男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

続・夕陽のガンマン 完全復刻版

子供の頃から何度も観ている映画ですが、観るたびにロング・バージョンになっています。

最初に観たのはゴールデン洋画劇場で放送された93分版。なんと今回の179分版と比べると殆ど半分です。ただ、ストーリーとしての印象は大して変わらないので、テレビ放送版でのカットがそれなりによかったのか、それともこの映画自体には3時間も要らないのか?

セルジオ・レオーネのいわゆるマカロニ三部作(イーストウッド三部作と呼ぶほうが妥当かも)、「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」「続・夕陽のガンマン」ですが、イーストウッドが主演と言う以外にはストーリー上の共通点はありません。もっとも、この「続・夕陽のガンマン」の終盤では満を持して「夕陽のガンマン」のポンチョ姿にイーストウッドがなるというサービス満点の展開もあるのですが。

そして、テーマもそれぞれ三部作で全く違うので、この単体で非常に優れた映画が続編のような扱いになっている邦題はなんともいやはやという感じです。もっとも、「夕陽のガンマン」と言うかっこよすぎる邦題は一作限りでは勿体無いと言う気もしますし、「良い奴、悪い奴、卑劣な奴」と言う原題も日本の商業ベースにのせるにはかなり現実的ではないですしね(こんなにセンスのいいタイトルもないと思いますが)。

「宝探し」と言う最もファンタジックなテーマで展開する本作では、前二作で主人公を演じたイーストウッドでは無愛想すぎるので、コメディリリーフとしてイーライ・ウォラック演じるトゥーコを加えています。このトゥーコのキャラを加えたことが、イラーイ・ウォラックの史上最高の芝居と相まってこの映画の面白さを異常なほど底上げしています。

「荒野の用心棒」と「夕陽のガンマン」の二部作は、原題がそれぞれ「一握りのドルのために」「もうちょっと多くのドルのために」(つくづくいいセンスだ)となっているように、殺伐とした雰囲気がその後マカロニ・ウエスタンとしての作風を決定付けましたが、この映画はそういう作風をレオーネ自身がかなり払拭し、イーストウッドとウォラックのコンビがお宝目当てに展開するロード・ムービーという趣向になっており、極めてユーモア満点になっているのが特徴でボクの大好きな点です。

「ミスター・ノー・ボディ」(監督はトニノ・バレリでレオーネは製作)とこの映画に観られるユーモアはレオーネのほかの作品にはあまり見られないのですが、もっとこういう雰囲気の映画も作って欲しかったと思いますね。

勿論お馴染みのエンニオ・モリコーネ狂ったようなテンションの音楽も最高なのですが、レオーネの使い方がまた素晴らしく、特にウォラックがにやりと笑ったりするところでかかり始める場面は鳥肌モノです。場面を盛り上げるためと言うよりも、キャラクターの感情が切り替わる契機がきっかけになっているのが最近の映画と違っていて大好きです。観ていて思わずニヤリとか喝采を送ってしまうような使い方が、かっこよすぎる音楽と合わせて素晴らしい。

今までは「善玉」となっているイーストウッドが実は全然いい奴に見えなかったのですが、見直すと細かく実は「善玉」である点がわかって興味深いです。実質的な主人公が「卑怯者」のウォラックなので、観客は感情移入している分「こいつのほうがよっぽど善玉」だろうと思ってしまうのですが、仕方なく見殺しにしてしまった相棒のショーティーには「ごめんな」と謝ったり、「悪玉」に寝返ったようにみせかけて、肝心なところではウォラックを助けにきたりします。クライマックスの対決でも、ちゃんと悪玉をやっつけてますし。ウォラックの銃からは弾を抜いていたので、実はイーストウッドは悪玉のリー・ヴァン・クリーフに専念することが出来る。ここでウォラックを殺すことも出来るのにまったくそんなことはしませんし、子供の頃一番疑問だったラストにウォラックをわざわざ首吊りにして可哀想な目に遭わせるのも、実は一番平和的な別れ方だったんだと思って胸が熱くなりました。ちゃんと分け前を残して行きますからね。イーストウッドの無愛想さを利用したシニカルな雰囲気が子供の頃は理解できなかったのかもしれないですね。対するウォラックが完璧な憎めないバカを好演しまくっているので、そちらへの感情移入が高すぎたのも原因の一つかもしれませんけどね。

それにしても、クライマックスの有名な三つ巴の対決は、一対一の対決にある「どっちが早いか勝負しようぜ、というやつだぜ」的な緊張感とは違って、「一人を倒すともう一人にやられる」と言う極めて論理的な緊張感を生み出していて白眉ですね。お馴染みのレオーネ・ショット(広角レンズで異常な大きさで前景の人物をなめて、遥か彼方の相手を捉えるなどのショット→股越し・銃に手を伸ばす手越し等)や、どんどんアップになっていくクローズショットの畳み掛けと、そこにかぶさるモリコーネの音楽ときて空前絶後の盛り上がり。何度でも観ちゃいますね。
悪玉をやっつけて、イーストウッドが歩きながら、帽子と銃を見事に墓穴に入った死体のところへ撃ちこんだりするのも大好きです。イーストウッドが悪玉を撃った後に、弾が出なくてオロオロするウォラックが、イーストウッドがハンマーを起こしたときに、次は自分だとビクっとなる等の細かいショットも、感情がキチンと流れていて大好きです。

3時間もあるので見ているほうがすっかりと作品世界に漬かってしまうので、93分のときや、2時間の時とはまったく違う感覚が味わえますね。

映画っていうのは上映時間ごとに観るほうの心構えも変えていく必要があるのかもしれませんね。