男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

狼たちの午後 [Blu-ray]

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満を持して吼えるパチーノが最高

子どもの頃に月曜ロードショーで観て以来なので、ノーカットは初めてです。2時間4分あるのですが、個人的にはちょっと長く感じます。でも、あの暑苦しい午後(原題)を共有するという意味ではあのちょっとしたダラダラ感は演出の一部という気もします。シドニー・ルメット監督なので相変わらず細かく普通の感じじゃないのがいいです。唐突にカットインで始まって、ラストもブツっと終わるし、BGMも一切無い。子どもの頃は意識していなかったけどクールだよなあ。

<一応ネタバレあります>

一番印象深かったのは、ラストでサルが撃たれて(撃ってるのランス・ヘンリクセンなんですけど、無茶苦茶若い!)、ソニーが捕まるシーン。子どもの頃の記憶ではその時の切ないパチーノの顔が印象に残っているんですが、あそこって、今まで一緒にいて「ストックホルム症候群」に陥っていた人質の銀行員の人たちが、全くソニーの事を振り返らずに行ってしまうのが切ないんですね。
結局彼女たちにしてみたら、解放されれば安全で平和な日々が戻ってくる訳で。銀行強盗にならざるを得なかったソニーたちと、彼らの間に横たわる大きな溝が非常に切ない。
映画全体のトーンも、前半は完全に喜劇として作劇されていて、大笑いしながら自分も籠城しているような気分で感情移入させており。後半はだんだんとシリアスなトーンに移っていく事であの切なさが共有できる訳ですね。

<ネタバレ終わり>

ただ、

やはりアル・パチーノの映画を観るにさいして一番の期待は

今回はどんな風にパチーノが切れるか

に尽きるんですけどね。

で、

この作品でも当然クライマックスに満を持してパチーノがやってくれます!

人の話を全く聞かずに自分の事ばっかりまくし立てる、この世でもっとも忌み嫌われる女性が奥さんなんですけど、パチーノ演じるソニーが彼女と電話で話すくだりがソレ。
ソニーは彼女にうんざりして、クリス・サランドン演じるゲイの彼の性転換手術の費用を捻出するのが強盗の目的だったんですね。でも、根が優しいソニーは(このキャラクター描写は大変共感できます)、その奥さんに対してもちゃんと電話でお別れを言おうとするわけです。
最初こそ延々延々延々続く奥さんの自分勝手な嘆きを渋々聴いていたんですが、観客の殺意が絶頂を迎える最高のタイミングでいよいよパチーノがブチ切れ!!

「Shut Up!! Shut The Fuck Up!!!!!」

を電話に向かって何度も叫ぶパチーノに観客の感情移入はマックスですよ。
驚愕なのはそれでもまったく話をやめず、パチーノの話を結局聞かない奥さん。あれは凄すぎます。

そして、この映画の凄いところは、そのまま同じシーンで、今度は「お母さん」にも電話をするんです。
お母さんの過干渉、過保護(暴力も)がソニーの生き方を歪ませていると匂わせているんですが、ここではお母さんに逆らえないソニーの切なすぎる優しさがパチーノ名演と相まって泣けます。

バイプレイヤーもいい味出しまくっている非常に風変わりな映画ですけど、やっぱりパチーノが切れるだけでこうまで面白さがはね上がるのかと驚きました。