男たち、野獣の輝き

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Beauty Devaisethのファイナル・ファンタジー14新生エオルゼア奮闘記

『しあわせの隠れ場所』★★★1/2

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絵に描いたような美談を嫌味なく語る

中盤、ノーマン・ロックウェルの描いた画が映し出される。

『Freedom from Want』というタイトルで、衣食住が足りて他に望むものがない状態を描いているそうです。フレーム右下のこちらを覗き込んでいる男が実に良い味だしてる。

このノーマン・ロックウェルの作風のように、「漂ってくる幸福感」が実に嫌味なく伝わってくる良作でした。

宗教などには詳しくはないのですが、冒頭でビッグ・マイクとあだ名される巨漢の黒人青年が高校へ編入される場面でも、「義務を果たそう」という台詞が出てきます。

映画全体のイメージとしても、「救済」がテーマになっているようなんですが、ともすれば「絵に描いた餅」のような美談を、押し付けがましくなくそれでいて丁寧な演出でサラッと描いている語り口がいいです。

ジョン・リー・ハンコック監督の映画は初めて観たのですが、細かな心理描写が丁寧で実に好感が持てます。脚本家でもあり本作でも脚本を書いているのですが、最小限の台詞や行動で観客に状況や感情を提示する語り口は実に見事。中でもビッグ・マイクが部屋をあてがわれてベッドに驚くエピソードは秀逸。「ベッドは初めてだ」という台詞で彼の幼少時代の境遇がすべてわかりますし、それを聞いたサンドラ・ブロックが感情を押し殺して別の部屋に行く演出がいい。いくらでもお涙頂戴に出来そうなシーンでもそうはせず、常にユーモアを交えながらホロリとさせる。

サンドラ・ブロック演じる「元チア・リーダー」でもある肝の座ったお母さんは正にキャスティングの勝利。クィントン・アーロン演じるビッグ・マイクも、内向的な内面を目の表情や膝を撫でる仕草などで観客の心をガッチリとつかむ。

中でも儲け役はちっちゃな男の子SJ(ショーン・ジュニア)。コメディ・リリーフとして申し分の無いキャラで、全編何度も大笑いさせてくれる。フィル・コリンズの娘リリー・コリンズもチャーミングで、あの家族の境遇を見事に体現している。

この映画のいいところはいくらでも掘り下げられるドラマを出来る限りサラッと描いているところでしょう。必要以上の事はクドクドと描かない。それでいてキャラクターの造形などは要所々々でキチンと描いているので申し分がない。終盤にちょっとした山場を作るためにギャングの一味が登場する以外は、どの登場人物も心根が良く、余計な不安を煽る鬱陶しい展開も無い。実はそういう要素はストーリーを転がす安易な手段であることが多く、そういう展開になるたびに実際は観客は黙ってストレスに耐えるしかない。もっとも、そういうストレスを好んで観ている人も多いのも事実で是非は問わない。ただ、個人的にはそういう展開は観ていて非常に面倒くさい。なので、この映画のストレスフルな作りは大変好感がもてました。

意外性や二転三転などはまったくない映画ですが、それを普通に最後まで見せてくれる手腕を堪能できる傑作です。

オススメ。