男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

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二回も劇場に行ったのですが、色んな事情で観られなかったので、待望の鑑賞です。

ボクの大好きな”死と隣り合わせ感”*1満点の革新的傑作でした。

<以下全部ネタバレ>


アルフォンソ・キュアロン監督の映画は『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』しか観ていなくて、それも途中で猛烈に眠くなってしまったという、かなりの印象の悪さでした。

なのに、この映画ときたら最近では滅多にお目にかかれない才気爆発の強烈な傑作で、監督のやりたいことがことごとく成功している素晴らしい映画でした。

先にも書いたように、ボクは”死と隣り合わせ感”にあふれた映画が大好きで、つまりそれはリアリティに対するアプローチがずば抜けて巧くいっている必要があり、それゆえに成功した時の没入感が半端ではないということになります。ボクが映画に求める効果でもっとも大切だと思っているのが没入感なので、この映画では半端じゃない緊張感がそれを促しています。

そして、その緊張感を生み出している要因のひとつである、例の”長回し”による空前絶後の撮影がヤバ過ぎます。

主に4箇所のシークエンスで長回しによるアプローチがとられているんですが、そのどれもがドキュメンタリー・タッチと言える臨場感を生み出すことに成功しています。メイキングでも言及されていましたが、近未来のDVカメラがドキュメンタリーを撮影している雰囲気だそうです。
中でも車の中でカメラを動かしながら、平和な雰囲気から一転して暴徒に襲われ→知名度の高い女優ジュリアン・ムーアがまさかの銃撃=死→真横に追ってきたバイクを蹴り飛ばしてクラッシュ→延々走ると対向車線からパトカー→それが追ってきて停車→警官に尋問→射殺→ここまでまさかの車内からの1ショット処理!!! これだけでも信じられないのに、クライブ・オーエンが車外へ出るとカメラもそれを追って出るや走り去る車を写した後に射殺された警官たちの死体へパン!!

顎が外れるほどの衝撃。

しかも、観ている最中「すすすげええ何時まで1カット!!??」という衝撃と平行して、画面内での出来事が生み出す臨場感に呑まれて肩張りっぱなしの緊張感が凄まじい。こういう体験は最近では『ユナイテッド93』以来でした。

何気ないけど赤ちゃんの出産シーンの1ショット処理も尋常ではなく、ここではメイキングでもあったのですがCGIによる技術的側面がまったく違和感なく画面に溶け込んでいるのが驚愕でした。ホントに産んでいるわけがないんですが、そうとしか思えない臨場感。

そして、クライマックスの市街戦で頂点に達した1ショット処理は、飛び交う銃弾や砲撃音などの超絶サウンド・イフェクトとあいまって映画史に残るといっても過言ではない凄まじさでした。暗渠から市街戦の中をくぐり抜けつつ、敵に見つかってあわや死ぬ寸前まで追い詰められながら辛くも助かって、銃弾をかいくぐりながら砲撃される団地へ入って銃弾飛び交う中を必死の捜索という普通に撮影されればどれだけのカットが使われるか見当もつかないシーンをよもや1カットで処理するとは!(途中では返り血がレンズに付着してそのまま!)
しかも、それに因って産み出された臨場感はまさに他に類を見ないものでした。

さらに特筆なのは、テロリストたちの隠れ家の農家から逃げるシークエンスも悶絶モノで。逃げようとした車のエンジンがかからないから坂道を惰性で下っていくんですが、追っ手が走って追ってくるのをギリギリで何とか交しつつ、さらにエンジンをかけるためにクライブ・オーエンが押しがけをする場面は凄すぎ。あのハラハラ感はスタンダードな演出ですが、背後から追っ手が迫る緊張感が素晴らしくて、監督の演出力が並大抵ではないことを証明していました。

派手なシークエンス以外にも、荒廃した学校で野良鹿が廊下を走りさったりする何気ない場面や、ラストの下水道から汚れた海に出る場面などの情緒的なシーンもすべて監督の描くトータル・イメージが見事に好みでした。

子供が生まれないことで社会が停滞した近未来という設定を完璧に表現している美術や、終始イギリスならではの曇り空と色あせて絵画のように見えるエマニュエル・ベルツキの撮影も素晴らしく、HDクオリティで絶対に観たいと思える仕事でした。

日本では東宝東和が配給していますが、製作がユニバーサルなのでアメリカではHD-DVDでのみHDメディアが発売されているんですよねえ。日本での発売がどうなるか見当もつかないのですが、またHD-DVDにやっかいな援軍が現れたなあという感じです。

*1:シンドラーのリスト』『プライベート・ライアン』『ユナイテッド93』『硫黄島からの手紙』『宇宙戦争』『ゾンビ』などなど。