男たち、野獣の輝き

旧映画ブログです。

Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

シネスイチ板橋プログラム5『西部開拓史』スマイルボックス版★★★


西部開拓史 [Blu-ray]
西部開拓史 [Blu-ray]
posted with amazlet at 12.07.05
ワーナー・ホーム・ビデオ (2008-10-08)
売り上げランキング: 65287

ホームシアターを作った(作りたい)人間は恐らく全員が「映画館での映画鑑賞」=「大画面での映画鑑賞」に対して大なり小なり憧憬を持って映画に接していると思います。もちろんテレビで放送されているアニメを巨大な画面で観てみたい=映画館で上映されることを前提としていない作品をあえて大画面で観たいという人間もいるでしょうが。

大画面の歴史について詳しく書くのは避けますが、1950年代に「テレビ」がアメリカ全土に普及し始めてからが、大画面を意識的にシステムに取り入れていった時代になります。つまり画面のアスペクトの変化がそれ。

まずスタンダードのアスペクトは1:1.33。これは昔の(おお……)テレビの画面サイズがそのまま踏襲しています。4:3ってやつ。

このアスペクトをテレビが採用したので、映画ではそれを横に広げる事で対抗しました。

代表的なものは、シネマスコープ=1:2.35とビスタビジョン=1:1.85。

これが現在の映画のスタンダードになって残っていますね。その呼称をそのまま使って「シネスコサイズ」「ビスタサイズ」と呼ばれています。もちろんこのサイズにアメリカとヨーロッパで違っていたり、色々と細かくあるんですが、まあ大体この二つです。

ところが、現在は無くなってしまった規格というのも数多くあって、まず幅70ミリのフィルムを使った「70mm」これは基本的なアスペクトが1:2.2ぐらいとされています。そこにパナビジョンなりのアナモレンズ(グシャっと圧縮するやつ)を使って撮影された『ベン・ハー』などは1:2.75というシネスコよりもさらに横長なアスペクトになっています。

現在ではIMAXが『ダークナイト』の成功で一躍大画面復権とでもいうべき頑張りを見せています。こちらはアスペクト自体はスタンダードであったりビスタであったりシネスコであったりするのですが、IMAXでのオリジナルはほぼ正方形のスタンダードサイズと言っていいでしょう。まあ、日本では現在フィルムIMAXを上映できる劇場は無いのですが……

そして、現在無くなってしまった大画面規格の中でも有名なのが「シネラマ」ですね。言葉やロゴだけは有名ですが作品数はそれほど多くはありません。理由は撮影が大変だからw

これは35ミリフィルムを使うカメラを三台横並びにして撮影し、三台の映写機で湾曲したスクリーンに上映するという豪快極まるシステム。

この湾曲したスクリーン(カーヴドスクリーンと言われる)が近年ホームシアターでも注目されているのはご承知の通り。アナモレンズを使って映写し、家庭内でも湾曲したスクリーンに上映する事によって、さらに擬似劇場感覚を味わおうという事です。もともとレンズってのは球形をしているので湾曲したスクリーンとは相性もいいようです。

今回選んだプログラムは、このシネラマシステムで撮影された代表的な作品『西部開拓史』

さすがに代表的というだけあって、ブルーレイにもシネラマについての特典がてんこ盛り。そして、なによりも衝撃的なのは、湾曲したスクリーンへ上映した映像を擬似的に再現した「スマイルボックス」と銘打った本編。これが特典ディスクとして丸々収録されているのです。

以前からご覧になった方の記事を読むたびに、「これは観てみたい!」と強く思っていました。映画自体は正直あまり興味を惹かれていなかったのですが、この仕様だけでも観る動機付けには充分。ホームシアターを持ったなら一度は観ておきたい作品です。


ダークナイトIMAXパートを超えたと言っても過言ではないウルトラ解像度


冗談みたいに湾曲している画像

アメリカに旅行に行った時に、シネラマドームと銘打った劇場へ行ったのですが、本当にこれぐらい湾曲しているので驚きました。映写機を三台ただ単に横に並べるのではなく、正面と左右で角度をつけて映写するので、視野角がいっぱいに画面で覆われるわけですね。

我が家のシネスコスクリーンでは逆に湾曲した端の部分が切れてしまうので、16:9のモードへ切り替えなければいけなかったのが本末転倒。ただし、一旦上映し始めると、劇場の後方部分の席に座ったような感覚で楽しめました。

そして、何よりも冒頭の空撮カットの異様な高解像度にブチのめされます。恐らくこれを本当のシネラマシアターで観たら、本気でアトラクションとして楽しめます。実際本編でもそういうアトラクション風な映像やシーンが多数あるのは明らかに意識的なものでしょう。水面や森、山脈といった自然描写においてその空気感の再現は圧巻といえます。


前半の見せ場である川下りでのアトラクションショット

ホームシアターですらド迫力。

アメリカでIMAXが受けている理由もこの感覚を再現しようとしているからなんでしょうね。まあ、現在の映画でこういったアトラクション的な映像は逆に本編に溶けこませるのが難しいと思いますけど。


気味が悪いぐらい生々しい自然描写

同時に3本のフィルムが回っているわけで、その一本一本を2Kでマスタリングしているそうです。つまり画面全体では6Kマスタリングという事になりますね。4Kマスタリングが最近のトレンドと言われているのに、6Kなんてマスターだもんだから、とにかく画面の密度が濃い。何気ない水面のショットなどでも水の「本物感」が凄まじいんです。


西部劇のお約束が続々登場する

アトラクション的な志向は本編にも及んでいます。制作された1962年と言えば西部劇が円熟に到達して、ハリウッドではそろそろ陰りが見え始める時期です。なので過去の西部劇を再現しているようなシーンも多く登場します。

インディアンによる襲撃シーンなんかもシネラマの画面をド迫力に使って、まさに体感系のアクションシークエンスになっています。


ヤキマ・カヌートばりの列車アクション

ハリウッドらしく、普通に撮影するだけでも大変そうな機材なのに、キチンとクライマックスで大アクションを繰り広げてそれを様々なアングルで撮影しています。スクリーン・プロセスなども使ってバレバレなカットもありますが、ライブショットの迫力は普通じゃありません。


バッファローを実際に暴走させている狂った俯瞰ショット

その最たるものがインディアンがバッファローを暴走させて鉄道を襲撃させるシーン。丘の彼方にまで居並ぶインディアンたちのショットも相当なものがありますが、丘を乗り越えて黒い絨毯のようにバッファローの群れが攻め込んでくるシーンの迫力は圧巻。勿論全部本物のライブショットのみで構成されていて、あらゆる角度からそれを捉えています。おそらくこんな暴走は何度も出来ワケがないので、何台のシネラマカメラを用意したのかを考えると、他人事ながら目眩すら覚えます。


川を渡る馬車が木漏れ日の中を進む美しいショット

中盤のジョン・フォードが演出を担当した南北戦争のシークエンスは、短いながらも戦闘シーンの映像で目を見張るカットが続出します。さすがと言えるでしょう。

豪華なキャストも見所で、基本的にはある一家の年代記のような作りなのに脇役たちがやたらと豪華なんですね。まだ脇役専門だったころのリー・ヴァン・クリーフも出ていますし、お気に入りのカール・マルデンヘンリー・ハサウェイ監督のパートで登場します。ジョン・フォードのパートではチョイ役ですがジョン・ウェインもちゃんと出てきます。一番驚いたのが、『裏窓』で一番の儲け役である口うるさい看護婦を演じていたセリマ・リッター。中盤で登場し、相変わらず口の粗い女性を演じていて笑いました。悪党として登場するがお約束のイーライ・ウォラックで、ちゃんと「アディオス!」って言っているのも笑える。その手下にハリー・ディーン・スタントンがいたりするし。

大好きなヘンリー・フォンダも珍しく薄汚い格好で登場しています。まあ、声と歩き方ですぐに分かりますけどね。


この映画は音楽も大変素晴らしく、有名な旋律の歌もありますし、何よりアルフレッド・ニューマンの燃えるメインタイトルが最高です。

How The West Was Won: Original Motion Picture Soundtrack

Rhino (2002-07-22)
売り上げランキング: 93124