男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

Mr.インクレディブル [DVD]

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傑作「アイアン・ジャイアントasin:B0002GD4K0)」の監督ブラッド・バードの最新作。

当たり前のようにシネスコなのが嬉しくなる。予告編でも「女王陛下の007」のテーマが抜群にかっこよく使われているように、スーパーヒーロー物を往年の007タッチで描いた快作に仕上がっています。セットのデザインやタッチまでキチンと再現しているのには恐れ入ります。

加えてブラッド・バード特有のアメリカのアニメに対して斜に構えた視点も健在で、メイキングでも本人が言っていた「訴訟問題は是非入れたかった」という感じで冒頭部分の描き方は秀逸。

その訴訟問題でヒーローの活動を禁止された主人公インクレディブルが、でかい身体を窮屈そうにして保険の仕事をしている姿は涙なくしては観られない切なさが素晴らしい。小型の自動車にこれ以上ないほどうな垂れて乗っている姿や、家に着いてもアイドリングしたままなかなか降りれない等のリアリティ満点の感情表現が凄いです。

ヒーローたちの人助けをする衝動が「本能」という設定なのも凄く説得力があって、アメコミのヒーローや日本の適当なヒーロー物が安直にアイデンティティ・クライシスに陥るのに歯がゆい思いをしていた人間として目から鱗が落ちました。

この映画のヒーローであるインクレディブル家族や長年の友人フロゾン*1が空を飛ぶ能力を持っていないのも従来にないヒーロー物のアクションを展開させてくれて面白いです。みながそれぞれ自分の特殊能力をキチンと有効活用するのもグッド。特に好きなのはインクレディブル夫人のイラスティ・ガールがゴムのように変幻自在の身体を使って、敵の基地に潜入するシークエンス。自動ドアに挟まれても身体を伸ばすのですが、どんどん挟まれて窮地に陥るも、それでもドンドン窮地を乗り切るのが笑えます。

他にも足が速いだけの息子ダッシュや透明能力とシールド能力を持つ娘ヴァイオレットなどがそれぞれヒーローとしての自覚を持ち始める活躍場面なども凄くいいです。

それもこれも前半部分の日常生活に埋没したヒーロー一家がリアリティ満点に描かれているからであって、それだけ前半部分は際立って大好きです。

ピクサー作品なので当然なのですが、CGによる映像表現はますます凄まじさを増しており、ジャングルの自然描写や現実の照明をキッチリと演出の領域で完璧に再現した処理、独自に開発された髪の毛と服の動きなどは凄まじい。そして、何よりも現実の空気を感じさせる乱反射の処理は効果抜群で、こういうタッチのセットで、そういうキャラが現実に動いているような錯覚を産んでいます。

さて、ここからが本題。

本編自体も大満足だったのですが、オススメは特典ディスクに収められている「お蔵入りになったアニメ」。インクレディブルもフロゾンも観たことがなかったという設定の、大爆笑必至の短編アニメ。かつての低予算で作られた最低のアメリカン・アニメを忠実に再現したソレはどこを取っても笑えます。フィルムの劣悪な傷や退色、例の画面は全然動かないのに口だけ実写を合成してまで拘るリップシンクパルプ・フィクションでブッチが観ていた気持ち悪いアニメを思い出そう)、手のかかるシーンは全て省略する適当な演出、度肝抜く知能の低いギャグ、意味不明に愛嬌を振りまく相棒のウサギ、橋を壊すことで車の運行が滞ることが国家の危機と断定する凄すぎる設定、最後に勝つのは民主主義と豪語するヒーロー、次回作のトウモロコシを模した敵などなど、狂ったような面白さが詰まった短編。加えて凄いのはこれにわざわざサミュエル・L・ジャクソンとグレイグ・T・ネルソンを呼んでインクレディブルとフロゾンの音声解説をつけさせている点です。この音声解説の面白さが更に強烈で、とにかく怒鳴り散らして自分の扱いの悪さや上記のご都合主義やアニメの欠点をことごとく喚くLと、それをなだめながらも自身をモデルにしたアニメに落胆を隠せないインクレディブルが素晴らしいです。オチの部分も含めて1秒残らず大爆笑! いやああ、これもちゃんとブラッド・バードたち本編のスタッフがキチンと作っているあたりや、Lのグンバツの仕事も含めて、こういうの作らせるとホント面白いなあと痛感しました。いや、ホントに面白いです。

*1:声のサミュエル・L・ジャクソンが抜群!例の口調で「Where!is!my!supersuits!!」は必聴。能力はホワイト・アルバム