盗まれた街 (ハヤカワ文庫SF フ 2-2)
- 作者: ジャック・フィニイ,ハヤカワ・デザイン,福島正実
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/09/20
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映画のほうは3本とも異様に好きなんですが、原作は読んでいませんでした。
<以下ネタバレ>
原作は舞台設定やキャラクター造形、ストーリーなどかなりドン・シーゲル監督の最初の映画化作品と概ね一緒。ただ、一番違うのはラスト。これが一番ある意味驚きました。
映画化作品ではドン・シーゲル版を除いてすべてアン・ハッピーエンド。宇宙莢による侵略はとどめることができないというクラ〜イ落ちで終わり。ドン・シーゲル版にしても当初はそういう落ちだったそうで、ラストのハッピーエンドが文字通り取って付けた様なのは後から追加撮影したからだそうです。
原作を読んでいても当然そういう落ちになるだろうと思っていて読んでいたし、実際最後の数ページまでそういう落ちに突き進んでいくのです。なので、あの突然のハッピーエンド(ハッピーかどうかは微妙ではありますが)には何よりビックリしました。映画の暗い落ちが刷り込まれているとはいっても、そのハッピーエンドぶりはなかなか悪くなくて、主人公たちの頑張りが報いられるのはカタルシスがあります。
原作で一番怖かったのは、子供の頃から良くしてくれた図書館の女史の正体を看破するシークエンス。持ってきてもらった新聞の一番重要なところを切り抜いてきたのを、主人公が単刀直入に切り出して、笑顔が突然なくなって取り繕わなくなる。まさに化けの皮がはがれると言う印象ですが、あそこの血が凍るような感覚は非常に怖かったです。やっぱりこの物語の本質はあそこなんだろうなあ。
ドン・シーゲル監督の『ボディ・スナッチャー/恐怖の街 [DVD]』は実に忠実に原作を脚色しているのに加えて、原作では意外にサスペンスとしての機能を果たしていない重要なモチーフを大きく取り上げていることが素晴らしいです。つまり『眠ってはいけない』。この人間の生理にうったえる仕掛けは、映画化される際に必ず一番重要なモチーフになっています。今度の『インベーション』ではコピーになっているぐらい。これがどうしてこれだけ印象深いモチーフになっているかというのは、すべてこの最初の映画化作品が原作から変更した重要な部分が肝です。原作では主人公のガールフレンドは最後まで一生懸命主人公と頑張って眠りそうになりながらも助かりますが、この映画版ではいよいよあと少しというところで、主人公が目をはなしてしまったために乗っ取られてしまうんですよ! 主人公がガールフレンドにキスをしたときに、それを知ってしまう場面が出色で、演じたケヴィン・マッカーシーのクローズアップとヒロインがゆっくりと目を見開くクローズアップのカットバックときたら! あの恐怖と絶望感は凄まじいです。
加えて、周りの人がいつのまにか別の人間に変わっているというこの物語の一番の肝も、それまでは冷静だったのに突然集団になって主人公たちを追ってくるという描写が演出と共に際立っています。丘の上からの主人公の視線によるロング・ショットに、町の住人がワラワラ湧き出して追ってくるあたりは総毛立つほど怖いです。
ジワジワとサスペンスを盛り上げていくテクニックといい、場面転換の処理や登場人物の心情を的確に表現したカメラワークや照明などなど、ドン・シーゲルの手腕が恐ろしいほど発揮されている傑作です。
若き日のサム・ペキンパーも参加していると言う脚本も、原作を的確にまとめた上で、上記のモチーフを際立たせたり、ヒロインが乗っ取られると言う凄い変更をやってのけたあたりは素晴らしいと言えるでしょう。もっとも、プログラム・ビクチャーとして作られた訳ですから、そういう刺激的な方向への脚色は本意ではなかったかもしれませんけどね。何にしろ強烈な恐怖を観客に植え付けたことは確かです。
そしていよいよフィリップ・カウフマンのリメイクが登場。この映画では例の『眠ってはいけない』モチーフを更に強調するように、乗っ取られたオリジナルの身体が灰になってしまうという強烈過ぎる描写が炸裂。
さらに宇宙莢が寄生虫のようにジワジワと植物などから拡がっていく緻密な描写をねちっこく、しかも極め付けにリアルなイフェクトで描いたのが輪をかけて観客を恐怖のどん底へ突き落としてくれます。
フィリップ・カウフマンはSFとしての要素ではなくホラーとしての要素を徹底的に掘り下げるアプローチに徹していて、それの極め付けがラストなんですが、観た後はしばらくは立ち直れないこと請け合い。ボクはアレ以上後味の悪い映画を観たことがありません。
そして、この映画で一番重要なのは宇宙莢に乗っ取られた人間が、正常な人間を見つけたときの行動を発明したことです。
指差して恐ろしい大口開けて奇声を発する
この発明だけで、この映画の存在理由は充分。
静かに追ってくるオリジナルの描写もいいですが、このダイレクトな戦慄は他にたとえようがないんですよね。
アベル・フェラーラ監督が突然手がけた再リメイクは、シネスコを見事に使った撮影や宇宙莢のさらにグロテスクになった描写など評価すべき点は多く、ガブリエル・アンウォーが演じる若いヒロインを主人公にしたり、舞台を軍の施設に変更など、当時の流行にしたがっているとはいえ結構効果的に作用していました。
なんと言ってもヒロインが主人公になっていると言うのにあわや乗っ取られそうになるというあたりは非常にサスペンスフルです。
もっとも、一番の目玉は前回のフィリップ・カウフマンの発明を受け継いだ例の奇声を、メグ・ティリーがいよいよ満を持して披露する場面につきます。あそこはヤバい。
ってな訳で、20日に公開になる『インベーション』はどういう仕上がりになっているのでしょうか。楽しみです。
Black Jack―The best 13stories by Osamu Tezuka (12) (秋田文庫)
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あと、テレビの『ケンちゃんチャコちゃん』でも同様のプロットがあるようで、家の奥さんのトラウマになっています。