母べえ
山田洋次監督の本性が垣間見える
『男はつらいよ』のイメージはすでに払拭されて、藤沢周平三部作ですっかり巨匠の仲間入りを果たしている山田洋次監督。三部作ではどっしりとした作風と、視聴後の気持ちよさが大いに受け入れられましたが、本質的には結構社会派というかシビアな人間観察に基づくリアリティ満点の描写も特性だと個人的に思っています。『男はつらいよ』末期の作品なんて、テレビで観たときCM入りのテロップが出るまで気づかなかったぐらいです。「ええ!? 寅さんだったのコレ?」
で、
この野上照代さん原作の『母べえ』なんですが、予告やパッケージのイメージなんかで、「太平洋戦争中を舞台にした辛いことはいっぱいあるけど、けなげに活きていく一家のお話」なんだろうなと思って観始めました。
ところが、表面上はその通りの映画なんですが、当たり前の話「戦中」が舞台になっているだけに、イヤになるほどろくな事が起きない。どんどん不穏な空気になってくる。前半のユーモラスな部分もそれを強調するためのタメであることに後半気づかされる。などなど、一筋縄ではいかない山田節が炸裂した作品になっていました。
終盤の「そりゃそうだよ……」と胸に来る台詞など、「良い気分」にさせる気が微塵もない監督の姿勢に潔さすら感じます。まあ、戦争中の話を語る上でそんな気分にさせるのもおかしな話とは思うんですけどね。
基本的に母べえたち「野上家」を舞台の中心に据えて、ところどころいろいろな場所が出てくる構成。その際に玄関先から見える路地の描写を通して時間の経過が感じられる演出なのですが、戦後のシークエンスになった途端焼け野原になっているショットはなかなか衝撃的な部分です。
父べえの教え子「山ちゃん」を演じる浅野忠信がなかなか良かったです。
ご飯が美味しそうなのも好印象。
HDクオリティとしてはあまり誉められたものではなく、邦画はもっとがんばって欲しいもんです。