パンチドランク・ラブ★★★
ポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作。
相変わらずロバート・エルスウィットの撮影が、アンダーソンの奇を衒う事を全く躊躇わない演出にこたえて素晴らしい。無意味とも思えるほどキチンとした構図や配色などなど。手持ちと固定の使い分けもギクっとするような使い方があったりして凄い。
「マグノリア」や「ブギーナイツ」では、詰め込めるだけ詰め込んだ群集劇を描いたアンダーソンだが、今回は出きるだけそぎ落とした一人の男の話を描いている。
癇癪もちの主人公を演じるアダム・サンドラーはかなりいい感じの癇癪加減だが、本当の(元)癇癪持ちからすればまだまだ甘いところはある。ただ、癇癪持ちが持つ周りには傍迷惑なだけだが自分にとっては凄く辛い症状が良く描かれていて、アンダーソン自身がそうでないならリサーチが良く出来ている。特に壁をぶん殴ってしまって、その痛さがまた癇癪を引き起こす辺りはリアルだ。
良く混同されるが癇癪とヒステリーは違う。
ヒステリーは周りの人間に対してのアプローチの側面が強いが、癇癪は自分自身の中で起こるので周りにはまるで説得力がない。はははは。
まあ、そういう特殊な人間を主人公に据えていながら、話自体は何故かロマンチックな展開で進み、それでいながらフィリップ・シーモア・ホフマン演じるセックス・ダイヤル恐喝屋まで絡むという相変わらずのパニック状態。
ギャグとしては微妙に滑りっぱなしのように感じたが、才気ばしったアンダーソンの演出をのんびり堪能するのがいいのかも。
しっかし、本当に無意味な緊張感が漂っているのに、ロマンチックな音楽がフラフラかかっている感覚は独特だなあ。
あと、ジョン・ブライオンとゲイリー・ライドストロームによるサウンド・デザインが独特で、突発的な音の演出などかなり印象深い。