男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

ボーン・アルティメイタム [DVD]

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比喩ではなく映像表現が交響楽に匹敵した瞬間

ポール・グリーングラス監督の最新作は、『ユナイテッド93』で自分の出自でもあるドキュメンタリー作家としてのスタイルを娯楽作品に貪欲に取り込むこむ方法に納得できた上での、自身と誇りに満ち満ちた傑作になっています。

「映画は音楽が最も近い芸術で、中でも交響楽が一番それに近い」

黒澤明がそういった事を以前に言っているのですが、ボクはこれに非常に共感できます。自分が映画を観るときの脳の快感回路の動きは交響曲を聴いている時のそれと非常に近いからです。

ただ、交響曲を聴いているときと比べると若干それに濁りが生じるときがあり、それは例えばストーリーであったり余計な芝居だったりするわけです。

今回ポール・グリーングラスは前作『ボーン・スプレマシー』の成功貯金のおかげで、思う存分余計なものをそぎ落として、その交響楽的映像表現に磨きをかけてきました。

すべての楽器パートともいえる、脚本、撮影、音響、そして音楽と神がかった編集。それらが渾然一体となって炸裂する交響楽的エクスタシーはかなりの脳内物質を分泌させてくれます。

ベートーヴェン交響曲で言うと第五番に匹敵するほどの破壊力。あの同じフレーズを延々延々繰り返しながらも決して退屈しないどころかありとあらゆる技法で興奮を高めて続ける魔法がこの映画にも宿っています。

特に中盤のタンジールで展開されるチェイス・シークエンスは超絶で、様々なアクション映画が物量に頼ることで到達しようとした次元に、前述の技術パートの研磨だけで到達している傑作アクションと断言できます。
一人の追跡者と一人の女性、そしてそれを助けようとする主人公とそれを追う警官隊、たったそれだけのパーツだけを駆使して恐ろしいほどの緊迫感と興奮を観客に体験させる技術は必見必至。
個人的に最も興奮がピークに達するのは、バイクでカフェにたどり着いたボーンがまったく逡巡せずに(ボーンはすべての行動に迷いがない)突っ走りはじめるシーン。音楽が一気に転調してボーン・ストリングスを刻み始め、ボーンの視線であるショットが無人のテーブル→分解されて捨てられた携帯の順でインサートされる。あそこのイチイチそれらを視認する芝居をしないマット・デイモンとそれに呼応する編集が素晴らしくて、視線なんか動かさなくても訓練されていれば視界に入る情報は脳内で一瞬に処理される事を余計な説明を一切省いて表現。あそこは激燃えです。