下落しっぱなしの奴ですよ。

なので、今回観た『ホワイトハウス・ダウン』も、エメリッヒ映画ということで、観る気は完全にゼロでした。が、Twitterで「意外に評判がいいんです」という声を聴き、それなら観てみないといけないと、本日観てまいりました。

この映画、宣伝やプロットなどでも分かるように、要するに『ダイ・ハード』のプロットから派生した、所謂「ダイ・ハード物」の一本。1988年から四半世紀経っても今だにこのプロットの作品が作られ続けていることに、あの作品の強靭な完成度と人気と認知度を改めて思い知らされます。もっとも、そういう大多数のプロットいただき作品はたいてい箸にも棒にもかからない凡作がほとんどです。
そんな中、『ジョーズ』における『アリゲーター』や『ピラニア』が、オリジナルを超えたりはしないけど傑作と呼べる作品だったように、「ダイ・ハード物」の中にも『エグゼクティブ・デシジョン』のような大傑作があったりします。

この『ホワイトハウス・ダウン』は、『エグゼクティブ・デシジョン』のような大傑作ではないけれど、『沈黙の戦艦』並には頑張っている作品として評価できるし、なにより「ダイ・ハードが大好きでいっちょ書いてみるか」という中学生マインドからは一歩も二歩も進んだ秀逸なシナリオが堪能できます。シナリオは傑作『ゾディアック』を書いたジェームズ・ヴァンダービルト。全編に漂うユーモアや伏線回収の上手さなどは近年のアクション映画の中ではかなり上位に来る丁寧さです。

そして、ボクはこの作品のあるキャラクターに強烈に感動したので、それだけでもこの映画が大好きになりました。


<以下ネタバレ>


この作品。実は裏の主人公とも言える人物がいます。それは主人公の娘エミリー。

このエミリーは11歳という子供。子供が活躍する映画はどんな映画でも大好きになってしまうクセのあるボクなのですが、それを抜きにしてもこの映画のエミリーの存在と役回りの斬新さには驚かされました。

エミリーはこの手のプロットの基本的な役回りとして登場する「主人公の大切な人物」。つまり主人公の行動するための動機ですね。

序盤では絵に描いたようなテンプレ通りの役回りとして描かれるエミリー。実は政府マニアで、ホワイトハウスに関してはツアーで回る人々の中でも飛び抜けて詳しく、ガイドのあんちゃん(こいつも実は何気に美味しい、ダイ・ハードでいうところのアーガイルだ)もタジタジになってしまう。このあたり、主人公が「正直に言ってくれ。学校でいじめられてないか?」と心配になるあたりのジョークも面白い。このホワイトハウスのマニアでガイドと一緒にホワイトハウスに関しての情報を逐一観客に提示していくあたりの捌き方も、基本中の基本とはいえ最近の作品がおざなりにしている部分なので大変好感がもてます。そして、なにより驚かされるのは、実はこのテンプレとも言えるエミリーの扱いが、後半での活躍に対してのミスディレクションになっていることです。

誰もがエミリーはすぐに人質になって「お父さん……シクシク」と怯えるだけの、いうなれば「足かせ」だと思い込まされます。

ところがこのエミリー、ホワイトハウス武装集団によって占拠されるくだりで、なんとお手洗いに言っていて難を逃れるんですよ。もちろん始祖である『ダイ・ハード』でマックレーンが難を逃れる状況と全く一緒。ここらあたりでピンときました。

実はこの映画の主人公はエミリーなんじゃないかと。

基本的には主人公の父親ジョンと、大統領であるジェイミー・フォックスとのバディ&ダイ・ハード部分がメインストーリーなんですが、実は大統領とエイミーも序盤で邂逅し、お互いを精神的に認め合っている事で、離れていても実は精神的なつながりは主人公よりも強いんですよ。それは終盤に、人質になったエミリーが当然頭に銃を突きつけられ、大統領は核ミサイル発射システムの起動を強要されるシーンで見事に観客に示されます。まず、エミリーが人質になった時に、主人公のジョンよりも先に大統領が敵に投降することからも明らか。
そして、銃をつきつけられた11歳の娘に、「犯人の要求を飲むことは何百万人の人の命を奪うことになる。だからそれはできない。分かってくれるね」と毅然と言い放つんですよ。しかも、それを受けたエミリーは涙を流しながらも頷くんです!
年齢も性別も超えた「絆」がグっと胸を打つ。

正直全体的に見るとエメリッヒの演出がユルいせいで、完成度(到達度)はイマイチな作品です。でも、このシーンがある上に、ダメ押しのようにさらに素晴らしいエミリーの活躍が終盤に控えているので、ボクはこの映画を傑作と言いたい。

ホワイトハウス空爆が発令され、ジェット機が迫る中、主人公はラスボスとテンプレの殴り合いをする中、エミリーは逃げろと言われたのに(逃げられるのに!)大統領旗を持って広場に走り出て、ジェット機空爆を中止するようにアピールするんですよ。もうね、これはヤラれました。はっきりいって感動しましたよ。しかも、ジェット機パイロットが命令を振りきって「空爆はできない!」と中止するんですからね。

これですよこれ!!

ボクこういうの大好きなんです。

主人公を演じるチャニング・テイタムは今年何本日本で出演作品が公開されているんだという、相手不在のモテ期を謳歌している状態ですが、この作品では製作総指揮にも名前を連ねていることからも分かるように、「オレ様映画」に決してしていない点が評価できますね。むしろ、役回りとしては損な役回りですよ、あの主人公は。その分周りのキャラクターたちが右往左往して得な役回りになっているシナリオをキチンと通しているのは大変評価できると思います。

まあ、究極の「就活映画」として結実する爽やかすぎるラストも大好きですけどね。「よかったじゃん!」と思わず微笑んでしまいます。

ともあれ、エメリッヒが監督していなければという引っかかりはあれど、エミリーと大統領のバディ映画として大変評価できる傑作だと思います。