男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

シネスイチ板橋プログラム29『幸せへのキセキ』★★★1/2

心が洗われるような幸福感を味わえる傑作

実は試写会に当たっていたのですが行けずじまいで、結局映画館ではそのまま観そびれていた作品です。キャメロン・クロウの久しぶりの作品ですし、題材も好みっぽかったのでブルーレイで観てみました。

これがもう大ホームラン。

個人的にたまらなく大好きな映画でした。

原題は『We Bought a Zoo』で、本編でもセリフで出てくるように、「動物園買っちゃった!」という実に面白いタイトルです。ですが、邦題は残念ながら「幸せ」路線でまとめられてしまって、よくわからないタイトルになってしまいました。実際に観てみるとあながち間違っていもいない邦題なのですが、「軌跡」をわざわざカタカナにして一工夫みたいな悪あがきは惨め。

でも、いいです。本編が素晴らしいから。

もともとキャメロン・クロウの語り口が好きなのですが、この作品でもストレートなぐらい彼の絶妙な語り口がうまくいっていて、ストーリーはある意味類型的な物にすぎないところをグイグイと魅せてくれます。

それはマット・デイモンスカーレット・ヨハンソンなどのキャストのアンサンブルであったり、逆光を効果的に使った輝かしい撮影をみせてくれるロドリゴ・プリエトだったり(彼は『アルゴ』でもいい仕事していましたね)、奇をてらっていないように見えて要所要所の一工夫で「お」っと思わせてくれるシナリオだったりします。

そして、何よりも素晴らしいのはアイスランドシガー・ロスというグループのヨンシーによるサントラ(既成曲も使用)! とにかく全編にみずみずしいまでの幸福感を充満させることに成功しています。美しいロケーションによる撮影と相まって、観ているだけで幸せという贅沢な効果を生み出しています。


キャメロン・クロウの演出としては、中盤でマット・デイモンが先立たれた奥さんとの思い出の写真をマックのiPhotoで見るシーンが出色。スチルをクリックして見ているのだと観客に思わせておいて、突然白黒の奥さんが瞬きをするんですよ! あの映画でしか味わえない珠玉の恍惚。その瞬間、胸にグっとこみ上げて、この映画は僕の中でとても重要な作品にランクアップ。ああいったシンプルなアイデアで最大限の効果をあげる演出はそうそうお目にかかれない代物です。しかも、マックで見ているのでそこから動画になっているという理屈もあるわけで、そういった裏付けも含めてキャメロン・クロウやるなあと拍手しました。そこでかかる曲もまた涙腺結界もののいい曲なんですよ。


加えてキャメロン・クロウは女性を撮るのが単純に上手い。非常に魅力的に写してくれます。

エル・ファニングの初登場カット。ドアに貼り付けているネオンの照り返しによる幻想的なほど美しいショット。こういったカットを撮れるかどうかがJ・J・エイブラムスとの差なんだろうね。


スカーレット・ヨハンソンも地に足のついた飼育員を魅力的に演じており、ただでさえ華々しい魅力を放っているのに、それを物語から浮かないように造作しているのも地味にいい仕事です。


作品の中では既に亡くなっているという設定の奥さん。演じているのがステファニー・ショスタクという女優さんで、彼女がちょっとしか出番がないのに大変美しい。そりゃ忘れられないよねという説得力がある。しかも、満を持して登場する仕掛けの巧みさも唸る。『アイアンマン3』に出ているそうなので期待したいですね。


ホント油断していると突然こういう傑作が現れるから驚かされますし、大変うれしいことです。


それにしても、冒頭の独裁者へのインタビューには笑った。「好きな映画は?」という突然の質問に、独裁者が挙げたタイトル! しかも「1と2で悩む」というやたらとリアル。


邦題で敬遠している方は、ぜひまっさらな気持ちで観て欲しいですね。『動物園買っちゃった!』と脳内変換して。


久しぶりにこちらも観直したくなりました。