男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『コクリコ坂から』★★★1/2

美味し”そう”な料理シーン

劇場へは行かなかったのですが、やっとブルーレイが発売されたので観ました。ほとんど一年経ってのソフト化は最近では珍しい。

東京オリンピックが開催される直前の横浜を舞台にした青春映画。事前情報はほぼこれだけ。実は予告編もまともに観ていないという状態。

結論から言うと、久々にジブリの映画では「病みつき度」の高い映画になりそうな予感です。シンプルで力強く、明るくて楽しい。そしてなによりも生活感がたっぷり充満していて、ボクの好みにぴったりでした。

ストーリーは単純明快で、高校2年生のヒロイン海ちゃんが一年先輩の男子俊と恋に落ちるだけ。そこにクラブハウスの取り壊しを阻止しようとするエピソードが絡むぐらい。そこに適度に「お」と思うようなフックの効いたストーリー上のスパイスが要所々々に振りまかれていて、91分というタイトな上映時間とあいまって観ていてまったくストレスを感じさせない。学生運動が盛んに行われていた時代らしい、前時代的な古臭いセリフ回しは「高二病」とでもいっていい若さの表現としてそれなりに機能しているが、まあそこは脚本の宮崎駿のアクがちょっと残っていて苦いぐらいだ。

何よりこの映画が素敵なのはヒロイン海ちゃんの生活感あふれる料理シーン。フライパンいっぱいのハムエッグ、お釜に一晩浸されていたお米を炊くために中を確かめて火をマッチで点ける仕草、そしてキャベツの千切り。キャラクターの感情の変化を描く常套手段ではあるのですが、冒頭の準備シーンが中盤でもう一度繰り返され、その時の心理がまったく違っているのをわかりやすく表現しています。

わかりやすくと言えば、海ちゃんが恋に落ちた感情表現を表すシーンも出色。校舎の屋根から飛び降りた俊と出会った海が、毎朝ポールに旗を揚げるシーンで、その俊の姿が揚がる旗のカットにディゾルブされ、その視点で勢い良く海の顔へカメラが落ちてくる。まさに恋に落ちているわけですが、他にも映画を通してみた時に様々な主題があそこに収斂されており、たった2カットでそれを的確にシンプルに演出していたのは感心しました。

<以下ネタバレ>


そして、映画のハイライトはやはり海の「告白シーン」でしょう。

全編を通して感情表現を調理や仕草や微妙な芝居で表現してきた中で、満を持したように海が電車のヘッドライトを背に受けて感情を相手に伝えるシーンはかなり胸にグっときました。あれぞ青春。そして、ああいう形で相手にはっきりと自分の気持を伝えられたかどうかがその後の人生に大きく影響を与えるんだよなと、ひどく感動してしまうシーンでした。はっきりそれに応える俊の男らしさも実に素晴らしい。やっぱり愛情はすべての障害を乗り越える力をもってこそ光るのだ。

・・・

父親をめぐる過去の絡み方も衒いなく率直に描かれており、マクガフィンとなる写真が撮影されるシーンではまたまた胸にこみ上げるものがありましたよ。そこからサラっとエンディングに突入するのもこの映画のスタイルに適していていい。なにより主題歌が素晴らしすぎて感動する。

手島葵の囁くような静かな歌唱が絶妙なタッチで映画に幕を下ろす。

さよならの夏~コクリコ坂から~ - コクリコ坂から歌集
さよならの夏~コクリコ坂から~ - コクリコ坂から歌集

まるでこの映画のために作られたような歌だけど、カヴァーになるそうです。

森山良子さんの唄うオリジナル。森山良子っていい歌唄いまくりだな。