男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

アビエイター プレミアム・エディション [DVD]★★★

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スコセッシは子供の頃から大好きな監督ですが、『ギャング・オブ・ニューヨーク』を観た時に「おや?」っと思いました。以前から思ってはいたのですが、スコセッシは一般的な娯楽映画を作るセンス(誤解を招く言い方ですが)所謂スピルバーグ的な資質を持ち合わせていないと確信したのです。
作家性が充分発揮されていた10年ぐらい前までは、それこそスコセッシ節ともいうべき作風や演出が炸裂していたのですが、恐らく興行的な不安も含めて段々とエンターテインメント性の強い作品(大作も含む)を手がけるようになり、スコセッシ自身も気づいていなかった一般的なセンスの欠如がモロに露呈したよう感じたのです。
今回の『アビエイター』に関しても大作的な作風にしても、オスカー狙い的なシナリオにしても、どこかしら舌足らずなのにスコセッシ節的な部分も断片的にあらわれるという、簡単に言うと中途半端なのです。

「地獄の天使」撮影シークエンスでの大空中戦の縦横無尽なカメラワークにしても、CGI特有の不自然なカメラの動きを観客に意識させない努力を怠っているし*1ハワード・ヒューズの病状が悪化してからの幻覚的な映像表現もイマイチ分かり辛い。

もっとも、面白くないかと言われるとこれがまた別で、スコセッシに対する期待とは関係なく、ハワード・ヒューズ自体の素材が大変面白い事もあって、ゴージャスな時代背景の再現や第二次世界大戦の頃のアメリカの雰囲気も楽しいです。
また、恐らくこの映画の本質的なプロットである、ハワード・ヒューズ強迫性障害に関する部分はかなり面白くて(面白いと言うと失礼か?)、グイグイ引き込まれてしまいます。執拗に手を洗ったりちょっとした汚れが気になって仕方なくなったり、トイレのノブが握れなくなったり、同じ事を何度も何度も口走って止まらなくなったりと言う具合に、実は強迫性障害に関する部分が骨なのだと観ていると分かります。ディカの芝居も非常にその苦悩が観ている側に伝わる素晴らしいもので、特に顔面の微妙な使い方は特筆物でした。
加えて、キャサリン・ヘップバーンを演じるケイト・ブランシェットがかなり絶品で、あの独特の大声と口調を実に巧く真似しています。男性的な振る舞いも実に「らしい」。しかも、ただの真似に留まらず、ハワードの事を考えて見舞いにくるシーンなどの繊細な芝居には胸がグッときます。本当に上手い。
他にもエンターテインメントの見せ場として、飛行機の墜落事故のシークエンスは、事故に関しても周りの被害状況やコクピット内部のハワードの描写、必死の脱出に関する執拗な描写などなど、かなりの見応えがありました。キャノピーを押し上げようとしたら、凄く熱くて手が大やけど&絶叫や、背中でやっと押し上げたら当然気圧の関係で周りの炎が一気にハワードに押し寄せるなどの演出は最高でした。

と言う感じで、スコセッシに対しての思い入れを抜きにし、強迫性障害に関する病気の映画であることを念頭に置くとかなり楽しめることは確かです。

*1:元々スコセッシは流麗なカメラワークが売りの一つなだけに、それをCGIでも好き放題しているだけなんでしょうが、ただの不自然になっている。